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歌姫♂は今日は噛みつかれる

一話一恥だと主人公一人だけでは無理だと気づいた。


晴夜(はるや)さんって同い年だったんですね! 若いのに主婦の皆さんに打ち勝つなんて凄いです! 私なんてまだ人混みにすら慣れて無くて全くあの場に入れないんですよ」


「馴れですね。戦場にいると考えて本気で行かないと取れないですよ」


 葉っぱ模様の緑の和服、後ろの長いストレートの黒髪が和服にかかり風が靡く度に隙間から和服の柄が見え隠れする。四季(しき)(はっぱ)の家に向かう途中。葉という名は彼女の名前。最近上京したばかりで妹と二人暮しで俺も姉貴と二人暮しと言う事もあり意気投合する。


「妹と二人暮しなのでなるべく節約したいと思っているのになかなか上手くいかなくて」


「自炊するだけでも食費費は結構うきますよ。とは言っても二人暮しじゃなかなか難しいですよね、風呂なんか最悪シャワーで最低限に抑えられますけど湯船には浸かりたいですしね」


「はい、妹もいますので生活の質を下げたくないですし心配もかけさせたくないです」


 十六で上京なんて滅多にない。全寮制の学校ならともかくそれだと妹との二人暮しに説明がつかないし、家庭事情が複雑なのだろう、聞かないでおこう。

 節約と言う悩みは金が無い限り一生取り払えない品物だ。十六歳がそれを気にしないほどに稼ぐことなんて滅多にない。最近は動画投稿サイトでようつべらーとして稼ぐ人もいるが多くは小遣い程度しか稼げない。それで食っていける人なんてそうそういない。


「あ、つきました。ここです」


 そこは雑誌にも取り上げられる程の有名な料亭。の横の築数十年は経ってそうな少し古い2階建ての木造の家だった。葉が鍵を開けて入る。


(かえ)ちゃんただいま〜」


 ワンテンポ遅れて上からドタドタと足音が聞こえる。前に見える階段ヘ移動してくると勢い良く降りてきたのは例の妹だろう。


「おかえりなさい姉様! 家事は終えました! さあ早くその食材を冷蔵庫にしまってゲームしま……しょう?」


 笑顔満点で降りてきたのは明らかに小学生だった。てっきり中学生かと思ったが、いや見た目で判断しては行けない。

 俺を見るやその笑顔は一瞬で消え去りそのまま俺の腕に飛びかかり噛み付いてくる。


「いってぇ?! 離せ!」


「ちょっと(かえ)ちゃん?! 」


「貴方は誰ですか何のようですか姉様をたぶらかしたんですか! たぶらかしたんですね! あげませんよ姉様は私の姉様です! 貴様のようなどこの馬の骨かもわからない男に取られてたまるもんですか!」


 ちょっと何この子?! 本気で噛み付いてきてないか?! 駄目だ振り回しても離す気配がない! 葉も楓の足をを掴んで引き剥がそうとする。


「離せこんちくしょう!」


「楓ちゃん今すぐやめなさい! 」


「嫌です! 良いですか姉様! 都会の男どもは皆猛獣です! 姉様は美人なんですから二人っきりにでもなった瞬間襲われますよ! あんなことやこんなことされてしまいには変なお店に連れてかれて夜な夜なその体が汚れる仕事をさせられるんですよ!」


「噛みながら良く喋るなこの子?!」


 全力で噛み付いてくる楓を片腕で必死に剥がそうとする葉だがこのままだと怪我してる方の腕でも引張りかねない。仕方ない、一言だ。子供相手ならバレないだろう!


 噛みつかれている腕を近づけて楓の耳元で『歌姫』の声で囁く。


「離して」


「はい」  


 先程までの執念が嘘みたいに簡単に引き剥がせた。葉が足を掴んでいたこともありそのまま頭だけが下に落ちて顔面が床に激突する。


「楓ちゃん大丈夫?! もう、噛み付くのが行けないですよ! 妹がいきなりごめんなさい! ほら! 早く楓ちゃんもちゃんと謝って! いきなり人に噛み付いてはいけませんよ! ごめんなさい! 痛くなかったでしょうか! 楓ちゃんも顔大丈夫? あ! 制服が、本当にごめんなさい!」


 心配と怒りと罪悪感と申し訳さなからが入り混じりながらコロコロと表情を変える。

 楓が立ち上がると鼻血がたらっと出る。


「鼻血?! えっとティッシュティッシュ! そうだリビングに」


「ポケットティッシュがありますよ」


 葉がティッシュで妹の鼻を抑える。幸せそうな顔をしてるのは気のせいか?


「全くもう、抑えててあげるからちゃんと謝りなさい」


「噛み付いてごめんなさい」


 さっきまでの獣のような警戒心はどこへ行った?


「噛みついた事だけじゃなありませんよ。女性に向かって男なんて失礼です。それも謝って」


「へ?」


「え?」


 あれ? 今俺は制服だよね。男物の制服着てるよね。楓もポカンとした表情を見せると苦笑いで確認する。


「あの、姉様?」


「はい」


「学校の制服ってご存知ですか?」


「当たり前じゃない。中学まで通ってたんだから」


「でしたらズボンって女物でしたっけ?」  


「何言っているの、女物はスカートでしょ……」


 俺の方を見る。ヒラヒラしたスカートはそこに無く、ネクタイも可愛らしい蝶々では無くビシッと真っ直ぐに整えられている。  


「すまん、良く見た目で間違えられるが制服だったしわかってるつもりでした」


 まさか女と間違えられていたとは。葉は見る見る顔が赤くなり表情も次第に驚きに変わっていく。


「男性を家に上げちゃった私もうお嫁に行けない!」


 そう言って勢い良く玄関を飛び出してしまった。


「待ってください姉様! この人はオカマです! 変態です! なのでノーカンです!」


「おいちょま?! あらぬ誤解だ! 俺はもともとこの顔だ! あ、おい待てクソガキ!!」






いつもブックマーク、評価してくださる方ありがとうございます!

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