歌姫♂の体育祭は応援合戦
ついに人前で歌います。
双葉が。
「…………」
周りからの視線が凄い。期待が凄い。昼休みが終わってしまった。次は応援合戦、しかもどういうわけかクラスごとに1名代表でLIVE。A組の代表で俺は歌う。5クラスあるなかで一番期待されている。何故なら日白さんの知り合いであること。自分で言うのも何だが声が良い。そして普通に目立っている。人前で歌う。一人で、あのときとは違う。
メインが俺だ。
どのクラスが歌うかはクジだが一番はやめてくれ。皆がいるから『晴』になれない。どこかで歌って緊張を消すか? だめだ。『歌姫』の声は透き通りすぎる。マイク無しで口ずさんだだけでこの学校にいる人達全員に聞こえるだろう。
「晴夜君。顔色悪いけど大丈夫?」
日白さんが心配してくれている。そうだ、この人は良く人前で歌っているんだ。
「いざLIVEが始まるとなると緊張が止まらなくて、どうすれば良いんでしょうか」
「緊張かぁ、それは仕方ないね。私も良くするよ。良し! 一つアドバイスをしよう!」
共感した日白さんはまっかせなさい! とドヤ顔でグッドする。
「目を閉じて」
従う。視界が真っ暗だ。
「LIVEハウス。ステージの上に立っている自分。観客」
やばい。想像してるだけでも緊張する。
「拳銃を持っています」
ん? ん? ん? ん? ん? ん?
「頭を撃ち抜きます」
「ちょっとまって」
目を開けておかしくないかと訴える。当たり前じゃん。と言いたげな顔が帰ってきた。
「緊張なんて簡単に吹き飛ばせるよ。ね」
確かに、今は緊張してない。
「持つのをマイクに変えて、撃つのを歌うに変えるだけ。簡単でしょ? それでも駄目だったら……………………」
「だめだったら?」
「……………………」
「………………?」
「えっと……………」
日白さんの目が泳ぎ始める
「まあ、観客をおにぎりとでも思えば良いんじゃないかな?」
「思いつかなかっただけですよね」
「うん」
人を人と思わなければ何とかなる、のか?
『くじの結果最初はB組です。2番目はA組。3番目は〜』
ほ、俺が最初じゃなくて良かった。不運にも一番最初は誰かな。B組は双葉か。あいつ緊張しなさそう。
「できるだけ頑張ってみます」
「頑張って」
俺は自分の席に戻る。応援合戦が始まった。クラスごとに掛け声がある。その後にLIVE。
『それそれそれそれ! わっしょい! わっしょい! 』
最初にB組が掛け声で盛り上げていく。クラスの全員のテンションがアゲアゲになったところで双葉が校庭のど真ん中にある台の上に猛ダッシュで勢いよく乗ってマイクスタンドを剣を突き立てるような感じて手を添える。
「悪いな。こっから先は俺の番だ」
二刀流の人の声でそういう。さらに盛り上がった。マイクスタンドを短くして掴むと持ち上げ、その状態で歌い始める。
戦う少年の歌。数々の戦いを乗り越えて成長し、仲間と共に次のステージへと進む。激しく、熱く、盛大で、必死。戦って、戦って、戦って。まだまだ終わらない。そしていつしか見えた景色。それはきっと良いだろう。勝利という達成感。傷ついた剣と言う生きた証。仲間と言う英雄の心。
「行くぞ!」
サビ直前に入れた一声。それが一気に全員の合いの手を戦場に連れて行く。空気が震える。闘志に燃えた戦士達はその気迫で他を圧倒する。それを先導する一人の英雄。
サビが終わると戦いも終わる。だがまだ終わっていない。
「お前ら! 勝つぞ!」
『おおおおおおおおおお!!!!!!』
一致団結するB組。その気迫に感化され他のクラスも対抗心がさらに強くなる。
「俺達も行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
俺達の番だ。A組の応援団長が敵に負けないように声を張り上げる。
『おおおおおおおおお!!』
俺も感化されていた。緊張など既に吹き飛んでいる。このテンションのまま行けば歌うときも大丈夫だ。日白さんにアドバイスを求めたのも杞憂で終わりそうだ。
『よいよいよいよい!!!!! 元気だしていこう!! 強くなっていこう!!! 一番の敵は自分勝てば最強!! 敵なし負け無し俺達究極戦士!!』
B組に負けるなァァァ!!! 双葉に買ってやる!! おらぁ! このまま歌ってさらに盛り上げて俺達A組が応援大賞を取ってポイントももらう!! そして勝つ!! 今年の優勝カップもこの俺が掲げてやるぞぉぉぉぉぉ!
このテンションのまま校庭中央の台に向かう。気分が良い。良すぎて緊張どころか歌を歌いたい気分だ。これだ。この気持ち、この感覚! LIVEで感じたこの大喝采! これをさらに俺の歌で盛り上げる! よっしゃぁ! やってやらぁ!
台の上に飛び乗ってマイクを派手に掴む。
このまま『一番』になる! 俺の歌を聞けぇ!
俺が台に立つと、荒ぶり高まったテンションのA組とそれに感化されてた他の組の人達、そしてそれに便乗して羽目を外すように盛り上がる観客全員の目線が俺の方へ向く。
『一番期待されている』
…………………………………………最悪の一文を思い出した。
ハイテンションによって上げられた『気持ち』が『期待』だと理解した瞬間、極限まで高まった『気迫』が一瞬にして俺に対する『重圧』に変わった。
たった一文で意味を変えられる。それが吉か凶か。
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