歌姫♂は今日が初めて
お気に入りが一気に5人も増えて8人?! あざます!
「あれ? おかしいな。見当たらない」
カラオケの約束を(無理矢理)して当日。晴夜君…じゃなくて結月君が見当たらない。ラーインには来てるって連絡あるから近くにいる筈なんだけど。
駅前の時計台の前。待ち合わせにピッタリな場所の為電車に乗る乗らない関係なく待ち人が多い。しかし密集しているわけでもないので見渡せば見つけられると思っていたがそうもいかない。互いに私服がどんなのか検討がつかないのもあるかもしれないが女子の私から見ても頭一つ抜けて可愛い顔の持ち主を見つけられないのはなぜだろう。
『さっきから目の前にいるんだけど』
「え?」
ラーインに入った文字が目線を目の前に固定させる。そこにいたのは別におかしな格好でもないのに一際目立つ人物。
白色に黄色単色のウサギが一匹胸あたりに大きくプリントされたパーカー。ズボンは黒く黄色の丸がはっきりと一つ右太もも辺りに。今がトレンドの少しぶかぶかサイズの大きいフードが可愛らしい顔を小さく見せ萌え袖が手をか弱そうに少しだけ見せる。まるで月から太陽の元へ飛び出してはしゃいでいるウサギを愛でる少女。両手で持っているスマホは小さく真っ赤になった顔を隠しきれず肝心の隠れている表情が容易に想像できてしまう。
「………//」
めっっっっちゃ可愛いんですけど。何あれ小動物なのですか? 本当に男? と言うか何で女装してるの?
と、そんなこと考えている場合じゃない。見つかったのだから早くカラオケに行かないと。
「ごめんなさい、全く気づかなかったわ。てっきり男の格好で来るのかと」
とは言え目の前にいたのに気づかなかったのは申し訳ない。謝罪をするとスマホをゆっくりとおろしポケットにしまう。露わになった表情は想像と違い普通の顔をしていた。
「早く行こう」
いや違う。声が震えてる。平常心を保とうと必死になってる。
「そうね、早く行きましょう」
これ以上ここに留まってたら誰かに声をかけられるのではないかと不安になってしまい、結月君は恥ずかしさからか早歩きで目的地へ向かう。だいたい人通りが少なくなった所で疑問を投げかける。
「どうして女装して来たの?」
それをお前がいうかと言わんばかりに睨まれた。あれ〜?
「宇多聴が『結月晴』にカラオケの約束をしたから俺も『結月晴』として来たんじゃないか」
ああ、そう捉えちゃったのね。それは予想外。あれ? でも動画内での結月君って女物の服って着てなかったような。女物に近い男女兼用の服を着てたきがする。それについて質問する。
「あの服は姉貴のだから借りようとしたんだ。そしたら姉貴が面白がって女性用の服を渡して来たんだよ。ふざけんなよ、昔から着せ替え人形みたいに女物の服を着せられたけどそんな格好で外に出るのは今日が初めてだったんだよ」
「あ、なんかごめんなさい」
明らかな憎しみを込めて発言される言葉に反射的に謝罪が口から出る。あくまでも性別不名を通していたのに今の結月君は完全に女の子みたい。
そんな会話をしていたら目的地についた。ここのカラオケ店は扉が防音になっており歌声が外に漏れる心配は無い。流石にすり抜ける声でも防音には勝てない。多分。
「はいマイク。何から歌うの? 」
「え、宇田聴は歌わないの?」
「私は聞き専なので」
「まあ、歌うのは好きだし、需要と供給て事で」
結月が曲を入れるとマイクを手に取り立ち上がる。あの『歌姫』が目の前で、生で歌う! 一体どんな曲を歌うんだろう!
胸がたかまる。鼓動が早くなる。誰もが憧れる存在が目の前。客は私だけ。
「スゥ……」
全ての神経が耳に集中したのがわかった。
「ポ○モン! GETだぜ!」
吹いた。