もう一人の幹部
お久しぶりです。
ワクワクさせといてなんですが、圭とミモザの対決は次回です。
圭がミモザの相手をしている頃、『生命』生田翔子、『業火』ラクシェル、『泥熱』沼地源五郎はそれぞれ別々に行動していた。
そして、通路のど真ん中、しかも周りの壁がなくなりひらけた場所に生田は立っていた。
「『死霊』かの。腐臭がする」
普通の人間であれば死んでいてもおかしくない攻撃を受けても平然と立ち上がる姿を見て、すぐにこれが何によるものかを思い当てた。
目の前に二人、後ろに二人。ちょうど挟み撃ちになった形だ。さらに、四人ともなんらかの能力を有しているらしかった。
「『結晶』」
「おっ?」
前にいた一人が言葉を口にすると、メキメキと音を立てて床から男の前に透き通ったガラスのようなものが出現した。それを足で砕き、破片を生田に向けて吹き飛ばす。
だが周りにある全てのものが生田の味方。わずかな時間で床が盛り上がり結晶の破片を防いだ。
その間に後ろにいた女の一人が何かを投げるように手を動かす。その後に隣にいた男が魔術を使う。
「『炎ヨ我ニ従イ爆ゼロ』」
すると女と生田の直線上で、破裂寸前の炎が前へと走る。
それを見極めた生田が先ほどのように壁を出現させた。
ここで炎が不自然な動きを見せた。炎が壁を登るような動きをしたのだ。
壁の頂上まで最短距離で向かい、資格となっていた場所から生田のすぐそばで炎が爆発を起こした。
「なっ!?」
理解不能な動きをした魔術を前に硬直した生田は爆発をもろに食らってしまった。
が、しかし。
ランク6にふさわしい肉体をもっていること、そして死霊術による魔術のため威力がワンランク落ちていることから、直撃を食らっても大きなダメージは負っていなかった。
「やけどか。少し痛みは走るが……大したことはない。……死体に加減は必要なかろう」
一度足踏みをする。それだけで壁や床が粘土のように動き出し、あっという間にその場にいた四人を飲み込んでしまった。身体強化はあれど、それ以上の強さで締め付けてしまえばどうにもできない。
ほんの一瞬で、その場にいた四人を無力化してしまった。
「なるほど三鷹の言う通り、相性はよいというわけじゃな」
操作範囲を広げて反応を探る。
実のところ、死体は物であるため生田でも操作できる。
ただし彼女の場合は死者本人の能力を使わせることはできないし、なにより能力は魔術よりも効力が弱い。生田が死体を操作しようとしても、『死霊』の介入により乗っ取られることは確実だ。
だから彼女は物しか操らない。
「反応は三つ四つか。『死霊』本体はどこかのう」
物を操ればそれに触れる色々なものも感知できる。そのため彼女は、探知魔術とは別の索敵方法を有していた。ただ範囲はそこまで広くない。さすがに魔術ほど融通は聞かない。
そこに何かがいるとわかれば話は早い。生田の能力は物を操る。彼女にかかれば壁だの扉だのは全て障害物にはなり得ない。
「まずはここ」
1秒もかからずに対象との直線上に道を作る。その先では死体ではない生きている能力者が走っていた。
「な、なんだこれは!?」
彼は突如できた大穴に驚き、その先に女がいることを確認し向きを変えて襲いかかろうとした。が、その行動の前に生田は道を塞いだため姿は瞬く間に見えなくなってしまい、奥からかすかな声が聞こえるだけだった。
「次はあそこ」
穴を開ければその先には人。なのだが、先ほどの男より反応が鈍い。エスカレーターのように地面を動かして接近してみれば、案の定死体だと分かり、床の下へとそれを飲み込んだ。
「こちらは……ふむ、なかなか当たらんのう」
手当たり次第に探せば分かる。生田の考えは事実だ。
だがこの方法には重大な欠点が存在した。
「ここか?」
新しく開いた道の先には、また死体が動いていた。それを慣れた操作で床で飲み込もうとした時だった。
「ん?むっ……」
生田の能力は発動せず、死体は視線をこちらに向け走り寄ってきた。
能力が発動しない。
こんな状況は想定していなかった。そのため必然的に防御手段はなくなる。
死体は走りながら詠唱をして魔法陣を展開し、その先から炎の槍を作り出した。
ためらいもなく射出された炎の槍は、生田自身によって作られた真直ぐの射線を通り襲いかかった。
「ぐっ……」
