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星なしへの依頼

 巷で話題になるMAAC。


 これらは日本政府の手からすでに離れ勝手に盛り上がってしまっていた。

 最近の動向を見ても、もともと魔術師たちの情報公開は避けられない。それを分かっていた政府側も何もしなかったわけではない。


 魔術師や能力者の情報を公開し、彼らの危険性を説明して半強制的に抱き込む。

 これによってある程度の魔術師たちを抑え込め、安全性にも充分気を払っていると説明し法整備を行なっていく予定だった。



 しかし、どうしても国家主体で動くには時間がかかる。実際、水面下で着々と準備は進められていたが、それでもあと一年以上かかるだろうと見込まれていた。



 このタイミングで、『闇夜の騎士団(トゥワイス・ナイト)』が強引に人知を超えた存在を表に出してしまった。


 今まで敢えて映像などを残さなかったのもこういった急速な拡散を防ぐためだったのだが、一度拡散されればもう手がつけられない。


 魔術師や能力者に関しては、完全に政府の手を離れてしまった。

 唯一の救いが実力者、特にランク6の強制所属を継続させられているところだろう。能対課の存在でこの業界にもかなりの規制が働いている。



 しかし、さらに彼らの存在が政府の手から離れてしまった。それはMAACが原因だった。


 新たなシステムを構築し、すでに表に出てしまった事実を有効活用して、政府に対して圧倒的優位を作ってしまった。


 今日本政府はこれらの行動を縛る法律は存在しない。今後も現れるであろうこういった組織への干渉も難しくなっていった。



「いやー。ほんっとに、三鷹くんが協力してくれて助かったよ。君がいなければここまでうまく軌道に乗れなかった」

「まあ端々で気になることはありますが、僕としてもこの成功は嬉しいです。政府の言いなりってのも気に食わなかったですしね」


 別にランク6が強制させられることはほとんどないのだが、かつて何度も強制させられ、なおかつ魔術師に対する配慮のかけらもない現状を見ると、してやったりと感じさせられる。


「それに恩は売っても見返りが得られる可能性も低い。今後こういった組織が乱立し、魔術師たちに関する政府の印象はますます低下していくと思います。

 もちろんこれがいいとは限りません。政権交代なんてこともあり得ます。

 ですが、現状を見れば政権交代してしまうと、ますます国家としてダメになっていく。そういう意味では、近々政府と接触し協賛化していく必要も出てくるでしょう」

「それもそうだな。……国家公認という称号も、早めに獲得してもいいかもしれない。まだ他に競合もいない、今のうちに基盤は固めておいた方がいいだろう」


 百瀬秀介は圭の言葉に頷いた。今のところものすごい数の依頼が舞い込んで、完全に需要が供給を上回っている。ここ数日、いろんなテレビが連日魔術師や能力者とワンデイ契約を行い魔術特番を撮影している。ちなみに、やはり最も迫力のある魔術は三鷹圭、生田翔子、ナクモの三人が繰り広げた戦いらしく、その質問を行い毎回魔術師たちを困らせていた。


「それで、君にも依頼が来てるよ。『()()()』くん」


『星なし』とは、圭につけられた新たな二つ名だった。能力者プロフで唯一星がついていないせいでつけられた。


「どうせテレビでしょ?」

「ところがどっこい、それだけじゃないんだ」

「へえ」


 ディスプレイの前にあったボタン一つだけのリモコンを持ち電源をつけると、その画面には二つの依頼書が表示されていた。


「三鷹くんが興味を持ちそうなものを選んだ」


 二つの依頼の中身をざっと読み込む。一つは、大学からの依頼だった。


 圭のプロフィールには、実は「何でもできます」と書かれている。もちろん限界はあるのだが、それでも一般人が思い浮かびそうなことはだいたい再現できる。


 そのため、圭の魔術を使って研究などを行いたいという依頼が舞い込んできた。


「なるほど……これ、絶対しんどいやつだよね」


 魔術に興味を持つか、それとも自分の研究が進むのを喜ぶかは分からないが、とにかく忙しいのだけは分かる。移動含めて十五分単位で様々な研究室を巡りそれぞれの要望に応えていく。


