歌姫♂は今日はファッション
総合評価100ポイント行きました! ありがとうございます!
「なんとなく買っちゃった」
毎日テレビのニュースや芸能人の話でも聞くほど社会現象を起こした大人気の刃で戦うバトルアニメとユニクロニクルのコラボパーカー。一店舗百着しか販売しないうえにいつ売られるかもわからなかい幻とも言われる一品。
新しい服を買おうと店内を回っていたら目の前でゲリラ販売が始まったので思わず手に取ってしまった。作品に興味ない訳じゃないけどグッズ買うほどある訳でもない。
戻そうとも考えたけど残りの99着を求めて我先にと取り合っている。戦場なんてものじゃない。たとえ怪我しようと転んで踏まれようと殴られようと意地でもその手を服に伸ばす。まさに聖○戦争でも見ているようだ。あんな状況で戻しに行きたくない。だから買ってしまった。
一着既に買ったが引き続き服を見ようとした瞬間、背中に衝撃が走っり勢い良く前に倒れた。
「いた! っ〜〜?! ちょっと?! 離して! それ私のよ!」
知らない人が買い物袋を無理矢理取ろうとしてくる。しかし力強く引っ張ると袋が破れるのを心配してか私の手から引き剥がそうとしてくる。
「店員さん! 無理矢理取ろうとしてきます!」
「うるせえ! さっさとよこせ!」
私の訴えをかき消す様に大声で恐喝してくる。だめだ! 似たようなこと皆売り場で言ってる! 店員さんもそっちの対応でこっちに気づいてない! でもこれはもう私のもの! 絶対に離すものか! せっかく買った物を取られてたまるか!
「さっさと離せこのやろう!」
「それは?! やめ!」
知らない人が手を握りしめて大振りに私に振りかざしてくる。咄嗟に買い物袋から手を離し守る態勢に入るも怖くて目を閉じてしまった。
しかし、いくら経っても衝撃が来ないので恐る恐る目を開けると知らない人が苦痛の表情を浮かべていた。腕を捕まれ変な方向へ曲げられて今にも折れそうな状態だった。掴んでいたのは毎日学校で見るほどに見慣れた人だった。
「晴夜くん?!」
「いででででででで!!!!」
咄嗟に叫ぶと彼は怒りの表情で知らない人の腕を捻る。あれは痛い。本当に痛い。
「防犯カメラに写ってるんだ! 不正すれば速攻でバレるぞ窃盗やろう!!!」
そう言うと同時に手を離す。知らない人が一目散に逃げると彼は心配そうな表情で手を差し伸べる。
「大丈夫か? 宇多聴、怪我はない?」
「うん、大丈夫。平気。助けてくれてありがとうございます」
その手を取って立ち上がる。大丈夫だと伝えると良かったと一言ってその場から消えた。いや消えたように見えるぐらい早かっただけなんだけど、探すと服の争奪戦に参加していた。
しかしその直後に完売の旗がドン! と掲げられる。もうパーカーが無いとわかると客はさっさと店から出るがその場には膝と手を突いて愕然とする晴夜の姿があった。
「畜生、買えなかった」
カラオケの時の会計で彼の財布を見たが例のアニメとのコラボ財布だったのを見るとあの服の目当てで買いに来たことは用意に推測できた。先程助けてもらった時点で既に服が乱れていたので争奪戦からわざわざ抜けて来てくれたのだと推測できる。私に構わなかったらもしかしたら買えたかもしれないのに。
「あの、晴夜君」
「うん」
「このパーカー、いる?」
「うん……え?!」
驚いた表情で勢い良く立ち上がる。震えた腕をあげて私の持つ買い物袋を指差す。
「欲しいけど、まさかくれるというのか?」
「助けてくれたお礼に、実はあまり興味無いのに買っちゃったんだよね。別の服を買おうと思ってたから誰か買い取ってくれると助かるんだけどな〜」
「マジで言ってる?」
「うん。つい手に取っちゃっただけだし聖○戦争やってる所に戻すのも嫌だったから買っただけだから。それに助けてくれたお礼もあるしね」
「女神様がいる。本当に実在したんだ」
泣くほど?! 希望に満ち溢れた様な顔でこちらを見る。そこまで欲しかったのか。と、なるとなんだか少しイタズラ心が疼いちゃうな。助けてもらってあれだけどこのまま買い取ってもらうだけだと私損しかしてないからちょっと付き合ってもらおう。
「ただしちょっと付き合ってくれたらね」
「何に付き合えばいいんだ?」
私は不敵な笑みをわざと浮かべる。
着衣室。カーテンによって遮断される中の状況。一度閉められたら次に開くときは前とは違うモノが見える。閉められた見えない間は開かれた時何を見るかドキドキする。人とは情報の大半を視覚で得る。その変化もまた、外見という視覚以外では認識することのできない変化。
だから人は求めてしまうのだろう。ファッションと言う存在を。そしてそれが『可愛い』を生み出すのならなおさら。
「これもパーカーの為にパーカーのためぇぇ」
カーテンが開かれ目に映るのは水色の半袖にスカート、その上から白いエプロンドレス。可愛らしい顔に明るくゆるふわで子供な印象な服の中普通の色の筈の黒髪が異彩になっており不思議な感じを得る。恥じらいながらスカートを必死に抑えており僅かに心配の表情が混じっていた。おそらく男物の下着が見えないか心配なのだろうがそれは知っているからそう思えるのであり『視覚』だけに頼って見ると恥ずかしがっているのではなく日本という初めて降り立つ国に緊張してスカートを抑える『不思議の国のアリス』が目に写った。
可 愛 い 世 界