白昼夢
僕は自分のキッチンにあるテーブルの椅子に腰をかけながら、無言で未廻下が何かを作っている後ろ姿を見つめていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
僕はそう思いながら横の窓を見る。
目に入る景色は薄暗く、聞こえてくる音は屋根に激しく叩きつけられる滂沱の雨と、キッチン用具がぶつかり合う音。
そんな趣深い雰囲気の中、僕は思う…。
気まずい、と。
この天気はどこか自分の心をあらわしているよう…って、何らしくないこと考えているんだ僕は。
こんな如何にもポエマーが考えそうなセリフを頭の中とはいえ、自分自身を嘲笑う。
あまりに唐突な展開に頭がやられたのかも知れない。
そう言えばコイツ、こんな天気の中でここまで来たのか?
僕は再び未廻下の後ろ姿を見つめてそう思っていると、未廻下は振り返る。
薄い紫色のエプロンの彼女は、頭にある赤い鉢巻さえなければ完璧に萌えていたのかも知れない…。
未廻下はできたそれをテーブルの上に置くと、頭にある鉢巻を華麗にほどけながら。
「お上がりを!」
・・・。
「何これ…」
突っ込まざるを得ない僕。
「食○のソーマ」
「そっちじゃねぇ! いや、そっちもだけど…! テーブルの上にあるこれだよ!」
僕は茶碗に盛ったテーブルの上にあるソレに指を差しながら激しく指摘する。
未廻下はきょとんとした表情で。
「…白米?」
「うん! 確かに白米だ。誰がどう見ても百人中、百人が白米と答えるだろう…。ってそうじゃねぇ! おかずは?」
「アンタ…、私をそんな風に見てたの?」
引きながら少し後ずさる未廻下。
「ち、ち、違う! メ・シ・の! おかずだよ!」
少し目眩がする。
コイツ、こんなキャラだったけ?
「メスのおかず⁉︎」
ダメだこりゃ…。
「お前、大丈夫か? キャラがブレってるから落ち着け!」
「…チッ、やり過ぎたか…」
未廻下がぼそっと何かを呟いた気がした。
「ねぇ、リッピ君…、お願いがあるんだけど…」
急にトーンを変える未廻下。
僕に何かお願いがある、と言いながら、さりげなく唐揚げの盛った皿をテーブルの上に置いた。
いや、おかずあるじゃないか…。
「私のこと、呼び捨てにして欲しい」
唐揚げ旨い。
「あ、ごめん食ってたから聞こえなかった」
「だから、私のこと、唯って呼んで欲しい」
・・・。
これは緊急事態だ!
「貴様、誰に電話している?」
「救急車。今日のお前はいろいろとおかしいから病院に行って診てもらった方が…」
未廻下が僕のスマホを奪った。と思ったらそれを握り潰した。
「いい加減にしろクソ餓鬼…」
と言いながらエプロンをつけたまま傘も持たずに雨の中出て行く未廻下。
僕は何も言わずに固まっていた。
未廻下が出て行く前の形相は今まで見たものとは違っていた。
彼女の目にあったのはとてつもない憤怒と殺気だったように感じる。
果たして、あれは本当に未廻下だったのだろうか…。
違う、あれは未廻下じゃない、未廻下であるはずがない。
急に体が震えだす。
意識が朦朧とする…。
そして、彼は昏倒する。
「いいよな、好きなだけ現実逃避して…。貴様は存外、幸せ者だな」




