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歌姫♂は今日はピンチ

お気に入りがもう三人?! ありがとうございます!

「まさか晴夜君が『歌姫』だったなんて」


「はい………」


 タピオカ専門店。ブームが過ぎたにも関わらず喫茶店は学校帰りの学生で賑わいほぼ満席。端の席で私達は向かい合っている。バレたからかバレされたく無いからか少し怯えた表情をしてタピオカミルクティーを少しずつ時間をかけて飲んでいる。


「はあ、伝説も会ってみれば幻滅するって言うけど、私の場合は裏切られた気分」


「お、俺は一度も女とも歌姫とも言って無い……」


 まあ、確かに。一度も認めてなかったし自分から言ってなかった。性別不明にしてたし。でも今まで信じてきた、固定概念とも言うべきものが崩れさった気分はどうしても取り払えない。


「だ、誰にも、言わないで、ください」


「ええ、どうしようかな〜」 


 とは言え私は聞き専、バラして今後活動しなくなったら『歌姫』の歌が聴けなくなる。正体が誰であろうとそれは嫌なので仕返しのつもりでスマホをいじりバラそうとするフリをする。


「まって!」


 すると立ち上がり両手でスマホを持っている手を抑えてきた。


「お願いします。本当に、誰にも言わないでください」


 小鹿みたいに震えた手で抑えながら。顔を赤く染め、涙目で必死に訴えて来る。


 え? ちょっと待って? 可愛い過ぎない? 何この小動物?  


「わ、わかった」


 一瞬思考放棄して承諾の言葉が出てきてしまった。え? めっちゃ笑顔なんですけど。どうしよう。ドキドキする。こんな気持ち初めて。なんだろう、もっと辱めたい。自身の中にイタズラ心が芽生えてくるのがよく分かる。


 少し意地悪にニヤッとする。


「『歌姫』の声でお願いしたらいいよ?」


「へ?」


「だから、結月晴として「お願いします誰にも言わないでください」て言ってくれたら黙っててあげる」


「こ、こんな人の多いところで?!」 


「ホラホラ〜、言わないとバラしちゃうよ?」


「わ、わかった」


 晴夜はモジモジしながら座り込み、俯きながらも歌声以外で初めてその声を聴かせる。


「お願いします。誰にも言わないでください」


 恐らくギリギリ聞き取れる程に小さな声だったと思う。でもその声を聞いた瞬間耳を澄ましたのか『歌姫』以外の音など聞こえなかった。 


 いや耳を澄まさなくてもそれ以外の音など聴こえなかった。何故なら賑わっていた筈の店内が嘘のように静かで辺りを見渡すとその視線は私達一箇所に集まっていた。


 嘘でしょ? 私がギリギリ聴き取れるぐらいの声の大きさの筈なのに? 談笑による賑わいを通り抜けて店内全ての人に聞こえたと言うの? 確かにヘッドホン越しでもはっきり聞こえる程にすり抜ける声だけどこれ程なの?


「あ、あの、今の声って、もしかして『歌姫』ですか?!」  


 一番近くの席にいた女性が興奮気味に話しかけてくる。まずい、バラさないと約束した側からこれはまずい。


「ごめんなさい。音漏れしてしまって、ヘッドホンつけてたと思ったらコードが刺さって無かったの」


 咄嗟の作り笑いでそれらしい事を何とか言う。ヘッドホンを外さず首掛けしておいて正解だった。これで何とか誤魔化せる……かも


「あ、こちらこそごめんなさい。勘違いしてしまって」


 全く無関係の人に話しかけたと思ったのか女性は頭を下げて謝罪し席に戻る。周りも勘違いだと思ったのか談笑を再開する。

 しかしこの一連の流れで店内に飛び交う会話が全て『歌姫』の話になってしまった。


 目線を戻すとそこには羞恥心で顔どころか耳まで真っ赤になって全力で顔を隠した晴夜がいた。


「皆俺の事を話してる」


 早く店を出たいが為にタピオカミルクティーを一気飲みし二人分支払う。店を出てしばらく歩く。喋るとバレるんじゃないかと不安なのか私も晴夜も人通りが少なくなるまで無言だった。


「ねえ、連絡先交換しようよ」


「してる筈だけど」  


「え? あ」


 入学式にクラス全員で連絡先を交換したんだった。本当だ。下の方にあった。


「明後日一緒にカラオケ行こうよ。『結月晴』君」 


「え?! まって、それって!」


「大丈夫。あの異常に透き通る声でも大丈夫な場所知ってるから」


 そう言って拒否権を与えない為に私は走って帰る。














 なお汗が傷口に染みて痛かった。

















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