スキルって便利だね
ホーンラビットの、肉の買い取り価格が上がり、自分たちの資金が増える。
それにより今後の未来のことを、より現実的に考えるようになった。
増えた収入もそのままで良いのか。更にもっと増やす方法はないのか。
良い武器も欲しいし、お金もいっぱいあったほうが、いいに決まっている。
いつまでも、木剣と解体用のシースナイフなのも嫌だしね。
「俺も今持っている、ラウンドシールドを、グレードアップさせたいしなぁ。
盾術のスキルランクは上げておかないと、騎士団の試験も受けられないぜ」
名前も知らない誰かを、力のない誰かを守れる騎士となり、悲しむ人を失くしたい。
真っ直ぐなベルトランらしい夢だ。
ポーに関しては、回復魔法があるので治療師や、神官を目指すのかと思っていたら、なんと商人が良いそうだ。
とにかく、お金、お金と細かいのはそのせいなのか。
「ええ、お金大事じゃないですか?
あれば大抵の事はなんとかなりますし、大商人ともなれば、世界各地へ行って、それまで知らなかった品も扱える。
素晴らしいと思いませんか?」
何にしても大きく稼ぎたい。
そして話し合った結果、狩る獲物をゴブリンに変更することにした。
ドロップアイテムや、解体で得られるものはない反面、討伐部位証明の右耳を、ギルドに持っていけば、銀貨3枚にもなるんだ。
しかも、ゴブリンの一人歩きが少なく、常に2~4人で行動をしている。
狩りにくいけど、大きく稼げるんだ。
それと森には、薬草などの採集物もあり、一石二鳥だよ。
そのための作戦会議だ。
「2匹3匹の時は良いんだ。
だけど4匹となると、先制攻撃で1匹倒したとしても、こちらと同数。
位置取りによったら、こちらが1人に対して、向こうが2匹になるパターンが怖いぜ」
「そうですね。いくら弱いゴブリンとはいえ、一撃もらう可能性が出てきますね。
連戦を想定していますから、MPも温存しておきたいですしね」
それなんだけどさ、僕まだ試していない術があるんだよね。
それでどうにか、出来るんじゃないかな。
「お、何か良い案か?」
ふふふふ、それは〝分身の術〞なんだ。
これは非常にコスパが良い。1体につきMP1で現在レベル×1体を作り出せる。
早速いつもの草原で、ホーンラビット相手に試してみる。
「それじゃ、いくね。【分身の術】」
印を結び発動させると、自分そっくりなもう1人の自分がすぐ横に現れた。
分かっていたけど驚いちゃう。
「これが分身の術かよ、すげー! 何もかも同じじゃん」
「ふはははっははー、どっちが本物か分かるかな?」
「分かる訳ないだろ。馬鹿やってないで、検証始めるぞ」
つれない…………。もう少し楽しませてくれてもいいじゃんか。
でも検証の結果、色々なことが確認できた。
「見た限り、本体と全く同じ動きではないですね。
攻撃箇所も違っていましたし、自由度が高いのでしょう」
「それと別々の敵にも対応できそうだし、使えそうだぜ」
これが1つの大きな利点だと思う。
目をつぶったりして試したのだが、流石に僕が認識していない敵には行動を起こさない。
逆に、一度でも見たり意識を向けた敵には、うまく立ち回ってくれる。
これで喋ってくれたり、忍術を使ってくれたら最高なんだけど、それはないみたい。ざんねん。
それと、1度でも攻撃を受ければ、立ち消える。HPの概念がないのかな。
それでも、1度出したら、意識して消さない限り、存在し続けるようだ。
「よし、基本こちらからの先制攻撃の場合、ユウマの鎌鼬で1匹を仕留めてくれ。
その後は左が俺、真ん中が影分身で、右がユウマ。
ポーは補助として動く作戦でいいな」
「いよいよ森へ進出ですね。もっと時間がかかると思っていたので、少し緊張しますね」
「ねぇ、失敗しないかな?」
「大丈夫、俺たちなら仲間を気にかけられる。
強い弱いじゃない。お互いを信じて助け合う。これがあれば間違いはないぜ」
「「そうだね、やろう!」」
本当に緊張する。でも周りは見えているから大丈夫さ。
森へ入って少し行った場所で、ベルトランがゴブリンを見つけた。
