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新年度の始まり

おまたせ

まさかコロナで学校がなくなるなんて思ってなかったので、あるある実感できない人もいるかもしれません

 4月は、新たなスタートをきる月だ。


 特に学生、それも新入生であれば尚更のこと。


 大学生活のスタートのために、楓は授業が始まる前から何度も大学へと訪れていた。


 そんな楓の隣にいるのは荒川香奈。彼女は圭の幼なじみで、年越しの時に二人は知り合った仲だった。


「良かったね。同じクラスだし」

「そうね。学部も同じだとは思わなかったわ」


 迫りくる上級生たちのビラの押し付けを全て無視して、身体測定のために二人は列に並んでいた。


 これでも楓は有名人だ。つい最近、ギルドサイトで圭に続いたデフォルメキャラとして追加されたため、彼女のことは誰もが知っている。


 ここ半月で世界でも最も有名な魔術師の一人となってしまっていた。

 なお他の有名人は三鷹圭と上岡成美の二人くらいである。


 そして大学生は自分たちのサークルに彼女を引き入れようと躍起になっていた。


「……楓ちゃん、なんか大変そうだね」

「これだけ取り囲まれると、ねえ」


 他の人にならサークル紹介のチラシを配るだけなのだが、楓の近くだけ列が異常に膨らんでいる。しばらくこんな生活が続くと想像すると、自然とため息が漏れてしまった。


「そういえば、圭とはどんな感じなの?」


 その言葉を聞いて、またため息を吐いてしまった。


「それが、最近あんまり一緒にいる時間がないの」

「えっ、そうなの?」


 ここ数日は楓も大学準備で忙しいということもあった。

 だがそれを含めても、どうも圭の方が忙しいらしい。


 ギルドへ何度も顔を出したり、楓を差し置いて能対課の竹岡に魔術のレクチャーしている。東京にも行っているようだが、それでもなぜそうまで忙しいのかよく分からなかった。


「うーん……授業が始まれば、圭も大学に来ざるを得ないんじゃないかな。そうなったらきっと、一緒にいる時間も増えるよ」

「そうかしら。……そうよね、そうに決まってるわ」


 落ち込んだ姿から、香奈の言葉で少しずつ元気を取り戻す。もしかしたら、ネガティブになりすぎたのかもしれない。


「それに、今は会えなくても、圭だって楓ちゃんと会いたいに決まってるんだから」

「あっ、そっか」


 ぽん、と手を叩く。この時楓は、うまくいくだろうと思っていた。






 ーーーーーーーーーーーーーーーー






 年度始まりから8日が経ち、ついに授業が始まった。

 そして家を出る直前、楓は圭の首を掴んで思いっきり前後に揺らしていた。


「一緒に行くとか、初日くらいあるじゃない、の、よ!」

「いやだって。高校と違って大学は授業の取り方自由じゃん。授業ないのに楓に合わせるつもりはないって」

「だからって、これわざとでしょ?なんで全部始まりも終わりも違うのよ」

「んなこと言われても」


 高校生だったら一緒に登校しようなんていう甘酸っぱい朝を迎えられるのだろうが、大学はシステムが全く異なる。


 一年で卒業に必要な単位の6割以上を一年で取ってしまった圭は、指定授業が多い楓とはほとんど時間割が被っていなかった。


「それに、最近夜もいないじゃない。どこ行ってるのよ」

「ああ、それ?定期的に能対課本部に行ってるのと、最近新しい依頼を受けたんだよね」

「依頼、ですって?もう受けないって言ってたのにっ、」

「あー、うん。まあこれもちょっと考えがあってね。まあ気にしないで」

「あー、もうっ!知らないっ!」


 新たに買った十万円もするロードバイクにまたがり、これまた新しく買った有名ブランドのカバンを背負ってから、窓から手を振る圭をキッと睨んで全力でペダルを漕ぎ出した。


「進路の関係もあるけど、一年生の時に単位取りすぎて暇すぎるんだよなぁ」


 真面目に授業に出たのが逆に裏目に出たのかもしれない。何度も出席を圭に任せてサークル活動をしていた慎也は何単位も落としたようで、一人で何を取ろうと頭を抱えている最中でもあった。


 そしてギルドへ連絡してから、圭も家の外へと飛び出した。





 最近は新幹線を使い、何度も東京へ訪れている。そして能対課に顔を出し、袴田と顔を合わせ続けていた。


「どうですか?」

「今のところ変化はねえな。動きもほとんどねえ」

「そうですか」


 袴田の能力『追跡』で、ナクモを捉えて『闇夜の騎士団』の本拠点を探し出す。この作戦は非常にうまくいっていた。


 実際ナクモは二箇所のみに長期間滞在しており、それ以外の場所にほぼ移動していない。

 これが事実なら、この二箇所は本拠点と治療拠点だろうと圭は予測していた。


 その二つの拠点はいずれも東京都内。少し外れた郊外に位置しているが、厄介なことに街の中に場所を構えているらしい。


「今の場所はたぶん病院だ。地図で確認したところ、中規模病院に位置していた」

「なるほど。能力者で病院となると、魔術ではやっぱり治癒不可能だったみたいですね」

「ま、そうなるな。これも予想通りってか」


 なぜ放射線被曝は治癒不可能なのか。これは治癒魔術の身体への影響のものだと圭は予測していた。


 治癒魔術は、身体を治す。これは人体の異常箇所を直す、という操作だ。骨が折れたのは物理的損傷であるし、怪我も皮膚や筋肉、血管などの損傷を直すものだ。

 さらに細胞分裂など自然回復の促進などの効果も含まれている、と圭は考えている。


 ただ、放射線を被曝すると、重要部分は損傷するのではなく、死滅する。幹細胞の死滅により白血球はなくなり病気に異常にかかりやすくなる。DNAの損傷により促進すべき回復能力自体が失われる。

