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護衛する護衛対象

 二つの魔術を覚えさせられた楓は、圭の護衛対象である里村春海としばらく一緒に行動することになった。


「不本意だけど、しかたないわね」

「そんな嫌がらなくてもいいのに。せっかくなんだから、仲良くしましょ、ね?」

「まあそれはいいけど……」


 家を出る時に、一つ唱える。


「『捉えろ』」


 魔法陣は赤く光り、探知魔術が周囲の魔術関連の存在を教えてくれる。圭の指導によって鍛えられた魔術の感覚は、少量の魔力で長期間の効果をもたらしてくれる。


「どう?」

「……いたわ。でも距離を取ろうとしてる。まだ心配はなさそう」


 圭の魔術では分からなかったことが分かる。一定の距離を保ちながら、里村を追跡している。探知によってなんとなく個人を判別できる楓は、今まで圭が探知していた存在のうちのどれかが死霊術師の存在によるものだと予測がついた。


「こんなことになるなんて、思ってもなかった」

「それは関係者全員が思っているでしょうね。まさか、『闇夜の騎士団』の幹部クラスがあなた一人を執拗に狙うなんて、誰も予測がつかないわ」


 まだ『闇夜の騎士団』の者だと確定したわけではない。しかし圭はほぼ確信していた。

 であれば、楓も八割がたそうなのだろうと思っている。


 あの日、大小何十もの人や動物を操れる存在があるのであれば、それはなんらかの名を馳せるほどの人でないとおかしい。


 気色悪い。

 そう思わざるを得なかった。


「私も、あなたの気持ちはよく分かるわ」

「えっ?」

「……昔、『闇夜の騎士団』に執拗に狙われていたの。死霊術師には狙われていなかったと思うけれど、似たような体験をしているの」


 楓の独白に、里村は思わず手を口に当てた。

 今の楓は、里村から見ればとても心強い存在だ。圭ほどではないにしても、魔術も十分使うことができるし、今回はランク6がその実力を保証している。


 一年前の楓を知らない里村には、その言葉が信じられなかった。


「私はもともとランク1、魔術師の部類では最弱と言ってもいいほどに弱かったの。魔術や能力は秘匿されているせいで、協力してもらえる人も限られてる。だから、何度も拐われそうになったわ」

「なら、何で今は……?」


 改めてこの一年間を思い出す。そして、言っても本当の意味では分かるまいと思いながらも、常に思っていることを口に出した。


「修行よ。圭と出会って、死ぬほど修行した。魔術のことも、戦い方も、あと勉強も、いろいろ教えてもらったの。まだまだ修行中だけど、今では四つ星と同等に戦える。五つ星クラスになると厳しいけど、隣に圭もいるし、襲われることはほぼなくなったわ」

「そうなんだ。すごいね」

「ふふん、これでも人の三倍は努力していると思っているわ」


 木本が運転する車の中で、楓は鼻を高くしていた。


 別に万能感に浸っているわけではない。ランク4と同等というのは、楓には不十分。そもそも周りで起こったことはほとんどランク6級だ。


 圭も楓の実力は把握している。それを考慮した上で、楓を守る立ち回りをしている。


「正直言って、今までの相手だと不安なのだけれど、圭の話を聞く限りでは私でも対処できるわ。だから安心してていいわ」

「う、うん……」


 四つ星と同等。その話を聞いて少し不安になったが、車も止まり仕事場に到着したため、それ以降の話は打ち切りになった。



 いまだに探知魔術を発動し続けている楓は、木本の接触がしっかりと行われているのを確認しながらポツリと呟いた。


「探知魔術は距離の三乗に反比例って言ってたけど、こんなの感覚よね」


 澱んだ反応が、里村へ近づいたり遠退いたりを繰り返している。

 圭が教えてくれた魔術理論の活用は、死霊術師の思考をかなり混乱させていた。


「魔術も使いようによっては効果は大きく変わる、か。魔術を熟知できていない私にはまだできないわ」


 耳につけたイヤホンの位置を直す。じわりじわり

 と近づく反応に緊張の汗を流した。


 今、圭が魔術を使用していると死霊術師は判断しているはずだ。邪魔な存在を消すには罪を着せて身動きを取れなくするのが簡単だ。だから、どうしても死者の存在を絡めたい。


 昼間に、人目のつく場所で接触させる。その意図を理解している楓は少しずつ位置をずらし、街中でも人がいない場所へと移動していく。


 東京は非常に清潔で綺麗な都市だ。しかしその傍ら、ビルなどに挟まれた路地裏では常に薄暗く人目のない場所が随所に存在する。そのうちの一つに、楓は姿を隠した。





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 一方、圭の方はというと、警視庁に付随する能対課本部へと顔を出していた。

 以前袴田と連絡先も交換していたため、部外者でも入ること自体は簡単だった。


「珍しいな、三鷹。おまえ確か能対課嫌いだろ?」

「あまり良い印象は持ってないですけど、それを含めても能対課にお邪魔する必要があるんですよ」

「へえ、……嫌な予感がビンビンする」


 袴田がタバコをふかす。いつも一緒にいる中田は今日はいない。袴田曰く、事務作業をしていたところに電話がかかってきたため一人で抜け出したとのことだ。


「それで、竹岡さんまで呼んで何するってんだ」

「あー、それは来てからということで」


 袴田は能対課特殊捜査室というところに所属している刑事だ。以前『赤』を追う時に無理やり協力させられたことがある。


「それにしても、おまえも大変だな。行く先々で災難にあってないか?」

「よくご存じで。前のサバイバルでも、『闇夜の騎士団』とぶつかりましたよ」

「あれは俺も見た。『強靭』だろ?」

「そうです。その後、もう一人も会いました」

「もう一人?」

「……『記憶』です」

「マジか……」


『闇夜の騎士団』ほどの大きな組織になると、ある程度情報が得られている。


 例えば、いわゆる最高幹部と言われていたのは、『剛毒』『強靭』『死霊』『記憶』の四人。『剛毒』のハザマは死んだが、まだ三人いる。それぞれの能力なども多少は出回っており、能対課に聞けば誰もが把握している。


