歌姫♂の体育祭は騎馬戦(後編)
誤字報告ありがとうございます。
仕事あけ徹夜エナドリ書きました回はこれで終わります。消されないか心配です。
俺が相手だ。なんて言ったが嘘だ。何故なら俺の勝ちだから。武露切は敵の馬に乗るわけには行かない。つまり俺が立っているんだ矢島の馬に乗れない。
「じゃあな」
武露切が矢島を踏みつけて跳んでくると同時に俺も後ろに飛ぶ。俺自身の馬に飛び移る。これで武露切は反則負け。俺も安全に戻れる。騎馬の粋を超えた作戦。俺達の勝ちだ。
「うおおおおおおおおお!!!」
目を疑った。武露切にタックルする者が現れたからだ。ダイビングタックル。決死の覚悟のように叫んでいた。武露切自身も驚いていた。矢島の馬に乗ることはなくそのまま地面に落ちる。とはならなかった。
「勇気とは何か! 恐怖を我が物にすること!!!」
誰か二人が落ちる武露切達を体を張って下敷きになった。滑って自ら下敷きになった為に腕には擦り傷が出来ていた。よく見たらそいつらは武露切の馬達だった。
「危なかったな…………武露切」
血が流れる腕で親指を立てる。
「何かが怖いだ。友に弱点があったらそれを克服するのも友だ。お前が性欲に瀬戸際で勝った。だからハチマキを使い、矢島を倒して生き残った。だから俺達も勝てた。恐怖に」
「……………………」
「騎馬戦は騎手と馬、共に戦う競技。俺達にも戦わせてくれ」
「……………ふふ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 」
せーので武露切達は立ち上がった。その瞬間がチャンスだったのに誰も動かなかった。
「いてて…………流石に怪我した手足に力入れると痛むな」
「ああ、だけど無理しようぜ。優勝に一番に近づくんだ」
「行くぞ相棒。俺達の力見せようぜ」
「流石我が友と褒めてやりたいところだ! いつかあの優勝杯を持ちたいと眺めていたな…………」
武露切はニヤッと笑った。
「持たせてやろう!」
そこに悪魔はいなかった。いるのは騎馬。本来あるべき姿の戦士。そして、この場に置いて最強の戦士。
俺たちは騎馬だったのだろうか? 馬を無碍に扱い、踏みつぶし、誇り高き騎手として戦おうとしたのか? 下衆な作戦で勝とうとしていた。
「……………………………せーの」
唐突に言った。でも、それだけで俺の馬はわかっていた。立ち上がり、俺は馬に乗る。
「騎馬戦は騎手が戦うんじゃない。馬も一緒なんだ。俺達が完璧な足取りをすれば勝てるさ。あの元悪魔にだって」
顔は見えないけれどきっと笑っている。きっと闘志に溢れている。さっき誰もチャンスを見過ごしたのはきっとこれの為だったんだろう。
「悪いが武露切、俺達は勝つために同盟を組んでお前を倒す。始めようぜ、知略と死力を尽くす騎馬戦を!」
「いくら雑魚の騎馬を集めた所ではこの俺達を超えることはできぬ!!! さあ来い! ここがお前達の死に場所だ!!!」
『うおおおおおおおおおお!!!』
そこには本来の騎馬戦の姿があった。馬と騎手が一心同体になり敵のハチマキを取ろうとする。不利な現状を覆そうと手を組み強敵を倒そうとする。双葉が指示を出し陣を組み、C組の騎馬を減らしていく。このまま行けば倒せるだろう。しかし、4つのクラスの同盟。裏切りが出る。一位は無理でも2位になろうとするD組。
武露切の持つ大量のハチマキを奪おうと暗躍するE組。
「なんてやつだ」
「体よ持ってくれ! リミッター解除ぉ!!! 」
双葉は脳のリミッターを焼き切って100%の力を出す。バイト先直伝の技らしい。それでも武露切には勝てない。
「これで終わらせる!」
晴! お前の出番だ!
俺は声を出さずに歌う。眼の前の世界が遮断される。歌うのは熱く、戦いの歌。すぐに晴夜に戻る。本来なら俺の感情はリセットされる。でも、こんなにもテンションが高いんだ! 引き継がれる集中力、熱い思い。100%とは行かない。でも、今までにないぐらい力を引き出せた。その力で武露切に立ち向かう。
「うおおおおおおおおお!!!」
「いっけええええええええ!」
きっとこれは昔からの友人だったからだろう。他クラスであるはずの俺と双葉は阿吽の呼吸で連携を取り、力を合わせただけじゃないさらに大幅パワーアップして一気に武露切を倒すことに成功した。
「バーカーなー!!!」
その直後、時間切れのブザーがなる。
「はあ、はあ、はあ」
騎馬として俺は立った。生き残った。手にはハチマキが握られていた。
「………いつの間に」
夢中で取りに行っていたのに、夢中過ぎて気づかなかった。
こうして騎馬戦は終わった。最初っから夢中になれれば良かった。だって、そうなったら結果がどうであれ最後に一つ絶対に思うことがある。
楽しかっただ。
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