遠い夢の中
これはデートではない、わかってる。
いや、わかってるつもりだ。
だけど…。
僕は夜景に輝くこの市の名スポットを、一つ手前の橋で眺めていた。
朝から昼までのアルバイトで疲労困憊の状態の僕は、正直…、帰りたい、寝たい。
それでも準備に時間をかけて、普段きこなさない服装まで選んでしまった。
どこか変かな?
って、彼氏を待つ女子か⁉︎
「だから、なんで張り切ってんだよ、僕は!」
周りに歩いていた人たちがピッタと止まり、僕の方を向いている。
「あ、いや、すいません…」
恥ずかしい…。
歩き交う皆が祭り気分のようだ。
浴衣を身に纏う人々。林檎飴を持ちながら走る子供たち。
それに…。
「花火が終わったらさ、ウチ来る?」
「行く〜!」
チッ、カップルだ。
お互い腕を組みながら浮かれてる後ろ姿が実に忌々しい。
爆発しろ。
祭りなんていつぶりだろう。
随分経つな…。
「きっかけがないと絶対に来ないもんなぁ…」
僕は雑踏が苦手だし、カップルがいると興が冷める。
浴衣も無いので、私服で着ている。
だからこういう場所には極力来たくない。
だけど、なぜか未廻下の誘いはすぐに受け入れてしまった。
「らしくないな…。はぁ…」
どうしたんだろう? 最近の僕は。
未廻下との約束はここで七時集合である。
一時間前に着いてしまった僕には、夜景を眺める以外何もすることがない。
そういえば、未廻下は今日のバイトに居なかった。
事前に休みを取ったのだろうか。
しかし、土日、祝日によっぽどの理由がないと、絶対休ませてくれないことで有名なあの店がどういう風の吹き回しなのだろうか。
今日も忙しくてヘドヘドだ。
「やっぱり、適当な理由をつけて帰ろうかなぁ?」
「せっかくの人の誘いをそんな風に投げ捨てるの? アンタは」
右隣から声がした。
『♪君の髪の香りはじけた 浴衣姿がまぶしすぎて お祭りの夜は胸が騒いだよ〜♪』
未廻下を目にした瞬間、時間も思考も止まったように思えた。
だが、どこかから聞こえてきた曲が時間の流れを示すと同時に、僕の心境を表しているような気がして、未廻下にどう声を掛ければいいか迷ってしまった。




