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終局のパーティ

「いやはや、見事だった」

「ありがとうございます」


 サバイバルマッチの次の日もまた、パーティだった。

 医療班の活躍により無事全員回復し、能力者それぞれがお互いの戦いを確認し合いあった。


 その際に、圭は四ツ橋慎太郎に称賛の言葉を受けた。


「乱入者が来たときは正直即刻中止にしようと思っていたが、まさかそのまま全員倒してしまうとはね」

「危なかったですけどね。死ぬかと思いました」


 そう言葉をこぼして、そういえば毎回死にそうになっているなと思い出す。今回もまた、あのまま戦っていたら魔力もしくはスタミナ切れで死んでいたかもしれない。


 そんなやりとりをしていた隣で、楓は左神と四ツ橋礼次郎に挟まれていた。


「誰だこいつ?」

「四ツ橋礼次郎、四ツ橋重工社長の次男よ」

「ふーん……」


 長身の左神が身体を少し曲げて礼次郎に顔を近づける。強気な顔から来る威圧感に礼二郎は身体を後ろへと反らした。


「楓さん、この、この失礼な女は一体なんなんだ?急に現れ我が物顔でここに入りこむなんて非礼の極みじゃないか」

「……知ってるわよ、非礼の塊ってことくらいは。少なくともランク6はだいたい非常識な人だというのは分かってるわ」


 楓が遭遇したランク6は六人。そのうちまともだと判断できるのは、三鷹圭、ダビド・ラクシェル、竹岡恵理子の三人。残りの三人のうち真田権蔵と目の前にいる左神美子は人をイライラさせるのが非常にうまい。


 まだよく分からない生田翔子に関しては六人の中でも真ん中くらいだろうと感じていた。


「この人は『星詠』左神美子。ランク6の一人よ」

「……はぁ?」


 四ツ橋礼次郎は口を大きく開けてその場に固まった。現れたのはサバイバルマッチが始まる直前。終わってからはすぐその場を去ったため、この女が誰なのか分かっていなかったのだ。


 左神は右から、左からと礼二郎の身体を見てから、ため息をついて距離を取った。


「ダメだなこの男は。面白さを感じない」

「なっ!し、失礼な……はっ、」


 一瞬怒りの声を上げてからすぐにしまったと口を押さえる。礼次郎からすれば、それどころかほとんどの人にとってはランク6は雲の上の存在だ。


「楓、やめとけ。この男とはなんにも感じねぇ」

「……楓さん、気をつけた方がいい。ランク6は皆危険人物だ」


 左神は目の前で堂々と、礼二郎は左神に聞こえないように耳打ちをして、二人揃って相手から楓を引き離そうとする。


 このやりとりにイライラしてきた楓は、下を向いて一言呟いた。


「……『爆ぜろ』」


 パンッと小気味良い音がなり衝撃波が生み出される。それにより左神を一歩退け反らせ、礼二郎を後ろに尻餅させた。


 この魔術、破裂の魔術はこの一週間で覚えた魔術の一つだった。



「あ、何やってんだ!魔術は使うなってあれほど言ったじゃないか」

「だって!だって……」


 案の定その音を聞かれ、走り寄る圭に強く言われた。魔術が使えるようになることは素晴らしいことだが、どこでも使っていいわけではない。少なくとも圭はそう考えているし、楓もそれには納得していた。


 ただ、やっぱりちょっとだけ魔術を使いたかった、というのが本音だ。



 この一週間だけで覚えた魔術は四つ。初めの炎の魔術こそ苦戦したが、一度コツを覚えてしまえば覚えるのは簡単だった。それを使いたいのも、見せびらかしたいのも、人として考えれば仕方のないことだろう。


 そんなやりとりをしている二人に、一人の女がやってきた。


「いやはや、見事じゃったのぉ」

「あぁ、生田さん?ですか。名前、これでいいんですよね?」

「うむ、それでかまわぬぞ。それに敬語もいらん」

「あ、そう?じゃあお言葉に甘えて」


 低身長で自らのことを「わし」という幼顔の女が、自分を精一杯アピールすべく大きく胸を張った。年齢は、ちょっと怖くて聞けそうにない。

 ただ彼女とは戦った仲だ。今更敬語というのもおかしいのかもしれない。


「まさかわしが負けるとは思わなんだ。最後のはとんでもない魔術よのぉ」

「ああ、あれか。我ながらコスパの良い魔術だなと思ってるよ。魔術だけじゃできないだろうしね」


 最近の圭にとっては、一般的な魔術はただのゴリ押し攻撃にしか見えなくなってきていた。

 基礎的な概念、例えば炎の魔術なら何度も使われ続けてきたテンプレ魔術が一番威力が高く使いやすい。しかしさらに強力な魔術となると、多大な魔力による通常の魔術よりかは、この世界における科学知識を応用した方が遥かにコストパフォーマンスが高い。