 言い換えてしまえば、本来なら一人一日という単位でレンタルするはずのものを、二十四時間酷使することで何人も使えるようにしてしまおうという考えだ。


 これらは中継された魔術の中に、興味深い科学理論が混ざっていたことが理由だった。


 ただ、たしかに魔術を科学の発展に繋げるのは悪くない。依頼があれば受けてもいいかなとは思っていたが、これは却下。


 たとえ一億積まれようが受ける気は一切起きなかった。




 二つ目は、護衛だった。


「このご時世、わざわざ僕に護衛依頼ですか」


 現在圭は、契約金も星の数も存在しない登録者だ。当然契約金も予想がつかない。星がないのだから雇えないのではないか、とか、シークレットキャラなため契約金がとんでもないだろうと予想されている。


 そこにわざわざ護衛の依頼を突きつけてくるのは、なかなかに度胸のある行為と言えるだろう。


「依頼主は……女優?」


 なんだか見たことある、というよりは誰でも知っていると言っていい名前が、依頼主の欄に記載されていた。


「……なんで?」


 女優に限らず、テレビ出演している有名人はあまり護衛を必要としない。それは危害を加えたときのリスクが大きすぎるから。


 大規模組織が狙うには個人は小さすぎるし、かといえ小物が狙えば徹底的に追求させられる。


 そんな理由で護衛の必要性が薄いのにもかかわらず、敢えて三鷹圭を指名する意味が分からなかった。


「彼女は最近、ストーカーにつけまわされているらしい。それに不安を感じて事務所側も手を打った。魔術師サイドによるものだと考えているようだ。にしても警戒しすぎな気もするが」

「ふーん。あんまり興味は惹かれないけど……一つくらい受けるべきですよね」

「そうだな。能力者優先の立場をとっているとはいえ、代表とも言える人が何もしないってのはまずいだろう。そういう意味ではこの依頼は妥当だろうと思って用意しておいた」


 依頼内容は、護衛と逮捕。


 本当にいるかどうか分からないが、ストーカーを捕まえてくれればさらに報酬を出すという。

 普通に考えれば異常なレベルでの金額を請求されるのは目に見えているのだが、それを分かった上で依頼しているのだろうか。


「分かりました。とりあえず話を聞いてみます」



 最近能力試合の企画を通してさらに金を儲けようと考えている百瀬秀介は笑顔で圭を送り出した。


「なんかうまく行きすぎてるのも若干腹立つけど、いい商売してるからなあ」


 MAACはビジネス、一般人、能力者全てに恩恵をもたらしている。唯一困るのは自分たちの手を離れていった政府側だろう。


 それよりも、超有名人、しかも女性の依頼を受けるとなると楓が怒りそうな予感がして、どう言い訳するべきか考える方に思考が回り始めていた。





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「初めまして」

「どうも」


 個室のある喫茶店に風貌を隠しながらやってきた二人は、初めの挨拶をしてからようやく姿を現した。


「うわー、こんな間近で見たの初めて」


 姿を現したのは、目も冴えるほどの美人だった。プロフィールを見れば圭より三歳ほど年上で、今世間で最も人気な芸能人の一人だ。


里村春海さとむらはるみと申します」

「三鷹圭と言います、どうぞよろしく」

「ええ、よろしく」


 パッチリとした目に高い鼻筋、魅力的な唇。しっかり化粧も施して大人の雰囲気を感じさせられる。百人いれば百人が振り返るような美女だった。


 その隣に、キャリアウーマンが付随して座っている。

 おそらくマネージャーだろう。芸能界を知らない圭は適当に予測を立てた。


 圭はすぐに里村に見惚れるのを止め、早速話し合いへと移行することに決めた。これなら楓の方がいいなどと個人的に決めつけたのもある。


「さっそくですが、契約の要件の確認をしたいと思います」

「…………」


 二人が穴が開くほど圭のことを見つめてくる。書類取り出しに一度鞄に目を落としてから、やたらとしつこいその視線に気がついた。


「あの、何か問題でもありましたか?」

「あ、いえっ!とんでもないっ!」


 慌てて里村が両手を前に振る。それからもう一度圭の方をマジマジと見つめてきた。


「あの……」


 どうも視線は、なにか特別なものでも見ているかのようなものに感じる。自分にそんなものがあるのだろうかと考えながら、めんどくさくなって話を仕切り直そうとしたときだった。


