歌姫♂の体育祭は障害物
シオンタウンって怖くね?
「…………なんで俺が障害物なんだよ」
不満を込めて体育祭実行委員に文句を言う。前日からやると決めていたのなら不満はあっても文句は言わなかっただろう。だが当日、しかも競技直前にだ。障害物を動かす係の一人がが怪我をしたらしい。軽い怪我だがまだ競技に出る関係上負担はかけたくないそうだ。
「だからってなんで俺」
正直競技を終えた直後だしマラソンの事も考えると出たくない。借り物競走も出るんだそ俺は。昼休憩明けとは言え騎馬戦にも。あれ、おれ出る競技多くない?
「まあまあやれば良いじゃん」
宇多聴が何故か首を突っ込んでくる。何か笑ってないか? 悪人ヅラしてる。 俺の耳元で囁いてくる。
「A組が通るときは軽く、他のクラスにはきつく邪魔すれば」
「それは反則だ」
「ええ」
バレないように耳元で言ったようだが俺は堂々と言う。実行委員も宇多聴に軽蔑の目で見る。
「冗談だよ冗談」
冗談じゃないようで逃げるように立ち去る。正直俺も思った。
「あういうのがいるから平等にやってくれそうな人に声をかけてるんだよ」
「ああ言ってるけど宇多聴なら平等にやるだろうな。それ以前に宇多聴は参加する側だから無理だけど…………まあ他に有利になられたら困るしやるよ」
「ありがとうございます!!」
深々と頭を下げられる。
『次の競技は障害物競争だぁ! 成長してがたいの良くなった3年生が早いか!! まだ成長途中だがすばしっこい一年の方が早いか! 問題児だらけの2年が以外に早いか! 実況はこの俺季慈露双葉がお送りするぜ!』
2年の紹介雑すぎない? またしれっと奪ってるし。
ちなみに障害物はボウリングのピンにもした着ぐるみ(やけにデカく物凄く動きづらい)を着て妨害する。個人の思考、私情が現れて不平等なのではないかと言われているが各組から二人ずつ配置されているので大した問題でもないだろう。らしい。
『毎年私怨によって極端に邪魔される人が出る人間ボウリングゾーン! 今度は誰が犠牲者だー!』
私怨…………ありまくりだわ! 特に宇多聴! よし決めた。宇多聴だけは邪魔しよう。
『よーい……どん!』
『障害物競争は縄くぐり、跳び箱、ハードル、飴玉探し、うさぎ飛び袋、ピンポン玉スプーン、人間ボウリングを抜けてゴールする競技! 小柄な人が基本的に有利だ! 』
唯一事前準備が無い競技な為に皆苦戦する。3年だからといって1年に勝てるわけでもない。その為下剋上がたまに起きたりする。我先にと焦りからか欲張って大きく前にジャンプして倒れるうさぎ飛び袋。慎重になれなくて落としてしますピンポン玉スプーン。倒れるハードル。それでも何とかリードを保てても人間ボウリングによって阻まれる事がよくある。
「おらぁ!」
「通さねぇ!」
「てめえは絶対にいかせねぇ!」
動きづらい為にせいぜい一人を僅かにしか妨害できないが私怨の強い人達は特定の人に対して特攻を持っているようで物凄い勢いでタックルしていく。
もはや伝統芸当となっている。度々思うが毎年こんなことやってPTAに怒られないだろうか。
次から次へ順位が決まりどのクラスも得点が均衡しているように見える。そしてある意味俺にとって本命とも言える番になった。
『宇多聴選手早い! 本人いわく登山など良くやっているようでこう言う障害物を乗り越えるのは得意との事! バランス感覚もお手の物、ぶっちぎりで最後のゾーンに突入!』
宇多聴は迷いなく俺のいる方へ走っていく。同じ組なら無意識下でも手加減してくれると踏んでいるだろう。ほとんどの走者がそうだった。ゴリ押しもいたけど。
「女装写真を広めた怨み! 晴らしてくれるわぁ!」
「ちょっと?! なんでピンポイントに私だけ狙うの?!」
絶対に通さねぇ。同じ組とか関係ねえ個人的に通したくねえ!
引き剥がそうとしてくる宇多聴の足を意地でも離さない。叩いたりしてくるが着ぐるみ越しなので痛くも痒くもねえ!
『ぶっはぁ! ピンの一人がキレイなタックルを決めた! 絶対に通さない完全なる私怨! 晴夜の女装写真を広めた罰か?! 高画質は高値で取引されてるとかないとか!』
「はあ?! またかよ! 」
何回取引されるんだよ俺の写真!
「高画質で取引ってどう言うことだ! お前しか持ってねえはずだろ!」
メッセージアプリは高画質の写真は送れない関係上店から直で貰った宇多聴と俺以外の持っていない。勿論俺はばらまくつもりはない為に犯人は宇多聴しかいない。
「私じゃないわよ! と言うか離しなさい! このままだと一位取れないから! 負けるから!」
何とか拘束から逃れた左足で全力で蹴ってくる。残念! 着ぐるみ越しでした!
「お前以外に誰がいる! 他の奴に勝ってもらえばいい! 少なくともお前にはここで負けてもらう! 」
「矢島とかが解析して高画質に処理してるから! 」
「てめえのせいには変わりねえ!」
「こいつ! 何があろうと離さない気だ! ああ! ちょっと待って!」
追いついた後走者たちが次々に宇多聴を通り越していく。
「ざまあ見ろ!」
ガッツポーズしたらその隙に逃げられた。けどまあこれであいつの負けだ!
『宇多聴選手一位ゴール!』
「は?」
え? なんで?
『まさかのヘッドスライディングゴール! 何という執念! 意地でも一位を勝ち取っていく! 』
あいつどんだけだよ! ハードル走でスライディングした俺も人の事言えないけど勝つ為に体張りすぎだろ!
「と言うか双葉てめえ! よくも言いやがったな!」
『さて、次のレースは』
「おいこらぁ!」
この後醜態晒しまくった事に気がついて席に戻り次第ジャージ被って椅子の下に引きこもった。
双葉がこんなにも目立っているのには理由があります。がこの晴夜が主人公のこの小説では書かないです。




