ステルススキル
僕の名前はハットリユウマ。14歳になったばかりです。
僕はいま、暗くて何もない空間に、一人でいるんだ。
本当に何もない。町中のはずなのに、車や街並み、雑多な音さえ何一つないんだ。
おかしいよ。さっきまで、部活のランニングをしていたんだよ。
なのに、突然1人でこんな所にいるなんて信じられないよ。
いくら助けを求めても、反応する人なんていないんだ。
いや、叫んだ声が、闇の中に吸収されて、誰にも届かないのかもしれない。
広がる闇に僕は怖くなり、手探りですがるけど、地面があるかすらも怪しいよ。
すると、目の前に何処からか、女の人が現れたんだ。
その人はニッコリと笑いかけてきて、とても綺麗な人だった。
よ、良かった~。僕の他にも人がいたよ。
誰かがいるという安心感。こんなにも大切だとは思わなかったよ。
でも、ちょっとおかしい。こんな状況なのに、この人は慌てる様子もなく、手にはゴルフクラブを持っているよ。
そして、その女の人は、おもむろにクラブを構えたと思ったら、僕をボールのように打ち放ったんだ。
「ヒィィィィーッ!」
痛みより、その仕打ちにビックリだよ。
フルスイングで撃ち抜かれた僕は、ドンドン遠くへ飛ばされていく。
いつまでたっても失速しないし、なんなのこのおかしな状態は。
それにあの女の人。挨拶もせずに、いきなりブッ叩いてくるなんて、なんて人なんだ。
こんな状況なのに、意外と僕は冷静に考えていた。
多分それは、僕がいつも1人でいるってことに、慣れているせいなんだ。
いわゆる、〝ぼっち〞てヤツだ。
いや、ちょっと見栄を張ったかな。
正直にいうと、究極の〝ステルスぼっち〞とでもいうか、存在感のないぼっちなんだ。
例えば、目線が合わないのはしょっちゅうで、声をかけても、振り向かれないのは当たり前。
逆に、何かのグループに紛れ込んでも、注意されることなく、1日過ごせるほどなんだ。
でもたまに、僕のことを気付いてくれる人もいる。
この前も、いつものクラスメイトが、仲間とこっちの方を見て喋っていた。
「あれって転校生か? いきなり席に座っているって、ちょっとおかしくない?」
「いや、あれは~……あれだよ。名前を忘れたけど、たぶん以前からいる子だよ」
出ました。存在感のない僕に、辛辣な一言。
入学からずっと一緒のクラスなのに、仲間として認識されていない。……悲しすぎるよ。
「やだなぁ。この前まで、君の後ろの席だったよ」
僕が勇気を出してそう言っても、クラスメイトはキョトンとした顔で、不思議そうにしているだけ。そして。
「えっと……何かの話をしていたよな? ……うーん、まぁいいか」
うーーーーっ! まただよ。2人のこのやり取りこれで何回目?
毎度毎度、同じこと言ってさ。
サザ○さんのオープニングのアニメですら、時々変えてきているよ。
たまには、『ゴメン、ゴメン』とか言ってほしいよ。
これだけ聞くと、イジメじゃないのって思うよね。
僕も最初は、なんて意地悪な2人なんだって疑ったよ。
でも、彼らはわざと無視したり、意地悪しているんじゃないんだ。
不思議な事なんだけど、僕の声や姿の印象が、スーッと消えるみたい。
まえに一度、明るいキャラで接したら、何か変わるかもしれないと思い、プライドを捨てて大バクチに出てみた。
明るいキャラといえば、お笑い芸人。
関西風ツッコミをして、一気に人気者になってみせると意気込んで、〝あれ誰だ?〞を待っていた。
そして『あっ、来た』とすかさず。
「ま、前からおるっちゅーねん」
「…………ん?」
し、しまった。間が悪かったし、声も小さすぎた。ヒィィィー!
はずい、ハズイ、恥ずかしすぎるー。大スベりで心折れそう、大撃沈だー。
……でも、これで良くも悪くも、印象には残ったはずさ。
もしかしたら、これで変なあだ名とか、つけられるかもしれないかも。それはそれで嫌かな。
でも、そんな心配をよそに、次の週には同じ人がまた、〝あれ誰だろう?〞て本気で言っていたよ。
あの大スベりに意味すらないなんて、信じられないよ。
変なあだ名でも良いからほしかったよ、グスン。
最終的に、〝このクラスには、いつの間にか居なくなるナゾの転校生がいる〞だなんて噂になっているし。
はははは……。そうなんだよね、気づかれない方が悪いのかな。
まぁ、こんな感じが僕の日常なんです。
だけどボッチだってね、悪いことばかりじゃないよ。
無駄なお喋りをしないから、授業や部活にも集中できるし、結果的に両方とも、いい成績を残している。 エッヘン!
ただ、みんなが注目する一番ではなく、2番目か3番目でしかないけどね。
その部活は水泳部に入っていて、手を抜かずに頑張ってきた。
それにタイムも伸びて、県大会レベルだし、次の大会が楽しみなんだ。
絶対メンバーに入りたい。あぁ神さまお願いです。僕にチャンスをください。
大目立ちのチャンスをお願いします~。
今日のメニュー、外回りのランニングを始める。
このランニングだって、勝つため、目立つため、人気者になるための一歩なんだ。
そんなことを考えながら、学校の周りの道路を走り続けていると、急に変な音が聞こえてきた。
――ピッシューフン――
そして次に、黒い雨のようなものが降ってきたんだ。
「うわ、なんだこれ? みんな早く学校に戻るよ」
変な天気だと思いつつも、校舎に向かって急いで走る。
すると、今度は昼間にも関わらず、辺りが急に夜のような暗さになったんだ。
「なに、何、どうしたの?」
「ドッキリか何か?」
突然のことで、みんなも戸惑っている。
星のような明かりで朧気ながら、人影はわかるけど、動くのもためらっちゃう。
「みんな静かに! と、とにかく落ち着こうよ」
キャプテンの声だ、良かった。みんないるみたいだよ。
「キャプテン、これどういう事だよ?」
「僕に聞かれても分かんないよ!」
でもこの状況も、長くは続かなかった。
朧げに見えていた人影が、1人、また1人と消えていったんだ。
ど、ど、どうしよう。
焦った僕は思わず、仲間の体を掴み、押し留めようとしたんだよ。
それでも、叶わず人はどんどん消えていく。
そうして、最後に残された僕。
呆けていると、綺麗なのに変な女性の登場。
そして、理不尽なフルスイング。
そんな、さっきあった事を振り返っていても、止まることはなく、ひたすら暗闇の中を飛んでいる。
ははは、なんなのこれ? 誰にも説明できない事が起こっているし、入ってくる情報は全くない。
ただ、こんな状況も終わりを迎える。
それは始まりと同じく、何の前触れもなく、いきなりだったんだ。
読んで頂きありがとうございます。いかがでしたでしょうか?
【ざまぁ追放もの長編、スタートのお知らせです】
#22年1月24日(月曜日)の【朝】に、連続投稿を開始します。夜まで、頑張ります。
《題名》
最強無能者のメチャ七変化!~追放された俺は、神スキル【全てを叶える者】を覚醒させ、世界を聖女と笑い飛ばす。 勇者? イケメン? チッチッチ。それらすべてを超えてやる
こちらとは違う【追放もの】の【ざまぁ】ハイファンタジーです。
※~※第9話から敵貴族の没落が始まり、第11話に心強い味方、幼なじみの聖女が登場します。
ロリッ子ドワーフの登場は、第1章の後半までガマンして下さい。