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ヒロインがいる最悪な日常  作者: 春輝 鉄和
二章目 ヒロインと学校〜なんでお前がここに⁉︎〜
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「兎出 鈴」と言う恩人

兎出さんが目で松浦に何かを促しているようだ。

 松浦が僕のこの惨めな格好を見て顔を顰め、再び兎出さんに視線を戻す。

 兎出さんは、ふん、と松浦に背中を向ける。

 松浦は深呼吸をすると、意を決したような表情で僕の前に立つ。


 僕はまだ痛みを感じているので、いまだに床に膝を着けている状態だ。

 この姿勢だと自然と僕が松浦を見上げる形になる。

 松浦は僕を見下しながら。


「こ、股間に球を叩きつけて…、悪かった」

 と言っているが…、この姿勢おかしくない?

 えっ、僕が謝られている側だよね?

 普通は逆だと思うのだが、僕が常識不足でしょうか?


 っていうかその目やめろっ!

(視ろ、ゴキブリがゴミのようだ!)

 と目が語っているぞ。

思わずこの状況に怖気を感じてしまう。

 だって、傍から見たら完全に僕が何か悪いことしたみたいじゃないか。

 そして溜飲を下したような表情で松浦は次のポジションにつく。

 しかもそれが、僕の左隣だ…。


 トン、トンと近寄る小さな足音が聞こえたと思ったら。

「リッピ君大丈夫?」

 と僕を気遣う兎出さんが目の前にいた。

 それだけで痛みから解放されたような気分だ。

 僕は立ち上がって、コクと頷いて兎出さんの質問に答える。

「ありがとう」

 僕は感謝の意を言葉にすると、兎出さんが不意打ちを突かれたような、驚いた表情をした。


 それは無理もないことだ。

 この日まで彼女は僕の声を一回も聞いたことがないからだ。

 僕は他人と関わらず、無口で学校生活を送っている。

 でも、彼女にならプライドを捨てて、言葉で感謝を述べる価値があると思った。

 いや、素直になろう。

 単純にしたくなった。

 僕は女子からこんなに優しくされたのは初めてなのかも知れない。

 僕の中でいつか実る日が来ると思わなかった種が芽を出した気がした。

 兎出さんに対する「尊敬」と言いう名の種だ。


この後、僕と兎出さんはバトミントの羽を打ち合った。

 兎出さんはどうやらバトミントが苦手のようで、僕の打つ羽を上手く打ち返せなかった。

 僕は兎出さんが打てるように、打つ角度と力を調節して。

 暫くすると、兎出さんも上手く打てるようになった。

 上手く打ってなくて少しがっかりしていた彼女が打てるようになった時の無邪気な笑顔は簡単に忘れられるものではない。


 彼女の円らな瞳に魅入られない者はいないのだろう。

 小さな体でも毅然としたところに救われた彼女に、僕は徐々に関心を持ち始めていた。

 彼女を視ていると確かに小動物のような可愛らしさを持っている。仕草と外見同様に。

 松浦が彼女のことを「兎ちゃん」と呼ぶのも納得できる。

 確かに兎耳をつけたら似合うかも知れない。

 いや、猫耳も捨てがたい。いや、犬耳も…。


「リッピ君、大丈夫? 凄く変な顔してるよ、保健室行く?」

 どうやら、兎出さんはまだ僕のこと心配しているようだ。

 僕は左右に頭を振って、自分は大丈夫だと示すために笑顔を返した。

 その時に彼女の表情が少し引き攣ったように見えたのは気のせいだろう。

 ネットで隔たれた僕たちの距離を唯一繋いでくれるバトミントの羽。

 とにかく、このひと時が永遠に続くことを願っていた。

 ピッー‼︎

 

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