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歌姫♂の今日と約束

なんかどんどん長くなっている気がする。

「ゴメンさない。取り乱しちゃって」


「俺こそ性別を言わなくてすみません」


 互いに正座しながら申し訳なさそうにする。いくら服装が男物でも女として認識される可能性があったなんて、反省しないといけないな。


 さっきから妹の方が警戒心を出しながら様子を窺っている。


「姉様に男姉様に男姉様に男」


(かえ)ちゃん、さっきも説明したとおり荷物を持ってくれた人なのよ」


「偶然怪我させてしまうフリをして優しさを出して家に上がり込んで襲う魂胆だったんでしょうけど残念ですね。私がいる限り好きにさせないです。姉様、今度から外に出るときはこれを持ってください」


「なにこれ?」


「スタンガンです。ただの防衛アイテムです」


「物騒すぎるだろ」


 ただし威力は底上げしてますとか聞こえた気がするけど気のせいだろう。


「? わかったわ、そのすたんがん? を常に持っていれば良いのね?」


 いや物ぐらいわかっておけよ! と言うかどこで手に入れたんだ? Amaz○nなのか、Am○zonだよな。小学生が気軽に買える方法なんてそれぐらいしか思いつかない。

 使い方をレクチャーしている。


「あ、そろそろ夕飯の準備しなきゃ」


「姉様は今手首を痛めてるので今日は出前にしましょう」


「そ、そうだねそうしましょう」


 (はっぱ)さんは困った顔をした。そうか、節約する為に自炊しているのに食材買い足した側から値の張る出前は財布にキツイ。かと言ってそれは妹には悟られたくないみたいだ。


「キッチン借りますよ。俺が夕飯作ります」


 そう言って隣のリビングにあるキッチンに向かう。


「え、でも」


「手首は俺のせいでもありますし」


「そこまでして貰うのは流石に申し訳がたたないです」


「魚を買ったのにさっきの騒動で直ぐに冷凍庫にしまえなかったので鮮度が落ちてます。これ以上落として味も落ちてしまったらそれこそ漁船の人達に申し訳がたたないでしょう」


「そういう事でしたら、お言葉に甘えさせて頂きます」


 あっちが折れたので俺は調理を開始する。

 鮭ならポワレで良いかな。他の家でホイル焼きとかは自信ないし。


「あ、あの何か手伝えることは」


 葉がそう言うも簡単な料理だし別に……あ


「キッチンペーパーはありますか」


「あります。ここに」


「ありがとうございます」


「あれ? 二人分しか無い様に見えますけど」


「俺の分は無いですね。初めてあった人の家でご飯を食べるのは図々しいし、これ作り終わったら帰ります」


「それじゃあ何もお礼もできないです!」


 そう言って何かを考えた末キッチンから離れて行った。その間に仕上げた料理を机の上に並べる。

 葉が戻ってきたと思ったら鰹節を手に持っていた。


「今はこんな物しかありませんがいずれちゃんとお礼します!」


「え、いや、その」


「あ! 鰹節削り器なんて都会にはありませんよね、ごめんなさい直ぐに持ってきます!」


 忙しそうに足を動かす。まああの程度なら手首は悪化しないだろうがどっかで転びそうで怖い。


「わかります。姉様はドジっ子ですから」


「そう言うお前はクソガキだな」


「あれれ〜? そんな事言って良いんですか〜? 『歌姫』って事ネットに晒しても良いんですか〜?」


 イタズラっ子のような、小悪魔のような表情で煽るように言ってくる。

 え? ちょっと待て、バレてる? もしかしてあの一言でバレた? いや証拠があるわけじゃない。


「なんの事かな?」


「さっきの『はなして』の音声を解析したら『歌姫』と一致しました。証拠だってあるんですよほら〜」


 見せてくるスマホの画面には解析データが表示されていた。確かに完全に一致している。え? マジで言ってる? 何この子、怖すぎない?

 動揺を隠せないどころか恐怖すらあらわになる。


「どうやって録音したんだよ」


「姉様の服に付けた盗聴器に決まってるじゃないですか。もしも姉様に悪い虫が寄り付いたら大変じゃないですか。ただでさえ家にはお金が少ないんです。騙し取られでもしたら最悪殺します。あ、盗聴器はそこらのゴミで作ったのでタダです」  


「クソガキってレベルじゃねぇやべぇ奴だ」


 俺の秘密を握ってるからってペラペラ喋ってるけどどうしようもなく対処のしようがない。けれどあの感じだと姉の葉にさえ近づかなければ無害そうだ。うん、早く立ち去ろう。


「お待たせしました! これ鰹節削り器です!」


 葉が戻ってくると一瞬にして悪戯っ子の顔から見た目相応の笑顔に変わる。このクソガキをどうにかしないと。


「あの、大丈夫ですか?」


「え? いや、大丈夫です。わざわざありがとうございます。俺はこれで失礼します」 


 いち早く立ち去りたい所に礼の品を受け取るという丁度よい理由が現れたので一目散に玄関へ向かう。


「待ってください! その持ち方は危ないです! 刃物なのでちゃんと布に包んでキャッ?!」


 逃げるように玄関へ向かおうとする俺の腕を掴むも同時にドアの下段に躓く。


「危ない!」


 咄嗟に振り返って受け止める。幸いにも床に手をついていないし怪我もないようだ。


「あ、ありがとうございます。て、血が出てます!」


 言われて右の指を見ると確かに出ていた。その手を葉が優しく掴んだと思ったら自身の口で指を咥えた。


「え? あ、へ?」


 唐突の事で一瞬頭が真っ白になる。暖かく、ヌメッとしているものの柔らかい舌が傷口を優しく舐める。


「あっ」


 あまりの気持ちの良さに声が出てしまう。今度は指がひんやりと冷たく感じると顔を真っ赤にした葉が目に映る。


「ごめんなさい! 男性相手に! はしたない!」


「いえ、そんな事無いです! 俺こそ話を聞かずに申し訳ない!」


 指を舐められた! 女の子に指をなめられた! あんな美人に! か、考えるな! ここで顔を赤くしたら変態だと思われる! 

 全力で鰹節削り器を布に包み荷物を持って家を出る。  


「お、お邪魔しました!」


「あ、あの!」


 まだなにかあるのか?! 振り向くな! 絶対に今顔が真っ赤だ!   


「は、はい!」


「手首が治ったらうちにご飯を食べに来てください!」


 いずれするちゃんとしたお礼、その約束を今、俺につけようとしていた。相手を見ずに約束をするのはダメな気がしたから俺は振り帰って答える。


「わかった! その時は是非ともおねがいします!」  


 振り戻って全力で走る。互いに赤くなった顔と恥ずかしさを誤魔化す為に声を張った。吹いた風が濡れた指を冷やすも頭までは冷やしてくれなかった。












いつもブクマと評価ありがとうございます!

私は指じゃなく耳を舐められたいです。

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