大した威力ではないが、炎の槍が生田に直撃し、受け止めた右腕の広範囲にやけどを負ってしまう。
実のところ能力が操作不能になった状況は、『死霊』自身が使った土魔術が作り出したものだった。
能力を使って戦う際に重要な要素の一つとして、「能力は魔術に劣る」ことが挙げられる。つまり、生田の能力、物を操る能力を阻止するためには、操る物に自分の魔力を付与してしまえばいい。
これは四ツ橋サバイバルの時に圭も行った戦法だが、特に今回のような四方が囲まれた状態の時に大きな効果を発揮する。
魔力で上書きしてしまえば、この場にあるものすべてを生田は操れなくなってしまうのだ。能力を完全に封殺することができてしまう。
「これは、まずいのう……」
この状況は想定していなかった。そもそも生田は自分の能力を前提に戦っているため、接近戦などの心得はないに等しい。
「ひ、ヒヒッ、キヒヒッ」
君の悪い声が聞こえてくる。死体特有の声ではない、生きた声だ。
「『死霊』かっ!」
だが、声はしてもその先に生者はいない。
さらに、土の魔術を維持し続けながらも、死霊術によって死体は動き続けている。二つのタイプの異なる魔術を同時に使っている。
ここまで器用な芸当ができる人物は圭以外にあったことはないため、この状況で何をどうすれば良いのか分からず、少しずつ焦りが生まれてきていた。
「とにかく、土魔術の影響外に出るべきか。ええい、能力が使えないと、話にならぬ。っ、また来たかっ」
その場から移動するのを阻止しようと、次々と敵が送られてくる。近接戦闘の勝手が分からない生田は逃走を選択し、攻撃を受けるのを覚悟してその場から全速力で走り出した。
この敗走は、『闇夜の騎士団』の幹部というかつてない実力者に対して、自分の能力を過信したことによる失態だった。
「ぜ、全然相性がよくないではないかっ!三鷹のやつ、適当なことを言いよったな!」
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また場所は変わる。
地下最下層で散開したはずの『泥熱』沼地源五郎は、いつの間にか一つ上の階へと移動していた。
「能力は使ってみたいが、幹部とやらに当たって痛い思いしたくないなあ」
圭との契約を破ったわけではない。だが、沼地はどちらかというと雑魚狩りをして逃れたかった。
「お、はっけーん」
「っ!」
歩いていて見つけた人を見て、沼地はニヤニヤしながら近寄っていく。彼は最初は沼地のことを仲間かと思ったが、すぐにそれが間違いだと気がついた。
攻撃方法の心得がなかった沼地は、身体ごと思いっきり体当たりをしてきたのである。
突然の攻撃に反応できなかった男は壁に埋め込まれ意識を失ったようだった。
「おお、いけるな」
手を開いて閉じてを繰り返しながら、沼地は自分の身体能力の高さに驚いていた。今までまともに戦ったことのない沼地は、戦いがどんな感じなのかわかっていなかったのだ。
これなら楽勝じゃん。そう思っていたところに、また別の敵が現れた。
今度は仲間が壁に埋め込まれているのを見てすぐに敵だと悟ったらしい。距離を詰めて沼地の顔めがけて拳を繰り出した。
「『液状化』」
「なっ!?」
沼地がそう唱えると、その場に変化が起きた。
なんの変哲のない床が、敵の男が踏んだ瞬間に、足が床に沈んでしまったのだ。
足を沼に突っ込んだような状態に晒された男は、その場から脱出しようともがくが、身体を動かすたびに沈んでいく。その様子をニヤニヤと観察しながら、沼地は能力を解いた。
「か、固まって……」
「まあ頑張れ」
沼のようだった床はあっという間に元の硬さに変わり、床と一体化した男は腰部分までと手を完全に拘束されてしまった。
『泥熱』沼地源五郎の能力は『溶かす』能力。その力はあらゆるものを融解させる。溶かすという概念が、彼の能力を引き立てる。
とはいえどんな能力があっても、沼地の性格はズボラでめんどくさがり屋だった。
「能力はもうちょっと使いたいねぇ。少しくらい何かないかな」
能力で壁を溶かす。似たようなことは生田でも可能だが、沼地の場合は修復不可能という点で異なる。
勝手に部屋の中をのぞいて女性っぽい居住区を一通り堪能してから、一枚パンツをくすねてその場を離れる。
するとその後にその部屋の女性が戻ってきたらしく、ちらりと覗くと40代にも見える年増のおばさんが絶叫をあげていた。彼女とくすねたパンツを見比べて、沼地はその場にポイとパンツを投げ捨てた。
