苦悶
「はっ…!」
目が覚めた時に僕はスタッフルームのテーブルに突伏していた、メガネは目の前で畳んで置いてある。
頭を上げメガネを顔にかける。周りに誰もいないようだ。
僕は起きる前のことを思い出す。
もしかして、死に戻り!
「な訳あるか…!」
起きたばかりだから脳がボケたようだ。
そのボケに自ら声に出して突っ込んでしまった。
壁の時計を見ると十一時五十八分を表していた。
どうやら僕は気絶して、たった一時間しかない休憩を無駄に過ごしたらしい。
「恐怖で気絶とか初めてだ…」
と一人で呟く。
「いや、もしかしたらあれは、全部夢か⁉︎」
そう思い刹那にホッとした。だけどそれは本当に一瞬で、すぐに心は寂寥で満たされた。
何故かはわからない。
「とりあえず、厨房に戻ろう…」
厨房に戻るとそこに、あいつが居た。
どうやら夢ではなかった。
その事実を知ると心の中は安堵で満たされた。
多分僕は情緒不安定かもしれない。
未廻下は僕と目を合わせると少し睨んでからどこかに向かった。
どうやらまだ怒っているようだ。
こんな感じでバイトが終わり、そのあとに学校に行き、一日が終わった。
昨日の出来事なのに僕は今日起きてからアイツの事が頭から離れない。
今日はバイトが休みなので気を紛らわすため午前中ずーっとラノベを読んでいた。
本当に僕は女子に嫌われる運命なのかもしれない。
「やっぱり、謝った方が良いかな?」
僕は自転車を漕ぎなが自分に問いかけた。
勿論答えは出なかった。わからない自分に問いかけても「わからない」としか返ってこない。思考を巡らせて答えを見つけたとしても蒟蒻問答にしかならないと思う。
「謝るか、謝らないか」と言う答えではなく、「自分が悪くない」と言う理屈しか考えなくなるだろう。いつもそうだ、何かがあるとこうやって理屈で逃げようとする自分。こんな自分が嫌いだ。
だから質問を変えて、自分にこう問おう。
「本当に未廻下のことを『おとこ女』として認識しているか?」
………。
瞬間、思考が停止した。
アイツの短気で、男である僕より力がありそうな(僕が弱いだけかもしれない)所だけを抽出したら、そう思う。
だが、頭の中で僕を混乱させているのはその外見である。
休憩中の時、未廻下にドアを開けた瞬間、アイツが急に現れたから驚いたと言うのもあるが、その時エプロンと帽子を外していた未廻下を見た時、短いけどさらさらで艶のある黒い髪。
思ったより自分は女性だと主張している躰。認めたくないが、あの時僕は確かに異性として認識していた。その後も実は少し意識していた。改めて、可愛い。と思ってしまった。どうやら僕は腐っても一応男のようだ。
結局。
「あっー、わかんねー!」
答えは変わらなかった。
「うっわー‼︎」
キッキー!、と言う自転車のブレーキの音が響いた。恥ずかしさと懊悩していたせいで目の前に老人がいることに気づくの少し遅れた。
間一髪止めることができた。
かなり歳を取ってそうな男の老人はびっくりして尻もちを床に着けてしまっている。
僕は自転車を降りて老人に手を差し伸べる。
「す、すみません‼︎ 大丈夫ですか?」
老人はゆっくりと立ち、左手を僕の肩においた。
その時だった。
急に感じる得体の知れない恐怖。
時間が止まったかのように体が動かない。
まるで肩に置かれた手に自分の動力が全て吸い込まれたようだった。
そして、なんだか強い不安と罪悪感を感じた。
すると、耳元に。
「ミツケタ…。また君を迎いにくる。罪人」
悪意を感じられるような囁きだった。
僕の肩から手を離してすれ違うように歩き出した。
後ろを向くと、そこには「よいっしょ、よいっしょ…」と言いながら歩く老人の後ろ姿。
多分、煩悶していたせいで幻覚の類を体験したのかも知れない。
今日はアイツと会うことはないだろうからから、考えるのやめることにした




