やっぱりバレたらめんどくさい
30万字を突破。連載開始からもうすぐ三ヶ月、我ながらハイペースだなと感じてます。
今後もよろしくお願いします。
こっそり楓を迎えにいくと、指定していた場所に、楓ともう一人の女の姿が見えた。
「あれは……ンゲッ!」
見覚えがある、どころか二ヶ月前に顔を合わせていた。
「あ、ケイ。ちょっと遅いわ」
おずおずと姿を現すと、楓がすぐさま見つけてきて圭へと声をかける。
それに反応して、もう一人の女が圭の方を向いた。
「あっ!圭!」
そこにいたのは、幼なじみの香奈だった。
目を丸くしてから、ズカズカとこちらへ歩み寄ってくる。それに対してなんとも言えない顔をしながら、足を一歩引いた。
「ちょっと!どういうこと!」
「な、な、なにが?」
「決まってるじゃない!何をどうしたら、こんなところにあんたがいるのよ!」
スマホに表示されたのは、いつぞやの動画のトリミング画像だった。
「ほ、ほおー……めっちゃいい感じのシーンじゃん」
「そうよ。ベストショットを見つけるためにどれだけの……って、ちがーう!」
前に出したスマホを後ろに大きく引き、今度は香奈自身が圭へと詰め寄る。その迫力に、さすがの圭も身体を縮めた。
「なにこれ、どういうこと!魔術師って、魔法使えるって!意味わかんない!」
「え、えっと、ちょっと落ち着いて……」
「香奈さん、落ち着きましょう?ここで問い詰めても意味ないわ」
「楓ちゃん……そう、そうだね。このバカタレを絞めるのは別の場所にしよう」
「え?閉める?」
「あんたは絶対、ついてきなさい!」
恐れなく、香奈は圭の襟首を絞める。怒りの目を向けられていることを理解し、再び圭は縮こまった。
「はぁ、なんか疲れた」
「なんかって、それはわ・た・し・の・セ・リ・フ!だからね!……はぁ」
個室の付いているレストランに入り、大きなため息をつき肩を落とす。香奈はこの一ヶ月、フラストレーションが溜まりに溜まっていた。
「だいたい、何、魔術師って。圭、あんた年越しの時魔術なんて使えない、とか言ってたじゃない!」
「いやぁ、それは諸事情で……」
「諸事情も何も、あるかぁぁぁっ!!」
机を大きく叩きつけて、香奈は大声でブチギレた。
「いつ、どこで、なんで、どうやって、魔術を使えるようになったのよ!十八年間、一切そんなそぶり見せなかったじゃない!なに、隠してたわけ!」
「あー、落ち着いて。事情を話すから」
それから三十分近くもかけて香奈を宥め、それぞれ一品ずつ頼んだ。
「実は魔術を使えるようになったのは大学入ってからなんだ。だから別に高校まで隠してたわけじゃない。それに、秘密にしてたのは……今の騒ぎを見れば分かるだろ?」
「うぅぅぅ、あぁぁぁぁ!理解できるけど、納得できないぃぃぃっ!」
「んなこと言われても……」
「じゃあ!なんであんたは返信しなかったのよ!あれだけ、あれだけメッセージ送ったのに!」
「いやぁ、事情話すの、すげぇ時間かかるじゃん?それに、めんどくさいし……」
「めんどくさい、だぁ?こっちはそれどころじゃなかったよ!気になって、気になりすぎて!勉強手につかなかったんだから!」
「あ、はい。ごめんなさい」
親しい人が、突如として有名人になれば、それはもう気になって気になって仕方がない。この感覚はどんなことにも例えることはできない。もはや頭が狂いそうだったのだ。
もしここで楓と出会わなかったら、それこそ試験に集中できなかったかもしれない。会ったところで集中できたとは言わないが。
「それで?」
「え?」
香奈が膝をついてフォークを圭へと差し向ける。
「それで?」
「え?……ええ?」
今度は差し向けたフォークを圭の鼻先まで近づけた。
「それで!?」
「えぇ?ええぇ……な、なにを求めてんだよ」
「知るかぁぁぁぁ!」
それからも、香奈は支離滅裂な日本語で圭を問い詰めてから、疲れ果てたように机に蹲った。
「もう、知らないもん」
「あ、そういえば」
机に突っ伏していた頭を、圭の声を聞いただけで跳ね起こした。
