歌姫♂と歌姫(飯)の今日はLIVE
レビューありがとうございます!
PV1万超ありがとうございました!
ステージの上、満席を超える観客全員の目線が俺と言うどこの誰かもわからない男性に向く。羨ましそう、妬ましそう、嬉しそう、残念そう、それでも俺を見ているという事は変わらない。
汗が止まらない。初めて立つステージ。合唱コンクールでの『他の人がいる』『主役は私達』とは訳が違う。『主役は有名人』『他じゃなく俺を見ている』スポットライトが圧を与えてくるようで重く感じる。
俺の全身を緊張が走り回って身震いを起こす。
「きみ、名前は何ていうの?」
「あの、その、は、晴夜です」
「晴夜君! 男性なのに女の子みたいだね!」
「うおおおおおおおお!!」
「ビク?!」
俺が男性だとわかった瞬間会場が盛り上がる。男の娘キターーー!!! と誰かが叫ぶ。今から歌うのにどんどん期待が上がっていく気がする。と言うか間違えて本名言ってしまった?! このまま緊張で上手く歌えなかったら…………
『よくも日白ちゃんのLIVEを台無しにしてくれたな』
『特定しました』
『ちょっwwまっwww下手すぎwwww』
『死ね』
あああああああああああああああああ!!! やっちまった! でも『結月晴』としては歌えないし、ちゃんと歌える自信がない!
でもステージに立った以上腹をくくるしかない。この声でちゃんと歌うのは何年ぶりだろう。落ち着け、落ち着け! 心臓がうるさすぎる!
「ふふ、緊張しているね。表情が硬いよ。ゆっくり深呼吸して」
日白さんが優しく声をかけてくれている。柔らかい声がクッションのように俺の心を包み込む。
「吸ってぇ……吐いてぇ……吸ってぇ……吐いてぇ……」
落ち着いた。俺以上にプレッシャーがある筈なのに全く緊張していないように見える。凄い。これが本物。ステージに立つ人の強さ。
「準備は良い?」
憧れの人物が隣に立っている。緊張が抜けた分憧れと嬉しさが入る。精一杯歌おう。
「………はい!」
曲が流れる。日白さんの柔らかい声が静かに、ゆっくりと、少女を歌う。
そこに掌を合わせるように少年を歌う。
ぎこちなく、噛み合わない歌声。初めての出逢いに初めての気持ちに戸惑う二人。性別は違う。好きな食べ物だってわからない。だけど互いに一つ確信できる事があった。
歌うのが大好き。
たった1つの共通点が二人を会わせ、思いと歌声が重なり始める。
手探りで、何が好きなのか、嫌いなもの、得意なもの、嫌なこと、趣味。少年と少女は知っていく。少しずつ噛み合い、ハーモニーが出来上がり始める。
だがどこか物足りない。気づくのに時間がかかった。二人は互いに合わせようとして一つの共通点に自分全てを詰め込もうとしていた。少しずつ自分を見せようとして反発が起きる。最初よりも酷く、全く噛み合わなくなった。歌声が喧嘩し互いを潰し合うような酷い不協和音。
二人は離れ一人になる。少女は悲しみを歌い少年は苦しみを歌う。孤独から逃れようと出会う前に戻ろうとする。自分だけの歌をいくら歌ってもどこか寂しくて、穴が空いているようだった。
気づいた。今の私の歌は
わかった。今の俺の歌は
二人の歌だと。
もう一度出会い、互いに向き合った。大きく息を吸う。
重なる歌声。合わせる気は無かった。それでも合った。好きなことを好きなだけ乗せて歌う。そこに共通点は無くとも、違いがあれども二人は全く同じ『希望』を歌っていた。
全てをさらけ出した歌声は完璧とも言えるハーモニーを生む。嬉しくなって、喜んじゃって、それが歌声に現れて、もっと楽しくなって、最高の瞬間を歌った。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパ!!!!
拍手喝采が止まらない。ブラボー、最高! 称える声が響き渡る。うるさすぎて耳が痛くなりそうだったけど、その音が全て自分達に向けられていると考えると嬉しくなる。日白さんの方を見ると本当に全力で歌いきったのか汗をかいて少し息が荒い。きっと今の俺もこうだろう。
日白さんも俺の方を見る。目が合う。互いに笑顔になる。観客にも今の気持ちを伝えたくて手を振る。
今までの中で一番気持ちよく歌って、一番楽しかった。
LIVEが終わると日白さん控室て手招きされる。扉がしまった瞬間、グググっと何かを溜めるような動作をした後思おっきり振り返って興奮気味に俺の手を取る。
「すっっごい楽しかった! 歌っててすっごい気持ちよかった! 晴夜君、歌が上手いとかそんなレベルじゃない! 息ピッタリ、私達阿吽の呼吸だったよ!」
「ありがとうございます。俺も凄く楽しかったです」
て、手が〜?! 日白さんが俺の手を握ってくれている! 温かい! 柔らかい! やばい! 最高!
「今日はありがとうございました。初めてライブハウスで歌ったのですが、今年一番の思い出になりそうです」
「それは良かった。私もいつもより楽しかった。次も来てくれたらまた指名しちゃおっかな」
「それは勘弁してください。緊張して本名言っちゃったんですよ。幸い撮影禁止でしたから良かったですけど」
「ふふ、冗談よ。今日はありがとう。これお礼」
俺の肩を掴んで無理矢理横を向かせられたと思ったら頬に柔らかい感触が伝わる。
「?!」
びっくりして咄嗟に離れて頬を抑える。
「今?!」
日白さんは人差し指を唇に添えていた。少し頬を赤らめていた。
「内緒だよ。さあさあ、そろそろマネージャーが戻ってくるし、私は着替えるから」
「は、はい!」
控室を出て急ぎめにライブハウスのトイレに駆け込む。鏡を覗き込む。耳元まで真っ赤な自分を見る。頬を触る。あの感触、初めてだけど分かる。あれは確実に………キスだった。
どうして日白さんが俺なんかに………嬉しいけど、最悪だ。観客に顔をすでに見られてるんだ。こんなんじゃライブハウスから出られないじゃないか。
個室の鍵をかける。暫くたった。スマホを見て時間を確認する。流石に観客は皆帰っただろう。スマホを閉じる。黒い画面には未だに顔の赤い俺が映っていた。ずっとトイレにいるのもまずいので仕方無しに出る。ライブハウスのグッズコーナーにある帽子を買い深く被って帰路を歩く。
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「日白さん、何かいい事でもありました?」
「マネージャーさん。うん、あったよ。でも内緒」
「はあ、まあ良いですが。飲み物買ってきますね」
そう言ってマネージャーさんは出ていった。一人になった私はスマホを取り出して待ち受け画面を見る。
「覚えて無くて残念だったけど、また会えた」
グ〜
マネージャーに電話をかける。
「お腹空いた!」
活動報告にて主人公に何をしてほしいか募集してます! 面白かったらブクマをよろしくお願いします!




