録音機 謎の空間
全ての部屋を見終わりましたが、なんだか何も起こらなくて残念なので、しばらく録音したままうろうろします。
あ、さっきのを切った後、録音しないで一階に降りてきたので、今は一階の階段の前ですね。
(カタン、という音が鳴る)
ん……? なんでしょうか、今の音は。
(カタン、という音)
私じゃありませんよ、これ。……下から聞こえてきたような気が……。
(雑音。しゃがんで床の方に録音機をかざしていると思われる)
(大きめにカタン、という音)
あっ、鳴った! やっぱり下からだ……。録音できましたよね? 何だろう……。
(しばらく雑音。悩むような声も入る。たまにカタン、という音)
……あっ。
(急に雑音が大きくなる。しばらくの間雑音)
これだ!
すっごく見えにくいんですけど、フローリングの床に四角く溝が入ってる所があります。ここの下から音がしてるんだ!
(ハッキリとカタン、という音)
隠し部屋……? 開けられるんでしょうか。試してみます。
(木が軋むような音。床を強く押しているんだと思われる)
駄目だな……。
(爪のカリ、カリ、という音。端を爪で引っ掛けて持ち上げようとしていると思われる)
わっ!
(木が擦れるような音と、鈍い音。恐らく尻もちをついた音)
いってて……。……嘘……外れました……。
ぽっかり、四角く外れちゃいました……。下に更に腐った木みたいなのがありますね。これも扉だったみたいですけど、ふにゃふにゃで……あ、抜けました。
(どすっ、という軽めの音。腐った木を押したため下に落ちたと思われる)
でも結構近くで落ちた音がしましたね。
階段でもあるのかも。
……あと真っ暗で何も見えないんですけど、凄くカビ臭いです。古い家みたいな……。床下収納ではなさそうですね。
こんなことを期待して、懐中電灯を持って来てるんですよ。
それで中を照らしてみます。
(ガサゴソと鞄の中を探るような音)
あったあった。
じゃ、照らします。
(微かなカチ、というスイッチの音がする)
……階段だ。期待しながらも半分はただの床下収納だろうなって思ってたんですけどねぇ。
……まさかこんなことが……。
入ってみましょうか。
一応階段の木が腐ってないかだけ確認しておいて。腐ってたら危ないのでやめます。
(片足を階段に降ろしていると思われる)
(とんっ、と軽い音がする)
ん? さっきの腐って落ちた木がありますけど、階段はしっかりしてますね……。まるでここだけ新築みたいな……。軋む様子も全然ないです。
……これは降りてみるしかないかぁ。
期待して来たものの、いざこうなると……怖いですね。二段目も慎重に行きます。
(ここからも慎重に階段を確認して降りる音が続く)
ん……。あっ、ここが一番下みたいですね……。上よりずっとカビ臭くてホコリが多いです。床は……畳? うぅ……なんか柔らかくて気持ちが悪いです。腐ってんのかな。
ええっと……。取り敢えず周りを照らしてはいるんですけど……、ホコリが舞ってて遠くが全然見えないです。ちょっと壁際らしき所を探します。
(時々咳をしながらも、歩き回る音がする)
これは電気のスイッチでしょうか?
(カチッ、という音)
わ……っ!? で、電気がつきました!
うっ……。
(気持ち悪そうな声)
な、なんなんですかここ……。天井とか壁紙とかが、獣に荒らされたみたいにボロボロです。
床には凄くレトロな感じの人形とかが散乱してます。スーパーのチラシとか、女性の写真の胸の部分だけを切り抜いたものとかが……。
(すーっ、はーっ、と深呼吸をする音)
ふーっ。……ちょっと取り乱しました。
部屋は和室です。天井に円形の平べったい電気がついていて、豆電球で薄暗く部屋を照らしています。
ちょうど部屋の中央あたりにちゃぶ台が置いてあります。壁紙や床は全体的にボロボロで、床に散乱した物は全てちゃぶ台より向こう側ですね。だから私は電気をつけるまで気がつきませんでした。
(深く息を吐く音)
気持ちが悪いです……。さっき言い忘れてたと思うんですけど、人形も全て卑猥なポーズをしていて……。
私も男ですけど、こんなことをする奴の気が知れませんね……。
色々合わさってこう感じるのかもしれませんけど……、何より、ただの卑猥な散乱した部屋と思えないんです。
人形の服が全て赤くて……遠目で見ると血のようで……。
気分が悪いです……。カビの臭いも酷い……。
一応ちゃぶ台の近くまで行きます……。
(乱れた足音)
ちゃぶ台に女性のヌードのポスターが貼り付けられています。水色の背景に……三十代くらいの女性が裸でビールを飲んでいる写真です。
で、ちゃぶ台の向こうには色々散乱してて……。
うん……? あれ、なんか……床が濡れているところがありますね。
あんまりここ通りたくないんですけど、気になるんでちょっと人形達を踏まないように行ってみます。
(雑音)
ここもさっきのフローリングの床みたいに、四角く溝があります。これはすぐ取れそうですね……。
(畳が擦れるような音)
取れた……。っ……! な、なんですかこの臭い! 気持ち悪い……。物凄い悪臭です……。
ここの薄暗い明かりじゃよく見えないので、懐中電灯で照らします。
(スイッチの音)
うっ……。
(吐くのを我慢するような声)
(乱れた息遣い)
ちょっと、これ……。
(落ち着かせるような深呼吸の音)
骨……?
(激しく咳き込む)
腐ってぐちゃぐちゃで……。髪の毛とかもたくさん……。う……っ。
(畳の擦れる音)
(激しい足音)
(大きめの雑音)
(鈍い音がした後硬い音がする。その後苦しそうな息遣いがしばらく続く)
……もう……気持ちが……悪くて……、はぁ……戻ってきちゃいました……。
あ、あんなの……どんな臭いかなんて分かりません……。ただただ気持ちが悪くて……。
もしかしてたまに感じた何かを隠すみたいな芳香剤の臭いって……。
(しばらく荒い息遣いが続く)
ふ、服も、髪もあの嫌な臭いが……。
もう無理です……帰ります。
(カタン、という音)
え?
(カタン、という音)
し、下から。
(カタン、という音)
なんで……。
(衣服が擦れる音)
(カタン、という音)
(硬い物同士がぶつかるようなカタカタという音)
え……っ。
(ここで激しい雑音が入り、すぐに蝉の鳴き声だけが聞こえる)
(蝉の鳴き声)
(録音時間を過ぎて切れる)