自分に合うもの
朝の仕事を終えたそのあとに、今日は予定を立てている。
森で採取してきた色々な薬草を使い、アイテムの試作をしてみるつもりなんだ。
カルメンさんが来ると追いかけっこになっちゃうから、見つかる前に終わらせたいな。
だって、最近ガーラル院長にお願いをして、勉強を免除してもらっているんだ。
だから、あんまり変なことに時間を取られたくないんだよね。
3人とも成績優秀なので、他のことに時間を使ってよいとのことだ。
まぁ、その代わりにホーンラビットの肉は欠かさないことを約束してある。
まず薬草を使って、HPポーション作りだ!
基本中の基本だし、スキル任せで苦もなくできちゃう。
丸薬とは違い、液体なので木製の容器に入れて保管する。
「よし、人数分は出来たな」
次は持続型HP回復丸薬だけど、実はこれあまり人気がない。
低レベル高レベル共に使いどころが難しい。
それは、MP回復丸薬と併用すると、共に効果が低くなるらしし。
試しに1つ作っただけで袋の中にしまっておいた。
そして次に作るのは、毒草と麻痺草を使ってのチャレンジ。
丸薬タイプの毒薬と痺れ薬だ。
作ったはいいけど、これどうやって使おうかな?
相手は素直に食べてくれないだろうし、粉末にでもする? わからないから保留で。
気を取り直して解毒薬と麻痺回復薬だ。
この2つは、毒薬と痺れ薬と同じ材料で作れてしまう。
少しの分量の違いとスキルの力でチョー簡単。これは用心のためいくつか作っておこう。
正午の鐘の音で、集中していたことに気付いた。
たくさんできたし大満足だよ。
午後はリーブラ雑貨店に納品に行き、そのあと買い物だ。
街のはずれにある鍛冶屋街に来た。
目的はガーラル院長に教えてもらった、カルヴィン鍛冶屋。
代々孤児院の出身者がお世話になっているお店だ。
外から覗くと、すごく活気のあるお店で年配の男性と目があった。
「こんにちは、僕はサン·プルルス教会のガーラル院長より、このお店を紹介してもらったユウマと言います。新しい武器を探しに来ました」
「これは行儀の良い子だね。私はカルヴィン、この店の主だ。ガーラル院長はお元気かね?」
「はい。カルヴィンさんとは、教会でお会いしたいと言っておりました」
「ははは、まっ、早速だが、お前さんの希望もあるだろうが、体に合ったものを見繕うので、少しステータスを見せてもらうよ」
はい、お願いします。
「ステータスオープン。
…………ほぉ、なかなか面白いパラメータだな。
力はまずまず、魔力と素早さの高さが飛び抜けておる。レベル1にしちゃ高めだな。
うむ。お前さん、普段どんな戦い方をしているか教えておくれ」
「はい、いつも忍術で遠くから先制攻撃をします。
それを合図に他の2人と一緒に近寄り、この木剣で頭か首を狙って倒しています。
相手はゴブリンなので、特に被害を受けることなく終わる感じです」
「その忍術ってのは魔法なのか?」
「はい、似たようなものです」
「わかった。まずお前さんに必要なのは、武器を生かすための防具選びだな」
武器屋に来て、防具を進められると思わなかったよ。
「驚くのもわかる。まっ、その理由はだな、お前さんの力・魔力・素早さにある。
この3つの値の高さだと、速攻スタイルの戦い方になるな。つまり」
①遠くから仕掛け
②近づく
③相手の攻撃をかわし
④叩き潰す
「つまりこの4つの動きの中で武器が必要なのは④番のみだ。
①②③では使わず、ここで求められるのか機動力だ。
だからそれを邪魔をしない防具が必要だ」
「しかも、速さを重視するか、はたまた魔力を補い攻撃に上乗せをさせるのかの、スタイルを固めなくちゃいかん。
それを考えられる防具屋を最近見つけたんだ。
お前さんさえ良かったら、紹介状を書くがどうする?」
さすがガーラル院長のお知り合いだけあって、親切に教えてくれる。
でも予算は大丈夫かな? えっ、ピンキリですか……。
武器屋からさほど離れていない、こじんまりとした店に着いた。中に入ると大きな声で。
「いらっしゃいませ。安心と実績であなたをサポート。
防具のことなら我がヘクター防具店にお任せあれ!」
……独特すぎる。
「あのー、防具を先に決めてこいって言われて来たのですが、これ紹介状になります」