 魔術には際限がないという意味では最終的には魔術が優れていると言えるかもしれないが、保有量がそこまで多くない圭としてはコスパを取らざるを得ない。


「それよりも、まさか同じランク6が紛れているなんて思いもしなかったよ」

「これは趣味でのお。ランク6は雇われることもないから暇なんじゃよ」

「ああ、そういう意味なら気持ちは分かる。僕も大学なかったらたぶん暇だろうし」

「ほほう、大学か。例に漏れずお主も変わり者じゃな」


 能力者や魔術師は基本的に進学を希望しない。無駄に知識をつけるよりも自分の能力で稼いでいけるからだ。


 この二人の会話を聞いて、もう一人の低身長の女が近づいてきた。


「あなたも、大学生……?」

「ん?あなたは確か……雷魔術の人でしたよね?」

「上岡成美」

「上岡さんか、どうもよろしく。もしかしてあなたも大学生?」

「そう」


 低身長と言われる生田翔子よりもさらに背の低い彼女は、気怠げな表情で圭の方を見た。


「あなたの魔術は、四ツ橋重工と繋がっている?」

「いや、繋がってませんけど。……ああ、たしか上岡さんは色々兵器を持ってましたね。あれは共同開発か何かということですか?」

「そう」

「それで……いやあ、やっぱり時代は科学魔術ですねえ」


 上岡は魔術師として秀でている、というわけではない。雷魔術を扱う人間ならもっと強い人はいる。

 ただ彼女の場合、代理元の四ツ橋電気と密接に絡み上岡専用の武器をいくつも開発していた。それゆえ、実力以上の順位を得られたわけだ。


 他にも能力者同士で仲良く観戦のリプレイビデオを鑑賞したり力比べをしたりと、始まる前のピリピリした雰囲気が嘘のように和やかなムードだった。




「ふぅ」


 会場内が歓談ムードの中、ドレスコードのまま圭は外に出た。

 ホテルの受付に断りを入れ、体が凍えそうな寒さを感じる。大きく穴を開けたクレーターの真ん中を突っ切り、岩場のところで足を止める。


「やあ、ナクモくん」


 そこには右手左足を欠損し、身体中の骨やら内臓やらをめちゃめちゃにひっくり返されたままのナクモがいた。

 あれから圭の魔術で無理やり岩へと埋め込み、外で身動きが取れないように拘束しておいたのである。


「三鷹圭か」


 唯一わずかに治された顔を上げ、見下ろす圭を睨んだ。


「してやられたか……チッ、ドローンも消しとんだみてえだし」

「僕がここにいる意味、分かっているだろ?」

「……ああ、もちろんだ」


 身体能力が異常に高いナクモをもってすれば、氷点下の寒さなど余裕で耐えられるし、ここまで身体をぐちゃぐちゃにされてもまだ命の灯火が消えることもない。


「ボスのことだろ?」

「それを含めて、だ。まあとりあえず、おまえらのボスがなんていうか教えてほしい」

「……そうだな、隠すことでもない。自分のことをおうだと名乗っていた」

「王だと?なんでそんな名乗り方をしてるんだ」

「んなこと言われても、そう名乗っているわけだしそれになんの問題もない。他に何か聞きたいことあるか?」


 それから彼らの主力の能力とその強さも教えてもらい、最後にナクモに問いかけた。


「『闇夜の騎士団(トゥワイス・ナイト)』を裏切る気はないのか?」

「それだけぁ死んでもごめんだ。俺はボスに忠誠を誓ってるからな」

「……おまえが忠誠を誓う理由はなんなんだ?」

「それぁ……」


 開いた口を閉じて、わずかな時間ではあるが目を上に上げた。そして思い出したように言葉をこぼす。


「……そういうもんだからだ。それが必然であり、真理」

「何を言っている。何を言っているんだ?」


 二度、同じ言葉を問いかけた。

 ナクモが乱入した時も似たようなことを言っていた。必然だの、真理だの、話すことが全て漠然としている。


「それはよぉ、俺も分かってねぇ。なんとなく、そうなんだなと思うからそういうことだってことだ」

「……おまえ、バカなのか?」

「んぁ?まあ、そうだな。どうも俺には語彙力が足りねえらしい」


 ニヤリと口角を上げ、唾を吐き捨てて身を前に乗り出した。


「さあ、話すことは話した。あとは分かっている」

「そうか」


 土の魔術を使い、地面からゆっくりと棒を引き抜く。その先端は鋭く光っており、刺されたら致命傷を負うのは明らかだった。


 クルクルと回して、身体と垂直になるように持ち構える。それを見て、ナクモはさらに大きく胸を張った。


「安らかに、死ね」





「『土よ我に従い塊となれ』」


 貫かんと突き出された槍を弾いたのは、魔術による土塊だった。


「誰だっ!」

「『光よ我に従い槍となれ』」

「チッ、『光よ』」


 何本も光が発生し視覚なく圭を焼き焦さんとする。その進路を屈折で強引に捻じ曲げた。


 ナクモから距離を取ると魔術は止む。そして、ナクモのさらに奥から人が出てきたのが見えた。


「これは……ミモザか?チッ、くだらねえことしやがって」