それから再び通路を歩こうとした時だった。
「おや、どこにいくつもりですか?」
目の前に、長身の男が立ちふさがっていた。
見た目はキリリとした整った顔で、例をあげるなら執事といったところだろうか。服装もきちんと整っており、この犯罪組織との場違いさを感じさせられた。
沼地はすぐに悟った。
「だれっ、……幹部?」
「意味合いとしては、そうかもしれません」
顎に指を当て首を傾げ、考え込む動作を見せる。
強者を連想させるような大胆なら行動に、沼地は一気に警戒度合いを引き上げた。
少しして首を元に戻した男は、右の手を手刀に変えて上に振り上げた。
なんとなく嫌な予感がした沼地は、振り下ろす瞬間にその場から左に飛び込む。そしてその後敵の手を見てから、床を見て戦慄した。
「うわー、斬れてる。やべっ」
縦に伸びる亀裂。それは間違いなく目の前の男による攻撃だと理解した。
「だれ、あんた……」
「失礼。わたくしは『闇夜の騎士団の一人、『亜空』ネロと申します」
「あ、あくう?」
「ええ。そうですよ。『泥熱』さん」
「俺のことまで……ダルい、めんどくさい……」
「わたくしもできる限りこんなことはしたくないのですが」
『亜空』ネロは左拳を握り、虚空に向かって裏拳を放つ。
するとどういうことだろうか。突如沼地は側頭部を殴られた衝撃が伝わり壁に身体をぶつけさせられた。
「死んでもらうことになりそうです」
なんらかの攻撃をしかけたネロは、沼地が壁に寄りかかる姿を見て、冷徹にそう告げた。
再びあげられた腕を見て、沼地はすぐに身体を動かした。あの動作が攻撃になっているのは間違いない。それに先ほどぶった斬りは避けられた。
「『液状化』」
能力を発動させると、ネロの足がゆっくりと沈み始める。だが、少し様子が違った。
足が埋まっていない。液状化した床を押しのけるようにして沈んでいるのだ。
これでは能力を解除しても拘束はできない。そもそも床の材質を簡単に斬れる時点で拘束の効果があったかは疑問だが。
ネロの腕が下へと勢いよく振り下ろされる。それに反応して一歩後ろに下がったが、どういうわけか、強烈な痛みが沼地の頭から発生した。
「うっ、く……」
チカチカした視界の先では、ネロがまた手を振り上げていた。
それを見て、思わず叫ぶ。
「『融解』!」
能力が発動した瞬間、二人の立つ位置の天井が赤熱を始めた。その範囲は瞬く間に大きくなり、ほんのわずかな時間で天井がとけ爛れ始めた。
「へへっ」
頭を両手で抑えながら様子を窺う。どろりと溶けた液体は、ネロへと真上から襲いかかった。
沼地の行える『溶かす』行為は基本的に粘度の操作と強制融解。強制融解の場合は融点温度まで対象物質は昇温する。
どろりと溶けた高温液体は普通なら身体を焼き焦がし、場合によっては溶かすだろう。
だが、目の前の男はこれでやられる程度のやわな男ではなかった。
「ふむ、『結界』」
まるでバリアでも張られたかのように、タダレ落ちる天井材は膜に沿って流れていく。その中心部にいるネロには被害は一切及んでいない。
これは厄介だった。自分の攻撃が今の所すべて無効化されている。
唖然としていると、突然姿が消えたと思えば、沼地の目の前にネロは顔を見せていた。
「と、溶けろっ」
とっさに発動した能力は本人の想像以上の威力を発揮し、沼地の立っていた位置周辺が全てどろりと融解し始める。
その影響で自分が立っている床も溶け始め、支える力がなくなった床は、最下層へとつながる。こうして、沼地も、ネロも、最下層へと戦場を写した。
そこへ折良く声が聞こえてきた。
「ん?なんだいこれは。ん?んん?」
余裕のありそうな気取った声は、下の階で周囲に炎を撒き散らしていたラクシェルだった。
『闇夜の騎士団』の幹部は、実質能力+魔術を持つ、異世界でも通用する実力者です。
ランク6級は上限がないため、同じランクでも大きな差があります。裏設定の異世界レベルではランク6はC級以上で、今残っている幹部は基本A級です。
今後の投稿に関してです。
最近妙に忙しい上に、続きを書くのに難儀しているため、更新はできて週1程度になりそうです。
次の投稿は5/22(金)19:00の予定。
ついに圭とミモザがぶつかります。




