閑話 マジュチューバーは流行に敏感
閑話です。
「あー、あー、どうかな」
時刻は19時。
とある動画投稿サイトで、いつもの大人気実況者の生配信が始まる頃だった。
『稲妻少女なるみちゃん』
全世界で最も有名な実況チャンネルと聞かれれば、まずここを上げるだろう。三ヶ月前にできたこのチャンネルはものすごい勢いで登録者数が増えていき、あっという間に1000万を超えてしまっていた。
「うわー、どんどん増えていくなー」
視聴者の数は万を軽く超え、10万に近いほどだ。国内はおろか海外の人すら視聴しているせいで、英語やらスペイン語、中国語などありとあらゆる言語が入り混じっていた。
この実況は二日か三日に一回行われる。上岡成美はちらりと耳にしたことがあるのだが、3chや6chなどの掲示板でもものすごい勢いでスレッドが増えていくほどだった。
だが、そんな事情とは関係なしに、上岡はいつもの気の抜けたスタートの言葉を口にした。
「はろー、みんな。マジュチューバーなるみだよ」
顔の左側に残る雷の跡がトレンドマーク。外国人には雷のタトゥーで真似た人もいるほどだ。
上岡は実況が始まってから、まずとあるものを取り出した。
「とりあえず宣伝だけしておくね。これが稲妻タオル、こっちがなるみストラップで成美ちゃん人形。最近許可とったから、三鷹圭とのコラボフィギュアもあるよ」
特に印象的なのは圭とのコラボ商品。炎と雷が二人の周りに舞っている様は、まさに激闘のワンシーンを模していた。
「すごい売れてるらしいけど、頑張って増産中だから、転売とかはしないでね」
ネットオークションでは価格もかなり高騰しており、定価の数十倍はざらにある。さらには偽物も大量に出回っており、なんども社会現象としてテレビなどに取り上げられていた。
正直お金も持て余しているしグッズを作ろうという気もなかったのだが、勝手に非公式グッズが作られたり、視聴者の要望が多かったので、ここ数週間で急ピッチで作成したものだ。
当然このグッズにはギルドも一枚噛んでいた。
それからもいくつかあるグッズを紹介した後に、上岡はカメラを持ち向きをゆっくりと変えていった。
「今日は特別ゲストを呼んだよ」
角度が変わったその先には、一人の少女が立っていた。
白と黒が入り混じったゴスロリドレス、結んでいたサイドテールを意味もなく払った厨二病患者が、最近また無駄に飾りが増えた眼帯に手を当てていた。
「ふっふっふ、よくぞ来た皆の衆。我こそは、『堕天の使徒』東堂円華。皆の者、怖気跪くが良いっ!」
東堂円華。年齢20歳。邪眼という能力を持っており、その瞳に囚われた人は瞬く間に彼女の虜となる。
事実、眼帯の下には複雑な模様を刻まれた目が光っている。
彼女は自分の力を抑え込むために、わざわざ眼帯をつけている。
そういう設定だった。
「はいはい、まどち。カットカット。自己紹介オツオツ」
東堂の存在は、実況チャンネル『稲妻少女なるみちゃん』においてはもはや準レギュラー扱いになりつつあった。実際にグッズの中にも彼女のものはあり、熱狂的なファンもいる。
そして、東堂が実況に現れた時が一番盛り上がるのだ。
「で、で、ででで、」
いつものごとく東堂は顔を真っ赤っかにしていた。毎度毎度自己紹介をするものの、全部終わってから死ぬほど恥ずかしいと自己嫌悪に陥るためだ。ものすごいスピードでスクロールするコメント欄では「可愛い」「kawaii」などのコメントが散見したいた。
「ででで、で、きょ、今日は何をするのっ?」
「え、今日?今日はいつもと思考を変えようと思って」
今日は珍しく、スポンサー動画の実況になっていた。
このチャンネルは途轍もない人気を誇っている。そのため企業はこぞって上岡に商品などを送りレビューするように依頼している。こういった依頼の中で面白いと思ったものを実況すると、その商品は数十秒で売り切れるということも多々あった。
そして、今回の商品は、
「今日は、ダイアモンドドラゴンズ、通称ダイドラの実況プレイだよ」
「ダイドラ?」
ダイドラとは、よくあるソシャゲの一つだ。最近できたゲームで、mmoタイプの新進気鋭のゲームである。そんなゲームを、二人で実況しようというのだ。
「じゃあ、やっていこうか」
始まりと同時に画面が2分割され、スマートフォンの画面が映し出される。そこでは最初にアバターを設定するよう催促していた。
「見て見て。まどちタイプとなるみんタイプもあるよ」
「ほんとだ、キモ」
「ええ……」
なぜかアバターには二人のテクスチャが特別仕様で用意されており、さらには邪眼と雷痕もしっかり再現してある。
とにかく、二人は自分のアバターではなくデフォルトのものを選び、早速ゲームを開始した。