「うん、本物よ。本物、ホンモノ!」

「はい?」

「あの動画に映ってた人ソックリ。あれはやっぱりフェイクじゃなかったんだ」

「……あー、」


 またこれか。ここ何度も繰り返し見てきたその反応にうんざりしてため息をついた。


「わたし、ファンなの。あなたの戦いに、とても心を惹かれたわ」


 気がつけば手を取られ、両手でガッツリ握りしめられた。その手を見て、やはり困惑顔を浮かばせてしまう。


「もしかして、僕に依頼に来たのって、それが目的ですか?」

「もちろんそ「違います」


 里村の言葉を隣の女が大きく遮った。メガネをかけた融通の効かなそうな顔をしている彼女は、わざわざ里村の腕を掴み机の下まで下ろした。


「わたくし、こういうものです」


 渡された名刺には事務所名、連絡先とともに「木本夏樹きもとなつき」という名前が記されていた。


「今回は三鷹圭さんに護衛の依頼をしにきました。……だから手を握るな!」

「えぇ、だってぇ」

「そんなの後にしてくださいって!」


 再び圭の手を握った里村に木本は怒りの言葉を浴びせるも、それを当の本人はほとんど自覚していないようだ。

 なんだかめんどくさそうな二人だなと思いながら、圭は話の続きを促した。


「実は、かなり前からコイ……里村はストーカーにつけられてると言っていまして。今まで何度も探偵などに調査を依頼したのですがこれといった証拠は得られずじまいでした」

「ああ、なるほど」

「しかし今回魔法やら超能力やらが発覚したということで、それに対応できるエキスパートを呼ぶべきではと考えたのです」

「それで僕のところに」

「そうなの、あなたに会ってみたくて」

「春海は黙ってて」


 兎にも角にも、今まで視線を感じてきたストーカーは、魔術師か能力者の仕業ではないかと考えたわけだ。


 もちろんそういう被害が出ないわけはなく、話を聞く限りかなり頻繁に起こるらしい。芸能界も大変だなとは思ったが、よくよく考えてみれば『闇夜の騎士団』に粘着されている自分の方が大変かもしれないと思い直した。


「まあいいや。それで、契約金なんですけど」

「それについてはこのわたし、里村春海が保証するよ」

「だから黙ってて」

「そんなあ」

「すいません、このバ……里村も三鷹さんに会えて少し興奮しているようです」

「あ、はい……」

「それで契約金なのですが……」


 短期契約、最長一月。事務所から提供する金額は一日あたり百万、捕まえた際は大きな褒賞を出すという。


 ただ、外面的にも圭を雇うのに百万では全くと言っていいほど足りない。大企業が揃いも揃って行なっている一日契約は、四つ星五つ星だとその時点で数百万に至る。

 体裁を整えるにはそれを超える金額を提示する必要があるだろう。


「我々ではこれが限界なのですが、不足分は里村本人が出すということです」

「そう、だから、わたしが保証すると言っているの!」

「……あ、はい。そうですか」


 毎日五百万円出すと豪語しているが、本当に大丈夫なのだろうか。


「別にいいの。どうせお金なんて使いきれないし、ドブに捨てるつもりで投資?に使ってみたらどんどん増えてくし」


 里村は親が芸能人だったり、裕福なお嬢様という経歴は一切なく、地方のごく一般的な家庭で育ってきた。それをたまたまスカウトに目をつけられ、あれよあれよと芸能界を駆け上がっていったらしい。

 そのため本人もどこか抜けている上に、お金の派手な使い方よ分からず手持ち無沙汰になっているようだった。


「なーるほど。その気持ちはよーく分かります。お金持ってても、使い道ないですよね」

「そうなの、やっぱり圭くんもそう思うよね?」

「僕もMAACに出資したらどんどんお金増えてっちゃって」


 その言葉に目を光らせた木本がすかさず食いつく。


「であれば、契約金も多少融通を」

「それは無理です。世間体ってのもあるんで」

「そうですか……」

「あ、あと確認しておきたいのですが」

「はい?」

「どれくらい護衛していればいいんですか?」

「護衛は、常に行うと聞いていたのですが、違うのですか?」

「……」


 これはスキャンダルになり得るのではないだろうか。他に選択肢がなかったとはいえ、この判断は間違っていたのかもしれない。


 嫌だなと思いつつ、圭は書類にサインした。

補足

圭を含めた護衛側は今まで世間で騒がれたことがないので、スキャンダルという言葉に疎いです。

そのためそれに気が付いても深く考えずにサインしてしまっています。


また、楓は弱いのに護衛は?と思う方も多いと思いますが、楓さん普通に強くなっています。

今までの事件が全てランク6級だったから弱く見えるだけです。

どの程度の実力なのかはそのうち分かります。

それにもはや護衛契約も形骸化しています。外堀も埋められつつあるし。


他にも理由はありますが、もう護衛は必要ないかなと考えた圭は、楓を置いて頻繁に外に出かけています。

なお楓の心境は……

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