「これはこれは。ややっ! カルヴィンって、あのカルヴィン武器店?」
食い入るように手紙を読み続ける店主。
のめり込み過ぎで、目を大きく開き落っこちそうだよ。
「有名なカルヴィンさんとは1度話したいと思っていました。
向こうからこんな手紙を頂けるなんて光栄ですね。
わかりました、任せてください。ではステータスを拝見いたしますね」
カルヴィンさんて凄い人なんだ。簡単に話が通っちゃった。
予算は武器も合わせて金貨10枚。正直に防具までは考えていなかったと話した。
店主のヘクターさんは、店先に並べてある鎧や盾をよそに、店の奥から1つの手甲を持ってきてくれた。
「お客様のスタイルや能力を考慮して、素早さを殺すことのない鎧等ですと、予算オーバーとなってしまいます」
やっぱりそうなっちゃうよね。
それに今使っている鎧はギルド支給のもの。
確かに初期装備の類のものだけど、これはこれでよく考えられ作られた防具だそうだ。
鎧はそのままにして、他の場所を強化するのが良いと、出してきた物を勧められた。
それは柔らかな銀色の手甲で、薄っすらと透き通った青い筋が3本入った綺麗なものだった。
「こちら通常のより長めの作りです。
手の甲から肘の手前まで少し反りをつけてあり、本体は皮を使っております。
ポイントになるこの青い物は、グラウンドタートルの骨なんですよ。
刺突攻撃には弱いですが、斬撃·打撃に強く受け流しに向いた逸品です」
左手にはめてみる。すごく軽くそれでいてしなやかだ。
手首を動かしても邪魔にならないし、もし両手で武器を握っても十分いける。
回避が得意だけど、今後接近戦が増えてくるのであれば、なんらかの防御方法が必要になってくる。
そこで受け流しを、取り入れてはどうかと勧められた。
受け流しは回避主体の動作であり、盾を使うよりはよほど有効であると言われた。
それよりも、この美しさに一目惚れだよ! いったい幾らだろう。
「はい、こちら金貨1枚と銀貨90枚になります」
そこそこ高い……。
布製なら銀貨2枚ってとこだろうが、良いものを使うとそれなりになるのか。
しょうがないか、後でギルドの受け流し講座の申し込みをしておこう。
「お買い上げありがとうございます。
本品の修理・買取も安心と実績であなたをサポートするヘクター防具店をご利用ください。またのお越しをお待ちしております」
最後ので少し疲れたけど、カルヴィンさんがどんな武器を用意しているか楽しみだ。
「早かったじゃねえか。その顔はいいものに出会えたってとこだな」
おかげさまで、満足しています。
「ほぉ、これは良いものを……金貨1枚と銀貨90枚で受け流しか。う~んなるほどな!」
「やはりアイツを紹介して正解だっぜ。
考え方も間違っちゃいねえし、この逸品ときた。よし、じゃあこっちの番だ」
おもむろに、3本のショートソードを取り出した。
「まずこいつだが、ヘクターが魔力重視で考えるかと思って用意したものだ。
素材は一般鋼で少し短めだが、柄のところに魔石が埋め込まれていて、付与効果で魔力を上げてくれる代物だ。
だが、こいつはこの防具にあっちゃいねぇ」
そう言うと後ろへ下げた。
「ここからが本番だ。
まずこいつの素材は同じく一般鋼の片刃剣のショートソードだ。
長さ重さも一般的だが刀身に粘りがあり、その粘りが切れ味を高めてくれる。ほれ、持ってみろ」
うっすらと濡れたような刀身、刃先の鋭さも見とれてしまう。
振ってみると、ス――――ッと空気をも裂く感じがする。す、凄い……。
カルヴィンさんはニヤッと笑うと、今度は厚手のククリナイフをカウンターに置いた。
「お次はこいつだ。素材は同じく一般鋼。
同じタイプのより少し大きめで、厚さ・重量があり、斬るというよりは『刈る』といったショートソードだ。
特徴としては、重心を刃先に持ってきていて、その分厚みと握り手をしっかりとさせてある。ほれ」
確かに重い。振り回される事はないが、振ると剣の力強さが伝わってくる。
「そいつは重量があるから攻撃力も高いぞ。ゴブリンの首根っこも一撃だろうよ。
ただ、振り抜くのが前提だし、防御力が高い敵だと途中で刃が止まってしまう。
よっぽどの力がないと、場合によっては扱いが難しい代物だよ」
「その点、2番目に出したこいつはお勧めだ!