いきなりの4匹パーティか。しかし、心は決まっていて、お互いを見合わせて頷く。
深い呼吸をして印を結ぶ。僕の術の発動が開戦の合図だ。
まだこちらに気づいていないし、この距離ならいける。
【風遁の術・鎌鼬】
5つの刃が、ゴブリンの首元を後ろから襲う。突然の仲間の事態に騒ぐ3匹。
雄叫びをあげたベルトランが突っ込むよ。
はやっ、 影分身君も早く行ってあげて。
ベルトランの迫力に、左の2匹が惹きつけられる。
それをフォローする形で、影分身とポーが斜め後ろから駆けつけた。
残る1匹は僕のほうへ向かってくるが、動きがすごく遅い。
攻撃されるのを、律儀に待っている必要もないので、木剣で首を打つとあっけなく倒れた。
あまりにも簡単で信じられなく、念のためナイフでとどめを刺しておいた。
振り返り見ると、2人は右耳をもうすでに取っていた。
「なんか……あっけないね……」
「あぁ……」
勝った喜びよりも、一太刀で勝てたという事に恐怖を感じた。
この一太刀も、敵が力のある者だったのなら、結果は反対になっていたかもしれない。
そのことにみんなも気付いていたようだ。
……でも勝てた。しかも一気に稼いだよ。
「今は素直に喜ぼうぜ。……それよりこのクズ魔石をどうするかだ。決めていなかったよな」
ホーンラビットの場合は、解体途中で取り出していたが、ゴブリンは解体しない。
わざわざ、体を開かなければいけなくて、面倒臭い。
「1個銅貨5枚のクズ魔石なんて、いらないですよ。やめておきましょうよ」
時間がかかるし、次の獲物を探したほうが効率いいもんね。
そして今度は、2匹のゴブリンを見つけた。
「今度も鎌鼬から始めるけど、ポーと影分身は待機をしていてくれ。
その代わり周囲を警戒して、何かあったら声がけを頼む」
2匹だともっとあっけない。簡単なのはいい事だと思いながら、右耳を取っていると。
「やはりもう1匹いましたよ。右手のほうから戻ってきます」
ポーのおかげで奇襲は受けずに助かったよ。
この快勝後も森の深い場所を避けて、次々とこなして行き、いつしかひらけた場所に着いた。
見通しもよく、警戒もしやすい場所なので、少し休憩をいれる事にした。
倒木に腰をかけ水を飲んでいると、ポーが足元で何か見つけた。
「これって、魔力草じゃないですか?」
お、すごそうな名前が出てきた。高価格での買取の予感。
「たくさん生えているな。1人10株ぐらい持って帰ろうか。いい金になるぞ」
オォ~、いいね~。でも何かどこかで聞いような名前だけど、どこだっただろう?
「ユウマ、取り方教えるからこっちこいよ」
今いくよ。
「いいか、根っこごと掘り出すには、主幹の根が必ず南へ伸びている。
だから、南側のこの辺りをこう……刃を入れると。
……ホラ簡単に質の良いのが採れる。やってみな、あまり採りすぎるなよ」
これも初めてのことなので、すごくワクワクする。
そして採取している最中に、さっき引っかかったことを思い出した。
この魔力草って薬製作のレシピにあるじゃん。
僕が取った分は、売らなくても良いか聞いてみよう。
「いいんじゃないですか。それはユウマ君の取り分だし、好きにしたらいいですよ。でもどうするつもりですか?」
実は僕のスキルに使えるかもって思ってね。
「それは楽しみですね。どうなったか、あとで教えてくださいよ」
この魔力草の使い道は、帰ってからのお楽しみ。
その日は、時間いっぱいまでゴブリンを狩り、合計16匹となった。
「なんか稼ぎすごくない?」
「ああ、ここまでいくとは思わなかったぜ」
「それより2人とも何か忘れていませんか?」
「ギルドで報酬をもらうまでは、気を抜くなってことだろ。ポーは真面目だな」
「いいえ。私も今になって気づきましたが、ノルマのホーンラビットがまだです」
「しまった! 今日の夕食分忘れていた。急ごうぜ」
こんな日に限ってなかなか獲物が見つからない。
遅くなり、調理当番さんにすごく文句を言われちゃった。ごめんね。
ユウマ君が生き生きしている様子を、表現できるよう描いていきたいです。