ゲームはよくあるものの一つで、そのストーリーにもこれといってインパクトのあるものはない。
あるとすれば、あまりにもキラキラと輝く伝説級の武器だった。
「ふーん。まあ普通かな。何度か似たようなものをやったけど、こういうタイプはどれも差別化は難しいね」
「そうなの?」
「そうだよ」
「へぇー」
レビューはするが、必ず褒めるとは言っていない。そこは選ぶ側の上岡の裁量だ。
だがここで、転換期が訪れた。
「っ!!」
突如、東堂が画面に顔を近づけたのだ。
一緒に見ていた上岡はその勢いで頭をぶつけられ思わず顔を引っ込める。それを全く気にせず、東堂はゲームのとある一ページを見ていた。
「かっこいい……」
「え?」
開いていたのはガチャ限の武器の紹介ページ。キラキラひかる幾通りもの武器の組み合わせに思わず目を惹かれてしまったのだ。
それは厨二病患者として、血が疼くような運命を感じたのだった。
「なるみんっ!」
「な、なに?」
「これって、ガチャとかしてもいいんだよね?」
「ガチャ?別にいいけど。課金するなら自分のお金でしてよ」
「うんうん、オーケー分かった。なら、今からこの武器コンプリートしなきゃ!」
「え、それ本気?」
こうして、スマホゲーム実況から、ガチャ実況へと変化したのだった。
「そういえば、最近ガチャでパワーアップとかいう物語が大流行してるらしいね。これもその類だったらよかったのに」
「ふっふっふ、なるみん何言ってるの?このガチャも、引いたらパワーアップするに決まってるじゃない」
「え、どこが?」
分かってないなというため息を漏らし首を振ってから、最初のガチャチャレンジをしながら見下したような視線を向け理由を語る。
「こんなかっこいい武器手に入れたら、ちょー強くなる感じするじゃん」
額に手を当て、聞いた自分がバカだったと言い聞かせる上岡を他所に、東堂は勝手に画面を食い入るように見つめていた。
「それ、私のスマホなんだけど」
「ひゃーっ、来た、来たよこれ!超激レア確定!?神、神じゃん」
「おーい」
「来てる、来てるっ!私がパワーアップしているのを感じているっ!」
「いやそれただの気分の高揚じゃん」
そういえば。
上岡はガチャに熱狂している東堂を呆れた目で見ながら、以前話していた言葉を思い出す。
「まどち、ガチャ小説最高とか言ってた気がする。自分が能力持ってるくせに」
東堂は上岡と比較すれば、暇人だ。
上岡は週に三回ないし四回の配信のための準備を行ったり、グッズへ携わったり、動画を自分で撮影したりと、大学生なのに世間の社会人よりもはるかに多忙な生活を送っている。大学へはごく稀に出席し、適当に単位だけとって留年すれすれをさまよっている状態だ。
それに対し東堂はというと、動画編集のような仕事は一切ない。『稲妻少女なるみちゃん』の実況に参加すれば一定の報酬をもらえる。グッズの利権のおかげで何もしなくても金は手に入る。
そのせいで東堂は無職のままであり、途轍もない暇を持て余していたのだ。
そしてそれを何に使うかというと、ゲームや漫画、小説に費やす。
特に最近のマイブームは、ネット小説だった。
マジサイコーと上岡になんども口にしており、自分が能力者のくせに小説の能力に憧れを抱いている。
上岡としてはもう東堂がどういう感性を持っているか分からなくなっていた。
「ああぁっ!ほしいっ!それじゃないのに!」
「まどち、そろそろ」
「今いいところなの!」
「それ私のだし、今じゃなくてもできるし……」
「だめ、この『ロンギヌス・モデルバーサクが私を呼んでいる。あと一枚、あと一枚で全覚醒っ!」
コメント欄を見てみると、回数カウントがされているらしく、この数十分で数百回のガチャが回されているようだった。さすがにこれ以上はまずいと感じた上岡は、ため息を吐き、東堂を背にしてカメラの方へと体を寄せた。
「みんな、ごめんね。本当はこんなつもりじゃなかったんだけど」
「ひゃぁあーーーっ!!!キタキタキターーーっ!最後の超激レアっ!……え、限界突破?そんなのもあるの?え、マジっ!?かっこいい!欲しいっ!」
「……。みんな、やりすぎには注意しようね」
一喜一憂する東堂をもう一度見てから、上岡は画面の外へと手を伸ばした。
「次の配信は三日後の19時の予定だよ。At 7p.m in japan time. それじゃ、グッバイ」
こうしてこの日の実況は幕を閉じた。
こうして東堂はガチャの沼にはまり込んで行き、上岡がその姿をSNSに投稿するたびに『廃人』と呼ばれるようになった。
続きは執筆中ですが、リアルの仕事次第で投稿頻度が変わります。申し訳ありません。
しょうがないじゃん、楽しいんだもの。
プロットはあるので、完結はさせられるよう頑張ります。




