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ヒロインがいる最悪な日常  作者: 春輝 鉄和
ヒロインとバイト〜このヒロインは何者⁉︎〜
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初日でなぜか仕事ができる生意気な新人

モニターの下にあるボタンを押して画面に表示している白い正方形を全部消すと。

 ふぅ、と一息を出す。


「なるほど…」

 近くで見ていた未廻下が呟く。


「何が?」

「作り方がわかった」

 はっ、こいつ今、とんでもないことを言った気がする。

 初日で一回だけの観察で作り方が覚えられるとしたら誰も苦労しない。

 しかも、かなり迅速に作ったと思うだが。

 聞き間違えだろう。


「今、なんて?」

「だから、今あんたが作ったものの作り方が全部わかった。って言ったの」

「全部?」

「全部」

「……」


 こいつ、とんでもないことを口走ってる自覚がないのか。

 と思っていると、ちょうど、先作った一つの同じ商品が注文された。


「どいて、作ってみるから」

 と言われると呆然としていながらも一歩下げると、未廻下は僕の前に立った。

 まあ、良い。

 二歩左にずれてとりあえず見てみることにした。


 今、未廻下が立っている場所は鉄のテーブルの中央の部分。その上にモニターが一つ設けてある。

 同じものを表示しているモニターは左側にもあるのだが、未廻下は中央のを見上げている。


 未廻下がモニターを見つめ、三秒立つと動き出した。

 まずは商品を包むその商品専用の紙をテーブルの下についている引き出しから右手で出して、裏を上にしたままテーブルの上に乗せ、手の平で紙が動かないように固定させる。


「熱っ」

 こいつ、おとこ女のくせに女の子らしい声が出せるんだな。

 手の平を紙の上に乗せたあと次の行動を考えていたのか、一秒ぐらい手を動かさなかった。

 そのせいで鉄のテーブルの一つの機能を身をもって知ることになった。


「それはそうだろ。商品が冷えちゃいけんから熱くしてるんだよ」

「それ早く言って」

 未廻下はまるで僕がいじめているかのような、いけずを見る目で自分を見ている。

「火傷する程じゃないから気にするなよそれくらい」


 優しく教えて。と誰かに言われた気がするが。

 糞食らえだ。

 大体、それぐらいでいちいち嘆いていたら厨房ではやっていけない。

 自分の両手や腕のあらゆる所に刻まれている小さい火傷痕がそう訴えている。


 厨房は商品を作るだけだと思っていら大間違えだ。商品の中の素材だて作る。

 この厨房にあるフライヤ、グリルやエッグクッカーは飾り物ではない。

 二年以上ここに働いている今でも火傷はたまにする。


 だというのにこの女はただ商品を温かく保つだけの温度で弱音を吐いている。

 …まあ、自分も初めては知らなくて、熱いのは聞いていたものの、どんなもんか。と思って両手をつけたら痛い目にあったことがあるので、今思っていることは口にしない。


 未廻下はいまだに僕の方を見て何か言いたげな表情をしている。

「ほら、作らないのか。無理だったら代わって。客が待ってるけぇ」

 と、僕が言うと未廻下は無言で、前にある機械に顔を向けた。


 その機械はトレーに入った商品の素材を温かく保つためのもの。

 六段あって、それぞれの段にトレーが三つ挿すようにできている。

 素材のトレーの位置は決めってある。


 未廻下は、五段目の中央のトレーを引いて、中からマフィンを出して、先出した紙の上に。

 下の部分は紙の中央、上は右に置く。


 自分は未廻下のそこまでの行動を見て、内心で感心していた。

 新人で初挑戦のくせに、無駄な動きがなく、質問もせず、冷静にコツコツと進んでいる。

 今日が初日じゃない。と言われても信じられる。


 マフィンの下の部分に、左にある長方形の容器の中に用意してあるチーズを乗せ、前にある機械の下に用意されてある肉用のトングを持って、三段目の左端のトレーの中から四段重ねになっている丸い肉の一番上をトングで摘んで、マフィンの上に載っているチーズの上に肉を重ねると、マフィンの上の部分を乗せる。


 ここまで来たら完成と言っても良いが、新人はここからつまずく輩がほとんどだ。

 しかし、未廻下まるで慣れているような手際で紙の長い方を縦にして、商品を中央に乗せたまま縦に半分に折る。

 それをテーブルに置いたまま右手でひっくり返して、左右にとんがっている紙を右から左、上から撫でるようにすると自然にとんがっていた紙の部分が商品の形になる。


 紙に包まれた商品を穴の中に流し、ボタンを押して注文を消す。

 僕が出す言葉に迷っていると未廻下は真顔で「どう?」と聞いてきた。


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