斬ることに特化し、振り切ることで次への流れも作れるんだ」
確かにこの片刃剣には魅力がある。一体感も悪くない。
しかし、こっちのククリナイフも気になる。
でも、強敵と対峙したときの事を考えるとなぁ……。あっ、あれがあるじゃん!!
「カルヴィンさん、実は僕こちらの方が気になるんです。
さっき言われた『力がないと』てことなんですが、スキルで力を補ってはダメですか?」
よく使う風遁の術・疾風、これでキメの一撃を放つなら、もしかしていけるかもしれない。
カルヴィンさんに促され、木材で試し切りをすることにした。腕ほどの太さだ。
【風遁の術・疾風】(力を)
ズバッとキマリ難なく断ち切る。
「ほぉ、次は少し太いぞ」
胴回りもほどもある太さだが、これも真っ二つ。
「うむ、少し待ってろ。…………これは無理だろうが一度やってみるか?」
なにやら、白くてブヨブヨした塊を持ってきた。
ちょっと気合を入れて試したが、5分の1も刃が通らず途中で止まってしまった。
「おお~! 凄い、ここまで斬れるのか。いける、いけるぞ坊主!
これはジャイアントオーガの腕だ。
骨はもちろん、皮膚·筋肉に至るまで硬さと弾力を兼ね備えたモンスターだ。
それをレベル1でここまでいける斬撃なら、どんな敵にでも通用するぞ」
嬉しい。人に評価されて、それも思いのほか高いと素直に嬉しい。
「それでだ。値段の方は片刃の方が金貨7枚で、あとのほうが金貨8枚と銀貨60枚だ」
たっかーーーー!
いや、買えるけど、やっぱり武器って身を守るものだから高いみたい……悩むなぁ。
「すまんな。もっと安いものもあるんだが、お前を見たら、ついこのクラスの物でないとって思ってな。どうする他のも見るか?」
買います、買わせて頂きます。ククリナイフ格好いいもん。
でも防具と合わせて金貨10枚越えって……仕方ないか。
「ついでにもう1つ良いですか? 柄の先に紐を付けてください」
「ストラップか? いいけど、かっこ悪くねぇか?」
忍術で印を結んだり、アイテムを使うときに両手が空いてるほうが、便利だと思うんだけどなぁ。
「まっ、人それぞれだからな。分かった任しておけ」
聞かれもせずにピンクに決められたので、慌てて変更。僕のことを坊主って言ってるくせにさ。
「それと坊主。この木剣を見ると、相手の攻撃を剣で受けているみたいだな。
できたら、受け流しか回避に専念しみな。
いやなにね。剣で受けてもいいんだが受ければその分脆くなる。
特に強い斬撃を放つなら、いざって時にその脆さが仇になるからよ」
「『受けるもので受け、斬るもので斬れ』だ。まぁ、がんばれよ」
それからの毎日は、ハンナに心配をかけさせない程度に抑えた狩りをした。
新しい武器にもなれ、薬草探しにも精を出し、いつもの森でゴブリンを刈る毎日。
だがその森の中、誰も気づかない異変が起きていた。
後日それを目の前にした僕たちは、只々呆然とするしかなかったのだ。