 自分が助けられたことに気付いたナクモが、唾を吐きながら予想した名前を口にした。



 それに、圭は思わず反応してしまった。


「っ、……今、なんて言った?」

「あぁん?」


 だがそれを、二人の前に姿を現した人が止めた。


「……ナクモ、情けない」

「うっせーな!仕事はしただろこのチビ!」

「いいわけ、よくない」


 現れたのは少女だった。身長は低い。表情もピクリとも動かず、感情が一切読めない。


 銀色の髪は腰まで垂れ下がり、裾をずるようにブカブカのローブを羽織っていた。


 彼女はちぎり飛ばされた手足を回収し、ナクモを貼り付けていた岩を片手で簡単に叩き割る。


 その際に、チラリと光るものが目に入った。


「魔法陣……無詠唱……」


 あっという間にナクモを解放した少女は、手足をナクモに投げ渡してから圭の方を見た。


「あなたが、三鷹圭」

「あなたは?」

「ミモザ」


 手に持った槍が、自然と力んだ。そして、睨む。


「私は、『記憶』のミモザ」


 石の槍が、折れた。


「もう一つ聞いていいか?」

「……」

「魔女を、知っているか?」


 しばらくの沈黙の後に、ミモザは首を傾げた。


「魔女?……魔術を使う女、なら知っている」

「そうか、いやいい」


 槍の折れた部分を魔術で戻す。そして、いつでも突き出せるように構えた。


「あんたはここで殺す。俺が、殺す」

「やめるべき」


 殺気まで溢れ出した圭の前で、ミモザは指を真っ直ぐ水平に伸ばした。


「それがどうした。魔術程度、どうとでもなる」

「違う」

「なら、なんだ」

「後ろ」


 変な挙動をしないかと注意しながら、忠告通り後ろを振り返る。


 そこには、少しだけ顔を出してこちらを窺っていた、楓の姿があった。


「あっ……」

「っ、か、楓っ!なんでここにっ!?」

「手出ししなければ、死なない」

「っ、」


 この場はまずい。後ろを隠れて追ってきた問題児の楓へとすぐさま移動し、離れた位置からナクモとミモザのやりとりを見るしかなかった。




「ミモザ、助けに来たのか?てめぇにしては珍しいな」


 死に体の身体を転がして仰向けになったナクモは、ミモザを見て弱々しく言葉を吐く。それを、黙って上から見下ろしていた。


「ボスに命令されたか?まあそうだろうな、てめぇはどうせボスの人形だからな」

「……。気が変わった」

「はっ?」


 ミモザは手をナクモの頭に構えた。


「ボスはここに行けと言っただけ。助けろとは言っていない」


 手から魔法陣が広がる。また無詠唱。大した大きさはないが、その分模様が緻密。そしてその中身は。


「な、なんだあの魔法陣……あんなの、知らねえぞっ!?」


 分からなかった。一部隠れているとはいえ、その魔法陣は圭が知らない組み合わせ方で、理論上であれば失敗するはずの魔法陣だった。


 だが、現に魔法陣は展開され、ナクモはそれに怯えていた。

 その中身が分かっているのだろう。ナクモは目を開けて、必死な形相で叫ぶ。


「なっ、バカ、やめろ!仲間を殺す気か!その魔術はヤバい!」


 魔法陣が徐々に光り始める。魔術の発動タイミングの操作は、魔力を完全に制御下に置いている証。

 ゆっくりと発動が近づいていく魔術に、ナクモは怯え、泣き叫ぶ。


「わ、悪かった!ゆ、許してくれ!頼む!頼む!」



 それでも止まらず魔法陣はキラキラと赤く大きな光を放った。


「ひ、ひぁ……あ、あ、あ?」

「気が変わった」


 魔術が発動したかどうか分からないまま、魔法陣は宙に消えた。


「た、助けるのか?」

「……」

「そ、そうか」


 無言で身体を背負い転がる二本の手足を脇に抱え、最後にミモザは様子を見ていた圭と楓の方に顔だけむけた。


「……」


 ほんの数秒、圭と楓の二人を見て顔を戻す。


 そのまま何も言わずに森の奥へと去っていった。





「……戻ろう」

「ふぇ?う、うん」


 後ろから見ていただけ、そしてこの場で置いてけぼりになっていた楓には、今の三人のやりとりにどんな意味が込められているかがさっぱり理解できていなかった。


 だから帰るときに、外が寒くて身体が震えているのだろうとしか思わなかった。





 ともあれ、これで四ツ橋グループ主催のサバイバルマッチは幕を閉じた。


 そして、これがきっかけで世界が激変していくことになるのだった。

これでサバイバル編はおしまいです。


ここまで読んで面白いと思った方や続きが気になるという方は、下にあるブックマークや評価をポチッと押していただけたら嬉しいです。


また、細かい疑問点やよく分からない理論の説明なども感想で受け付けてます。レビューしてもええんやで。


今後もよろしくお願いします。

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