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歌姫♂は今日はチラシ

休日より仕事ある日の方が筆が進むのは何故だろう。

風が吹く。走って温まった体には丁度よい。気持ちが良い。そう思っているとチラシが一つ飛んできた。偶然にも私の前を通るものだからつい掴んでしまった。せっかくなので休憩がてら立ち止まって見てみる。


「おま、え。今の良く、とれるな」


少し後ろで走っていた晴夜(はるや)も立ち止まる。凄く疲れている訳ではないが膝に手を突く程ではある。


「と言うか、宇多聴(うたき)って案外、体力あるんだな」


「いやぁ、趣味で色んなところに行ってるから」


疲れて汗も結構かいている。私に合わせるとか言うから。聞き専の私は音楽を聴くにも場所や状況をを選ぶこともある。それが山の頂上であったり崖の上だったり、大雨の中だったり今みたいに走っている時だったり。


「前にも聞いたけど、音楽を聴く為にそんな行動力があるやつなんて、宇多聴ぐらいしかいないと思う」


確かに、初日の出の曲を聞きたいからって山のふもとまで電車に乗って歌詞にある通り暗い中登山して見に行くなんて私ぐらいだろう。でも音楽を追体験する事でよりその歌に深く入り込める。世界が見える。


「私ぐらいだろうね。にしてもこのチラシ、歌自慢大会? 飛び入り参加ありのカラオケ大会だって」


話題をチラシの内容に変える。なにかのチャンネルで喉自慢とかあったけどそんなたぐいかな。


「へぇ、年齢、経歴、プロアマ問わずかぁ」


興味津々にチラシを覗いてくる。歌い手として活動しようか悩んでいたみたいだし丁度よい所に文字通り飛んできたモノだ。


「飛び入りだとオリジナル曲や機械に入ってない曲は歌えないみたいだから確実に歌いたいなら応募しないとね」


「開催日は……体育祭の後か。丁度良いし応募しようかな」


「ねえ、応募参加、飛び入り参加どっちもしてみない?」


「は?」


ポカンと晴夜は顔を傾げる。そうすれば2回参加できる……なんて単純な理由じゃない。


「『歌風晴夜』と『結月晴(ゆづきはる)』どっちもで参加するってこと」


「はぁ?! 嫌だぞ! 絶対嫌だ! 晴夜としてならまだいい。晴としてはやだ!」


「大丈夫だって、変装すれば。最悪仮面で顔隠せば良いし」


「そう言って俺にまた女装させる気だろ!」


「うん。だって女装可愛かったんだもん」


そう言ってこの前女装したときの写真を見せる。実はあの後店員さんから撮った写真を貰っていた。

私は欲望に忠実です。


「なっ?! なんであるんだよ! あの時撮らなかっただろ!」


「美少女なこと」


顔を赤くしてスマホを取ろうとしてくる。あの時と全く同じ状況だ。だが疲れている相手に取られるほど私は弱くない。 


「嫌ならばら撒いても良いんだよ?」


「ちくしょう! 絶対とってやる! そして歌わん! うお?!」


「あ」


疲れているせいか無理矢理取ろうとしてバランスを崩す。すると伸ばした手はジャージ越しではあるが私の胸を掴んだ。何とかこけずに踏ん張った晴夜は反射的に手を引く。


「やわらか、す、すまん!」


「感想まで言うな」


流石に予想外過ぎてむしろ冷静なままだった。


「なんか予想外過ぎてどうでも良くなったからとりあえず女装した奴クラスの皆に送っといた」


「あああああああああああああああああああああああああ!!! もうお婿にいけねえええええ!! ざけんな! 俺が悪いけどざけんな! 今日から俺はどんな顔で学校に行けばいいんだよ! 恥ずかしくて行けねえよ!」


「嘘よ、冗談だよ。流石にあんな早く送れないよ」


送ったけど


「え、マジ?」


「うん。マジだから落ち着いて。胸触られて少し怒っただけだから」


「すまん」


「許す」


一回落ち着く。そして話を戻す。疑問に思った事を口に出す。


「どうしてそこまで『晴』として人前で歌いたくないの?」


「人前で歌ったら本当に男としての尊厳を失いそうだからと言うのもあるけど一番はバレたらヤバいから。ネットで一時期話題になったろ? 有名人が数ある人脈を使って探し出そうとしたりネット民が特定しようとしたり」


「ああ、結局何もわからずじまいで終わったやつか」


「そうそう、姉貴が俺に辿り着かないようにしてるけどそこで俺がリスクを犯すような事はしたくない」


音楽関係の会社は何としてでも見つけようと探偵を雇ったとか噂が立つほどの騒動だったの覚えてる。今の時代写真一枚で特定できるのに一切の情報が出ないって晴夜のお姉さんって何者?


「う〜ん、仕方ないか」


あの騒動ほどでは無いけれど今でも『歌姫』を見つけ出そうとする人達は沢山いる。ネットの掲示板を見ればわかるけど東京に住んでいるのではないかと言う噂が出回っている。そこから進展は無いけれどそれでも絞られている。


「でも活動を始めたら自然ともう片方の活動が衰退するんじゃないかな」


「週3つ出すときもあれは3週間一つしか出さないこともあるし気分やだから大丈夫だと思う。特定しづらいようにわざとそうやってたし」


「抜かりなさすぎじゃない?」


「当たり前だ。宇多聴は歌自慢大会大会行くのか?」


「絶対行くね。聞き専としては聞き逃せない」


なんか話がすぐに脱線するなぁ。晴夜が無理矢理戻してくれた。歌自慢大会、私の知らない歌がたくさんあるんだろうな。各々気持ちを込めた歌が聞ける。最高。それにしても人前で歌う……か。

小さい頃歌手になりたい夢があった。中学になって本気になって、無理だとわかって挫折して。今では苦い思い出だけと、気が向いたら歌おうかな。飛び入り参加ありだし


「それじゃあこの話は終わりだな。休憩終了」


「そうだね」


私達はそう言ってランニングを再開する。


晴夜が初めての自分の意思で立つステージが決まった。けれど実際にはこれより早くその機会が訪れるとは思わなかった。




正直チラシから晴夜を恥ずかしめるのは無理がありすぎた。でもなんとかなったからブクマして?

(酷いブクマ稼ぎ)

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