「楓も魔術師だけど、知ってた?」
「え?」
視線を右にずらす。普段飲まないコーヒーをすする圭の隣で、スイーツを口に入れた楓は頬に手を当ててふにゃりと幸せそうな顔をしていた。
「う、」
「う?」
「裏切り者おぉぉぉぉぉっ……」
それからこの日は解散。明日も試験のためコンディションを整えるという名目のもと、ようやく圭は幼なじみの魔の手から解放されたのだった。
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次の日、また幼なじみに捕まった。
とはいえ、昨日ほど気が動転してはいない。一度話したことにより心を落ち着けたのだろうか。
「圭、魔術使ってよ」
「……おまえもかよ」
百は聞いたこの言葉に、心底うんざりした。
「なに、いいじゃない」
「どんだけ僕がその言葉を聞いたと思ってるんだ」
「そんなの知らないから」
「いいか、よく聞け香奈。おまえ、四六時中見たこともないやつに話しかけられてどう思うんだ?なんもしてないのにテレビやらなんやらが寄ってくるのをどう思うんだ?そりゃうんざりどころじゃ済まないって」
ため息を吐く圭を見て、楓がポツリとつぶやいた。
「……自業自得」
「ほー、どの口がそれをいうのかな?」
しっかりと耳にした圭が楓の頬を摘む。
「え?この口か?」
「い、いひゃい、ひひゃい」
「誰のせいって言うんなら楓のせいだろうが」
楓が圭を捕まえたのが、ここまで動いたキッカケだった。
ランク6と被害無視でバトったり、学園で暴れたり、暗殺者をぶっ殺したり、自然現象では説明のつかない竜巻を長時間発生させたり、サバイバルで全員ぶっ飛ばしたりしたのは事実だが、それは不可抗力であって断じて自業自得ではない。
そう、すべてはこの小生意気な歳下の少女のせいなのだ。
「よーし、そうだな。試験も終わったし、今日の鍛錬は徹底的にやってやろう」
「えっ、ええっ!?それはイヤ!絶対イヤよ!」
「生意気な子にはお仕置きせんとなぁ」
クツクツと圭が笑うと、楓は身震いをさせて香奈へとしがみついた。
「あんたたち、いったいなにをやってるわけ?」
「鍛錬」「虐め」
二人の言葉を聞いて、香奈は余計訳が分からなくなったようだった。
「そういえば、知ってる?……って、知ってるよね。今日あのMAACのサイトオープンらしいんだけど」
「ん?ああ、MAACね」
こっそり頼んで二次試験終了後に伸ばしてもらったMAACのサイトは、ちょうど先ほどオープンしたところらしい。香奈がスマホをいじってツブッターを見ると、タイムラインがサイトオープン一色に埋まっていた。
「見て見てこれ。一覧だって」
今、話題真っ最中のMAACには、とんでもない数のアクセスが集中している。サーバー側も極限まで対応できるよう手配したが、それでもそう簡単には対処しきれない。
実際、香奈のスマホもMAACを開こうとしてずっとサイトページが表示されないままだった。
その代わりとしてSNSが大量の情報を投稿し、それをサイトの代わりに見るのが精一杯だ。
「へえー、いろんな人がいるんだねえ」
その中には過去に圭と戦った人や知り合った人もいる。それを除いても何百人といる魔術師や能力者は、その情報が余すことなく世界中に発信されていた。
「あ、これ。圭の情報」
「ん?どれどれ……」
プロフィールには名前、身長、体重、大学名、二つ名などなど、かなりの情報が記載されていた。
「おお、なかなかカッコよく盛れてるじゃん」
もはや日本に住むほぼ全員に顔を知られてしまった圭は、自分の顔を見てもピクリとも動揺せず、逆に情報提供の際に取られた写真を見て喜んでいた。
圭の言葉に釣られ、楓も覗いてみる。そこには髪の毛までセットされた、珍しく気合の入っている姿が写っていた。
「わあ、写真詐欺」
「それを言うな」
「カッコよく盛られると、私が困るの」
「楓が?なんで?」
「別に」
