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和をもって商いとす

 次の日の午後は休息日なので、街にあるリーブラ錬金雑貨店という、お店に向かった。

 薬製作に、必要な道具を買うつもりだ。


 今回作るのは丸薬になるので、すり鉢のセットと干す為の網だけを買い、孤児院へ帰る。


 裏庭の片隅で作業開始だ。

 作り方だけど、スキルとは大したもので、術や魔法と同じ。

 どうしたら良いのかが、ちゃんと分かるんだ。


 作るのは、持続効果型のMP回復丸薬だ。

 MP回復ポーションも、魔力草からできるけど、携帯するのに便利な丸薬を選んだ。


 材料も少なくて、採取した魔力草と、水遁の術の薬水だけ。

 すり鉢で魔力草をすりおろし、適量の薬水を加え練る。


 あとは小分けにして丸め、天日で干すだけだ。


 言葉でいうと今の通りだよ。


 要所要所でスキル【 薬製作 】が発動して、正しい方向に持って行ってくれる。

 自動運転アシスト機能みたいなものかな。便利で過信しちゃいそうだよ。


 次の日、2人にお願いをして、丸薬の効果を確かめてもらった。


 ゴブリン相手では、なかなかMPを使うスキルを、頻繁に発動するのは難しい。

 そこは無駄打ちをしたりと、なんとか検証することができた。


 性能は12秒にMP1を回復して、それが4時間のあいだ続いた。

 街に帰ってきても、まだ続いてるのが笑える。


 その足で、昨日行った錬金雑貨店へ付き合ってもらった。


「いらっしゃい。この前の子だね、どうだい上手く作れたかな?」


「はい、使い易い道具ありがとうございました。

 これが出来上がったものなのですが、買い取ってもらえるでしょうか?」


「どれどれ失礼するよ…………」


 服用せずに見るだけでわかるんだ、凄い。


「君、これはどうやって作ったのだい?」


 やっぱり失敗か。最初っからうまくいくはずないもんね。

 何処がいけないのだろう、教えてもらえるかな。


「いやいや失敗どころか、効果がすごいんだ。通常のと比べ回復量が多いし、時間も長い」


 …………ん?


「……解っていない顔だね。いいかい、こちらがこの店で、1つ銀貨1枚で売っている丸薬だ。

 効果は1分毎に回復MP3で、効果時間は1時間」


 うん、同じ丸薬ですね。


「それに対して君のは、12秒毎にMP1しかも4時間も続くんだよ。

 こんなに差がある品物は初めてだよ。何をしたらこうなる。教えてくれ」


 すごい迫力。優しいおじさんの変わりようがちょっと怖い。


 初めて作ったもので、普通との違いをと言われても分からいないです。


「いや、こちらこそすまない。

 こんなすごい事、レシピにしろスキルにしろ、おいそれと話せるわけないのに。

 すまない。マナー違反だった。………それにしても素晴らしい」


 いえ、そんなに誉められると照れますよ。


「これ買い取りといったよね! 是非売って欲しい。

 できるなら、定期的に仕入れたいのだが、可能かい?」


 いきなり大きな話になってきたよ。嬉しいけど、どうしよう。


 定期的とはどれくらいの量なんだろう。


 僕は駆け出しだけど、冒険者として頑張っていきたい。

 量が多いと対応しきれないし、それと値段が気になるかな。


「それについては、このMP回復丸薬の凄さを、世間に受け止めさせるようにと考えているよ。

 ズバリ、1日限定5個。売り値を銀貨12枚にと思っている」


 メチャクチャな数字が出てきたよ。


 店の12倍の値段って、いくら性能良くても高すぎで売れないでしょ。

 せめて、性能にそった値段にしたほうがいいじゃないかな。


「君は冒険者を続けていくと言ったよね。それがあるから、この値段にしたんだよ」


「あ、そうか。ユウマくん、この人の考えがわかったよ」


 ポーどういう事?


「効果に対する価値と、需要に対する価値ですよ」


 益々分かんないと、頭を抱えていると丁寧に教えてくれた。


 まず効果の対比だけど、店のものに比べて僕のは約6.6倍もの回復量がある。

 これを仮に値段に反映させると、銀貨6枚·銅貨60枚だ。


 その値段で売り出したら、みんなどちらを買うかだ。

 同じ価値なら、一回の服用で手間のいらない方を選ぶ。


 それともし、もっと安い値段で売ったとしたら、他の薬師の丸薬が売れなくなってしまう。


 そうすると他の薬師さんは作ることをやめたり、他の所へ行ってしまうかもしれない。

 そのうえで、僕までも辞めてしまったら、街はどうなってしまうだろう。


 丸薬が一切、手に入らなくなってしまうってことだ。


「なかなかいい読みだね。彼の言った通りだ。他の薬師を駆逐し、市場を独占するなら始めは安価でいい。

 この丸薬には、それを可能にする力がある」


 だけど、それはできないし、やってはいけない事。


 つまりこういう事だ。


 1. 他の職人の反感を買わない値段設定

 2. ターゲット層をワンランク上げる

 3. 効果+需要を考えると、一般の10倍は欲しい


 一般の丸薬が買える客層は、その効果内で満足している。


 現実として1時間の中、戦闘回数はそう多くはない。

 休憩時間が多く、銀貨1枚が限界となってくる。


 しかしベテランになってくると、戦闘回数が増え、時間も長く動けるので稼ぎが良い。

 おのずと出せる金額も上がってくる。


 だからその客層が、ギリギリ出せるであろう、銀貨12枚にしたのだそうだ。


「はぁ、勉強になりますね。ユウマ君」


「ははは、そして数量限定は、購買意欲を高める為と、宣伝効果を期待してのものだよ。

 それと買い占めをさせない対策も、ちゃんとするからね」


 1日に5個ということは、月に150個か。


 値段はわかりましたが、月に150個ができるかはまだわかりません。

 魔力草の群生地も多く知らないですし、3ヶ月ぐらい様子みても構いませんか?


「それでいいよ。それより買取金額だが、売値の75%でどうだろう?」


 ポーが言うには破格らしい。

 値段交渉の練習なるかと思っていたけど、するまでもないそうだ。

 是非受けてみてはどうかと言われたよ。


 そこまで言われると、儲けが心配になったので聞いてみた。


「君がいい人だね。その代わりの条件だが、私の店での専売にさせてほしい。

 この丸薬で儲けが少なくても、これ目当てでお客が増えれば、ほかで利益が見込めるからね」


 店主と握手をした後、2人に相談をした。


 僕1人では薬草集めは無理なので、2人に手伝って欲しいのだ。

 その代わりに、利益を等分にするからどうだろう?


 それに対し、2人は反対してきた。

 薬草採取は手伝うが作るのは僕だし、その儲けは僕が取るべきだと言っている。


 頑としてる譲らない2人。

 結局、採集するときの日当と、パーティでの狩りをするとき、MP丸薬を1人1個渡すことで落ち着いた。


 あははは、2人の頑固さには笑っちゃうよ。


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