歌姫♂は今日は和食
「う、美味い……」
あまりの美味さに感動した。思考が停止して全精神舌に集中して味わう。一口一口大切にするために20回程噛んで呑み込む。
「ズズ………美味い。同じく鰹節で出汁を取っているのに何でこんなにも差が出るのだろう」
口に含むだけで出汁と味噌の調和が味噌汁と言う存在を祭り上げる。一口で分かる。他の味噌汁を飲んだら美味しくないと感じるだろう。
「パク」
塩加減が絶妙。すべての旨味が詰まった鮭の塩焼きはほんの少しでも沢山のご飯を食べさせてくれるだろう。皮も美味い。ほんの少し甘味を感じる味噌汁との組み合わせは最高だ。
「俺、もう二度と和食なんて作らないと誓う」
「え? どうしてですか?!」
「姉様の料理が美味しすぎて既に兄様の舌が肥えてしまってるんですよ。わかります」
「いや、本当に、こんな良い物をタダで食べてる自分が恥ずかしいです。お金払いたいです」
顔を抑える。
今の時代貧乏でも無いのに食事に涙が出るほど感謝するとは思わなかった。本当に、ジャンクフード大好きって言っている自分が恥ずかしくなってくる。
「いえそんな! お金なんていりません!」
この子良い子過ぎる。涙が止まらない。ありがとう神様。俺、生まれて来て良かった。これからもっと命に感謝するよ。適当に頂きますなんて言わないよ。馬が地を走り回って『馳走』沢山のモノをいろんな場所から集めて初めて出来るご飯。沢山の命が巡って生きてるんだな。
嗚呼、人間というかものはなんて愚かなんだろう。自然を破壊し砂漠化地球温暖化を進めて終いには同族殺し。生きる為に人殺しをする兵士。略奪する為に人殺しを始めるおえらいさん。それらによってできた土台から進化を重ねた世界で生きる俺はもう一度自然について考えないといけない。
「何悟ってるんですか」
「今まで適当に頂きます、ご馳走さまを適当に言って申し訳ありませんでした。ご馳走さまです」
ト○コがいつも言っている理由が良くわかった。
「?」
何故俺がこのタイミングで謝罪に身を投じたのかわからないモグモグしながら首を傾げる葉。気づいて誇らしげにしている楓。とにかく感謝で胸もお腹もいっぱいになった夕飯だった。
普通だと言うのに洋食と比べてしまうと少し素朴に感じてしまう和食。だからこそ感謝してしまうのだろう。日本人と言うのは。
「お口に合って良かったです!」
ご満足そうで自慢げに言う葉さん。
「はい。今まで食べた中で一番美味しかったです」
正直な感想をいう。ありがとうございます。と笑顔で返してくれた。体だけでなく心まで暖かくなった。
「今日はご馳走になりました」
帰る時間、感謝の意を伝えるとこちらこそと感謝の意をもらった。
「あの、外寒いですが大丈夫でしょうか?」
玄関まで来た際、外が寒いことを思い出した葉さんは心配してくれた。
「はい。大丈夫です。それでは、今日はありがとうございました。葉さん」
心も体も暖まっている俺はそう言ってドアノブに手をかける。
「兄様」
楓に引き止められた。
「?」
振り返ると紙を渡される。
「私の連絡先です。またお世話になりそうですし」
何かを思い出したかのように着物の間からスマホを取り出した。
「えっと……あった! これ、私の連絡先です」
葉への連絡先が表示されていた。楓はやらかしたと頭を抱えた。今渡すタイミングではなかったな。俺もスマホを取り出して連絡先を交換する。葉さんのアイコンや背景画像全て森。葉っぱ尽くしだなぁ。楓のアイコンは小学生らしいポ○モンの画像。ちなみに俺のアイコンは最近流行りの日本刀です。
「あと、その、同い年ですし敬語やめませんか? さん付けも」
少し恥ずかしそうに言ってくるのでドキッとした。さん付けをやめる。呼び捨てって事? いやいや、それはないだろう。多分。これが一番だろう
「わかった。葉、ちゃん?」
「ふふ、晴夜君」
嬉しい。
「またね、晴夜君」
「それじゃあまた、葉ちゃん。楓ちゃんも」
二人とも軽く手を降ってくれる。片方は複雑そうだけど。
帰り道。寒いのに一切気にならなかった。むしろ暖かくてスキップしたい気分だ。帰ったら何をしようか。歌を歌おう。何か良いのはないだろうか。
スマホの通知音が聞こえる。見ると2つメッセージが来ていた。
『今日はありがとう』
『マイクありがとうございます』
返信をしてポケットにしまう。