ツンとそっぽを向いてから、香奈のスマホに表示されていた圭のプロフィールを消した。
それを見て苦笑いしながらも、香奈は再びタイムラインに載っている登録者一覧を見ていく。
そしてとある一枚の画像で手を止めた。
「ねえ、楓ちゃんも載ってるんだけど」
「そりゃそうだ。楓も登録したんだからな」
「ふふん、三つ星よこれでも」
スターシステムはまだよく分かっていないらしい香奈はふーんと気のない返事をしつつ、そこに送られているコメントを読み進めた。
「うわー、楓ちゃんモテモテだよ?ファンになったとか言う人もいるけど」
「はあ?なんだそれ」
今度は圭が香奈のスマホを取り上げた。そしてコメントを一通り流し読んでからため息をつく。
「楓の登録は取り消してもらおう」
「なんでよ、いいじゃない。ほら見て、星は多くないのに、すっごい褒められてるのよ?」
「それがダメなの」
「だからなんでよ」
「なんでも」
その様子を見ていた香奈が慌てて楓の手元にあったスマホを取り上げた。そしてアプリを閉じてスマホを鞄に仕舞い込む。
「ま、まあいいんじゃない?そのうち話題も収まると思うよ」
「それはまあそうだけど」
「とにかく、この話はおしまい!せっかくだからどこか食べに行こ!もちろん、圭の奢りで!」
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受験も終わり授業も終わり、とことん暇になった春休み。圭は最近よく慎也の家に遊びに行っていた。
これは慎也が逐一魔術界隈の事を聞き出そうとするためだ。
後期への備えも一応はするが、自己採点で十分合格ラインを超えたおかげで楓の受験もひとまず落ち着いた。
そのため毎日学園に迎えに行くこともなくなり、楓自身が強くなったおかげで護衛の必要性自体も薄れつつある。
そのため、圭にも自由時間は大きく増えた。
「くぅーっ、何度見ても面白いなこれ!」
「その言葉を何度聞いたことか」
慎也が机に座って眺めているのは、やはりMAACサイトだ。ようやくサーバーが追いついたおかげで今では手軽にサイトを見ることができる。
「このスターシステムってのはいいな。実力とかが分かるってのもまたいい」
「その言葉も何度も聞いた」
「あと契約金ってのもかっけーな。価格を見るだけでもワクワクする」
「おまえの言ってること、そればっかじゃないか」
「いいだろ別に、見てるだけで楽しいんだからさ」
あまり興味を持っていなかった圭もため息をつきながら慎也の横に立ち、同じようにディスプレイを見る。
「ん?なんだこいつ」
サイト内では、デフォルメされた男キャラクターが色々なところでサイトガイドをしていた。
「知らなかったのか?これ、おまえだよ」
「な、なにぃっ!?」
よく見れば自分と似ている気がする。髪の毛とか、輪郭とか、圭のプロフィールの写真にどことなく似ている。
「ほれ、見てみ?サイトトップから『三鷹圭』って名前表示されてるぞ」
総合トップを見ればたしかに一番上、サイトのロゴにもたれるようにして圭のデフォルメキャラクターがいた。
すぐ下にもデフォルメ圭が描かれ、吹き出しが出ていた。
「『サイト案内人の三鷹圭だよ、ケイって呼んでね』……誰だこの調子乗ってるやつ」
「おまえだよ!」
さらにフルネームの部分にリンクが組み込まれており、慎也がそれをクリックするとすぐに三鷹圭のプロフィール画面が現れた。
「……なんじゃこりゃ」
「なんだよ、知らんかったのか。どっちにしろ圭は有名人だからな、こうやってオープンに扱われてもいいだろ?」
「……なんか、気に食わない」
「いいじゃねえか。俺は結構好きだな、このムカつく顔がおまえそっくりだ」
「殺すぞ」
「ヒュー、怖いねえ」
それからページを少しずつ回しながら、もとから聞くつもりだったことを慎也は尋ねた。
「それにしてもよ、なんでおまえんとこには星も契約金もねえんだ?他の人たちは少なくとも星はついてんぞ。ほら、楓ちゃんも」
楓の星は2.5。