 他にも『赤』なども同じだ。


 そして、すでに『闇夜の騎士団』の最高幹部のうち三人に遭遇し、最後の一人が今から関わる人物だと言えば、圭の災難が尋常ではないと分かるだろう。


 しばらく応接室のような部屋で待つと、ノックをしてから慌てて竹岡が顔を出した。


 三十後半とは思えない顔つき、体つきをしている。そこにたるんだ脂肪や皮は一切見受けられなかった。


「待たせて申し訳ない」

「いえ、お久しぶりです」


 軽く頭を下げると、それに合わせて竹岡も頭を下げる。その様子を見た袴田が、特に意味もないのに慌てて頭を下げた。


「それで、どうした?まさか奇術師がこちらに出向いてくるとは思わなかった」

「いやあ、今回はちょっと力をお借りしたくて」


 アハハと場に似合わない笑い声を上げるが、竹岡は一切反応しなかった。それに少しショックを受け、咳払いをしてから話を始めた。


「コホン、今回お二人に会いに来たのはですね。『闇夜の騎士団』の『死霊』の手がかりを発見したからです」

「なにぃっ!?」

「っ、……」


 まさかの言葉に驚いた竹岡が、思わず声を出してしまった袴田を睨む。ランク6に悪印象を与えたくなかった袴田は思わず口を塞いだ。


「それは、本当なの?」

「本当です。おかげでスキャンダル、世間の晒し者です」


 肩を竦めると、竹岡も袴田も納得したような表情を見せた。


「なるほどねぇ。ってことは、あの里村春海の周りに『死霊』が関与してるってことか」

「察しが良くて助かります。で、これは僕だけじゃ解決は難しいと思ったので、お二人の力を借りに来ました」


 それから里村春海を中心に起こっていることをザックリと話す。MAACの話を出すと眉をひそめられたが、それ以外は真摯に聞いてもらえた。


「そこで、少し力を貸していただきたい」

「里村春海周辺に、能対課を配備しろということか」

「いえ、違います」


 親指を立てて、袴田の方に指す。指された袴田は、突然の動作にどう反応すればいいか分からない様子だった。


「袴田さんを、貸してください。もしかしたら大捕物になるかもしれません」

「袴田?……この男を?」

「はい」


 一瞬誰だか分からなかった竹岡は、少し距離を離して座った袴田に目をやった。

 それに圭は真剣に頷く。


「袴田さんの『追跡(チェイサー)』を使えば、死霊術師から芋づる式に、『闇夜の騎士団』のアジトまで引き出せるかもしれません」





「しかしよお、いろいろ納得がいかねえ部分があるんだ」


 とあるビルの屋上にて、地上を見下ろす圭に、袴田は不満を漏らす。


「なんで楓ちゃんを護衛にしたんだ?三鷹はそんなことするタイプじゃねえと思っていたんだがな」

「そろそろ雛も親離れする頃かなと思いまして」

「でも楓ちゃん、戦えねぇじゃねえか」

「とんでもない」


 後ろを振り返り、ニヤニヤした顔を見せる。

 袴田は楓が戦ったところを見たことはない。圭に護られる、か弱い女の子だと認識している。


「楓は戦えますよ。ランク4と互角です。それに、今回の護衛は楓が一番向いている」


 こういうことはやらせたくないし、傷つけたくないのは事実だが、こればかりは仕方がない。そろそろ圭の手を離れるべき頃合いだ。


「本当なのか?全然そうは見えねぇが」

「そう思うことも仕方ないかもしれませんね」

「ああ、それともう一つ気になることがある」

「なんですか?」


 タバコを下に落としグリグリと足で押しつぶし火を消した。


「竹岡さんに伏せておくように言ったのはなんでだ?」

「ああ、そのことですか」


 圭は三人で話している最中に、このことを誰にも言わないように念を押していた。袴田も、竹岡も、『死霊』という大物に対してなぜここまで秘密裏に動くのか少し疑問には思っていた。


「簡単です。能対課を含めた警視庁に、死体が紛れ込んでるかもしれないからですよ」

「あ、ああ。なるほど、そういうことか……てっきり三鷹の能対課嫌いが理由だと思ってた」

「感情と行動は別物です。そんなこと言って『死霊』に裏を書かれたら意味がないですからね」


 再び地上を見下ろす。ごうごうと風が吹く中では、身体強化なしには座ってすらいられないだろう。


 その状態で、圭は耳に手を当てた。


「楓、聞こえてる?」

『……聞こえ、てるわっ』


 イヤホンで連絡を取る。せっかくだから通信用に買ってみたものだ。


『今、戦闘中っ!』

「……早いな。ヤバそう?」

『そうなった時、連絡するわ』


 プツリと回線が途切れる。


「しっかし、死体をどうやって見分けるんだ?」

「そりゃもちろん、探知ですよ。ホントはこっちを楓にやってもらいたかったんですけどね」


 死霊術によって操られた物を見分ける探知は優秀だ。スキャンダルやら冤罪やらへの対処は、楓がやるのが一番いい。


「あー、いや。こっちが楓の方が良かったか?まあいいや。とりあえず、戦闘が終わるのを待つか」


 楓が常時展開させている探知魔術を身に感じながら、立ったままその場で待ち続けた。

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