 このように、圭の知る治癒魔術では完治はできない。


 またこれは、病気にかかった時にも言うことができる。

 体調を戻しても、その時点で細菌やウィルスが死滅したわけではない。身体がリセットされても、すぐに病気への抵抗のために発熱が起こり、症状はぶり返す。


 下手したら病原菌まで活性化させてしまう恐れもある。


 逆に、癌や肺炎などの異常変質であれば治るかもしれない。

 ここらへんの詳細は異世界では検討されなかった部分だ。今後、研究の必要があるだろう。


 ともあれ、通常の治癒魔術では被曝症状は治癒できないこと。そして、ナクモの命は風前の灯であることは分かった。


「で、どうすんだ?いつまでも秘密にしておいても能対課は協力すら出来ねぇぞ?」

「……それに関してですが」


 圭はなんとも悩ましさを感じさせる表情で、袴田の方を見返した。


「能対課の力なしで、攻めるつもりです」

「はっ?」


 一瞬言っている意味が分からなかった。それもそのはず。『闇夜の騎士団』は犯罪組織の中でも一際大きい。『赤』が壊滅した今となってはもはや独壇場だ。


 それを国家権力なしで攻め込むのは、袴田からすれば明らかに自殺行為だった。


「三鷹、いくらお前がランク6だからってそりゃ無茶だ。相手にも仲間を除いてもランク6級が最低4人いる」

「まあそうですが……」

「だから落ち着け。能対課にだって、ランク6は3人所属してんだ。特に、『最強』がいればまず間違いないはずだ」

「……ランク6、ねぇ」




 ランク6というのは、政府が決めた格付け範囲には収まらない人への例外的処置だ。

 当然上限は存在しない。


 そのため、ランク6でも格の差はかなり大きい。



 ここで。異世界のギルドランクで当てはめてみよう。


 ギルドランクではこの世界で言えばA〜F+Sの7段階に分類される。人外のS級は除外するとして、異世界の制度ではこちらの世界の魔術師たちはランクは非常に低い。


 例えば、よく知るランク5の一人、葛西繁信はギルドランクではCの真ん中に位置する。


 圭のランクはA下位程度。条件次第ではもっと上にもなる。向こうの世界でも上位2%程度のレベルと思ってもらえればいい。ただこちらの世界では、B上位程度まで落ちている。


 そして肝心の他のランク6だが、圭の見立てでは『重厳』真田権蔵はB下位、『五属』竹岡はB上位といったところだろう。


 竹岡の圧倒的魔力を考えれば鍛錬次第では相当上がるだろうが、現時点ではその程度だ。真田に関してはこちらの世界ではこれ以上の実力向上は難しい。


 他にもラクシェルはB中位、生田翔子はB上位と、圭の見立てではA級に至る人は今のところいない。


 それに対して『闇夜の騎士団』の場合、ナクモがまずA下位レベルの実力者だ。ハザマに関しては今までにない能力タイプなため予測しにくいがB中位以上。


 そして、『記憶』ミモザは確実にA級。



 要は同じランク6でも、能対課と『闇夜の騎士団』では、実力が全く違う。


 一つくらいのランクの差は戦略次第でひっくり返せるのだが、残念なことに能対課の真田と竹岡はその特性上、戦術への柔軟性がほとんどない。言うなれば脳筋だ。



 以上のことから、能対課の『闇夜の騎士団』への戦力はほとんど意味がないだろうと考えられる。


 それならば、扱えるのが炎系統のみとはいえ決闘の際に優れた機転を見せたラクシェル、能力の使い勝手が良く格上とも対等以上に渡り合えた生田の方がいい。


 そして、圭は二人の力を借りようとも考えていた。


「ちなみに『最強』さんはどれくらい強いんですか?」

「それは分からん。あの人の本気を見た人は一人もいないからな」

「一人も?それでも『最強』なんて称号もらえるんですね」

「まあ、竹岡さんとかなら知ってると思う。それで、どうすんだ?」


 仲間を除いてランク6は4人。対して協力要請がうまくいってもこちら側は3人だ。『星詠』左神神子はたぶん来ないだろうし実力も未知数だ。


「……最後のランク6、『泥熱』と交渉して、四人で攻略してやりますよ」

「『泥熱』、か……」


『泥熱』


 名前は分からないが、おそらく能力は『溶かす』ことを主軸にした能力者だ。応用次第ではかなり強い戦力になるはずだ。ランク5以下は圭が科学魔術を使えば瞬殺が可能なはず。


 うまくいくことを祈って、圭は竹岡のところへと足を向けた。


「おっ、おおっ?おおおっ!」


 突如として袴田が大きな声を上げた。


「聞いてくれ、三鷹っ!『追跡』の反応が消えた。たぶん、『強靭』は死んだぞっ!」

「そう、ですか。なら準備が整い次第、進攻してやろうじゃないですか」


 ニヤリと笑い改めて竹岡の方へ、『泥熱』のことを聞くために歩き出した。

最近は一話書くよりも三時間勉強する方が楽です。ずっとネタ探ししています。

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