本人は四捨五入すれば3だと言い張っていたが、0.5刻みでそれを言うのは間違ってるぞと言うと、とてつもなく不機嫌になったりした。
「なんでだ?」
「まー、話は割と簡単なんだけどさ。もともと魔術師界隈では政府が『コミュニティ』ってのでランク付けして上流階級の人たちと魔術師たちを繋いでいたんだ。その時のランクがほぼそのままつけられてるんだけど……」
「けど?」
その先を予想できない慎也が首を捻るのを見て、最近何度もついているため息をついた。
「それ、五つ星までしかないじゃん。『コミュニティ』のランク6はそれには当てはまらないんだ」
「へー、そうなのか…………ん?ランク6?」
「うん」
「おまえが?」
「うん」
「ランク6?」
「うん」
「…………ふぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
突如として叫び出した慎也は頭を何度も机にぶつけて発狂し始めた。
「だめ、もう無理!なんなんおまえ!意味わかんねえよ、測定不能ってことだろ?おまえ、おま、おま、信じられるかボケェ!」
「何回発狂すれば気が済むわけさ」
「ふざっ、ふ、ふざけんな!こんな気軽に話してる友達が測定不能とか、信じられるかボケ!そりゃ気も狂うわ!」
こう驚かれても、圭もリアクションに困る。本人としては普通に大学に通っていた身だ。晒し者にされて、勝手に驚かれて、勝手に罵詈雑言を捲し立てられても、どうすればいいか圭自身も分からない。
「まあこの前言ってたじゃん。ほっときゃそのうち慣れるって」
「ん?ま、まあそうだな。てか、測定不能なのにあまりにも普通の人っぽすぎてギャップに気が狂っただけだ。あ、ということは、ランク6?ってのは他にもいるんだろ?」
「いるよ。登録されてるのは僕含めて八人。他にも犯罪集団の中にも同じくらいの人はいる」
「その中だと、圭はどれくらいの立ち位置なんだ?」
「それ、聞いちゃう?」
「聞いちゃう」
「……登録してる人のうち三人は倒した。あと他にも、えっと……五人くらい倒してる」
「もうよく分からないよおまえのことが」
「前の動画のやつも最後はちゃんと勝ったぞ」
「もうよく分からないよおまえのことが」
「二回も言うな」
どちらにせよ圭の私生活は普通の人なのだから、そういうのを聞かれても困る。
慎也は今度は動画投稿サイトを開いた。
「最近、魔術やら能力やらの投稿が一気に増えた。登録していない人たちでも、結構な数の魔術師がいるんだな」
「登録している五、六百人は全体で見れば10%くらいだよ。政府がどう対応するかは分からないけど、犯罪取締役として能力対策課も昔からいろんなところに配置されている。知らないだけで、魔術師はいるところにはいるんだよ」
再生された動画は、四ツ橋電気が作成したアピール動画だった。
「あ、上岡さんか」
「知ってるのか?」
上岡成美は、四ツ橋サバイバル戦で大健闘した雷魔術師だ。彼女は四ツ橋電気とガッツリ企業提携しており、こういった部分でもかなり協力的なようだ。
「この前戦った。強かったよ」
「なんかこれを見てるとちっともそう感じないけどなあ」
会社PRとして投稿された動画の中では魔術の危険性は一切感じさせない、企業と連携する魔術師らしいとてもマイルドなものになっていた。
一部の動画ではゲームなどの投稿もしているようだ。慎也はそれを見て、上岡の左半分に走る稲妻の跡をカッコいいとやたら称賛していた。
このPRが投稿されたことをキッカケに、企業がこぞってMAACに登録し依頼を大量に出す流れが広がっていき、メディア界隈でさらに魔術師たちが世間を賑わせることになったのだった。
こんな感じで、ここから魔術師たちが一般社会に馴染んでいきます。
雷魔術師の上岡成美は四ツ橋電気と組んで、公式マジュチューバーになったみたいですね。
雷魔術でいろんな実験を公開して大人気の様子。お得意のゲームの実況でも人気が出始めているようです。通っていた大学は今どうなってるんでしょうか。




