ヒロインとの邂逅
急いでカウンターの後ろに立って鍵を元の場所にかけ、注文を受けるためのモニターにチェックインするための自分専用の従業員記号をうち、チェックイン。
時間は六時一分。
「遅刻じゃないか」
と後ろから声が聞こえた。
後ろを振り返ると斧崎さんがニヤニヤしながら僕を見ていた。
「一分だけですよ?」
「ダメ、遅刻は遅刻」
言い訳する僕に斧崎さんが正論を返す。
斧崎さんは滅多に怒る様な人ではない。
だが、その代わりに僕をいじることが多い。
「皆にまた遅刻したって、言っとこうかな~?」
「それだけは、やめてください…」
前に遅刻したことで、その理由を述べたら、何日か他の従業員の何人かにいじられたことがある。
「またラノベ?」
「今日は違います」
「遅刻じゃけぇ、速く準備して来い」
「はい、はい」
僕を急かす斧崎さんに適当に返事をしながら、後ろにある厨房に向かう。
厨房の奥の一番右に洗面所がある。
そこで手を洗って、エプロンと帽子を着用。
自分の仕事は商品を作る方なので、カウンターに戻らず、厨房の商品を作るための専用の場所に向かう。
平日の朝は、客が少ないことで、働く従業員も少ない。
接客と厨房担当を合わせて三人。
僕は一人で注文や他のものの準備をする。
はずなんだが…、見たこたがない顔の人間が厨房に佇んでいる。
少年、いや、女だ。
この店の制服を身に纏っていて、正に今、僕と目が合っている。
髪が短くて帽子を被っているせいか一瞬男かと思ったが、体は細めながらも、女性のものだ。
少し日焼けをしているのか、肌が薄い褐色色になっている。
よく見ると意外と…。
いや、何を考えているんだ僕は。
その女の後ろから斧崎さんが覗いて、何か思い出したような素振りを見せ、こちに向かってくる。
「あっごめん、言うの忘れてた。今日から入ってきた子だよ。名前は確か…」
「未廻下 唯、よろしく」
斧崎さんが新人の名前を思い出そうとしていると、自己紹介をする新人の女。
しかも、敬語を使わず。
一応、僕先輩なんだけどな。
まあ、どうせこの店の若い女性は接客をするのだから目の前の人と関わることはないだろう。