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四ツ橋サバイバル③

そのさん

やはり戦闘描写は難しい

もっと戦い中に話してくれればなあ

 九重が気を失ったからといって、この場での戦いは終わったわけではない。


 何十と宙に浮かぶドローンから、大きな警告音が鳴り響いた。


「二時間……」


 坂本が呟く。

 二時間が経過し、フィールドが狭まり始める。


 これにより隅の方で身を隠していた代理人たちは中心部へ動く必要がある。その制限時間は二十分、ここから一気に慌ただしくなってくる。


 現時点で厄介な九重は倒した。坂本はここから姿を消している敵を見つけて倒す必要がある。この空間を制圧すべく、幾つも襲い来る光の矢から身体を逸らしながらも石などを宙に固定していく。


 そして、すぐにそれは効果を発揮した。


「見つけたぜ」


 空間にいくつも展開された小石や砂が、ゆっくり動くのを感じる。これは能力者や魔術師が、能力によって固定された物に当たった時に現れる反応だ。


 目に見えない魔術師がそこにいると分かり、坂本は駆け出した。そしてまだ残る感覚の方へと拳を繰り出す。


「シッ!」


 それは見事に魔術師に直撃した。宙に固定された小石の動きで、魔術師が倒れるのが分かる。同時に、坂本の攻撃で魔術が解けた。


「くっ、」


 光の屈折の魔術が解けた富田は、肩を押さえて坂本を睨む。富田が使える魔術は、光球、光のレーザーと焦点攻撃、そして屈折の四つ。光球は操作性は良いが見栄えだけで威力はほとんどない。次の二つは二つは命中精度が高いのだが、それは相手が動かない場合に限られる。


 さらに、接近戦をしながら魔術を行使するという器用な真似は絶対に不可能だ。


 この時点で、坂本は富田に対して圧倒的有利な立場に立った。


 鋭い目を坂本に向け、富田は身体強化に専念する。魔術師の身体強化は短時間ではあるが、能力者の身体能力より優れた力を発揮する。


 格としては劣っても、肉弾戦に限ればワンランク上の能力者とも戦える。そう切り替えざるを得ない。さらに富田は坂本の能力を知らない。

 富田は防戦しながらゆっくりとその場からの移動を始めた。


 富田の後退する方向は岩場だった。


 このサバイバルで重要なことは、倒されないことだ。生き残りptを前提としたキルpt稼ぎが必要。敵と相対した時に勝ち目がなければ逃げるのが最善手だ。

 しかしそれが無理な場合は、決死の方法を取るしかなくなる。


 それは九重が行ったことと同じ、第三者の介入だ。

 このため九重と同じように人を呼び込む必要がある。


 ただしキルptの特性上、周りは二人より一人になった方が好都合。目の前の坂本のような好戦的な人でなければ襲いかかってこない。


 そこで、富田は行動を決めた。



 岩場の奥は、最初に大きな音と爆炎があった方向。それは即ち、ランク6『奇術師』がいる方向だ。


 自分は魔術で姿を消せる。少なくとも魔術師で姿を消した自分を見つけ出せる者は目の前の男以外は見たことがない。

 坂本と圭をぶつける、それが富田の作戦だった。




 そして、求めていた状況はすぐにやってきた。


「ん?」


 三鷹圭は、こちらをすぐに視認できる位置にいた。





 ----------------






 圭は、今先ほど二時間の警告音に起こされたところだった。

 土の布団を取り除き魔術で身綺麗にしてから、溶岩の上に飛び上がった。ちょうどその時、目の前に二人の代理人がいた。


「ん?」


 探知魔術を発動していなかった圭は、目についた二人を少しだけ見つめて顎をなぞる。


 魔術師か能力者かは分からないが、金髪の女の方があえて圭の方へと近づいて来ているのは分かる。

 そこまで思考が追いついてから、なすりつけだと理解した。


 これ自体はいい案だろう。弱者は生き残ることが最優先。逃げられないと悟った場合は混戦にしてから逃げるのが一番手っ取り早い。


 そして、フィールドも狭くなりつつある。半径400mはもう簡単に敵を見つけられる範囲だろう。探知魔術を発動させてみれば十三人まで人は減っていた。


 それを考慮しつつも、圭は魔術を行使する。


「『守れ』」


 その直後、何かが結界にあたり勢いをなくして地面に落ちた。


「バレてるよ、銃使いの誰かさん」

「っ、」


 探知魔術を使う圭に死角はない。横に顔を向け、岩陰に隠れている男を見据えた。この男は圭を討ち倒すべく入念に隠れていたのだが、探知魔術は存在そのものを認知する。

 まだ戦いを続ける二人の代理人を無視して、銃使いの男の方へと身体を向けた。


「『炎よ』『追え』」

「チッ」


 迫りくる炎を避けて位置をずらす。そしてガスライターを取り出して火をつけた。


「『ショットガン』」


 ガスライターは、男の言葉と同時に姿を変え、言葉の通りショットガンへと変貌する。


 男の名は日村重吾ひむらじゅうご、四ツ橋金属の代理人で能力は『火器を銃器に変える』能力。多少の制限はあるが、様々な銃火器を扱える。


 ガスライターはショットガンへと変化する。それを構えて圭の方向へと撃った。


「『守れ』」


 慌てることなく結界を作り凌ぐ。それから何をするでもなく日村を見て待った。


「なめやがって……」


 一発しか装填できないショットガンは、すぐに元のガスライターへと戻る。そして次の火器を取り出そうとして、やたらと熱い方へと目を向けた。


「なっ!」


 そこには先ほど避けたはずの炎が、目と鼻の先まで迫っていた。圭が放った魔術はただの炎ではなく追尾性を持つ魔術だ。初見では気がつかないことが多く、日村も必死に避けようとしたが身体の一部を焼かれてしまった。


「残念……黒こげにしても治るんで安心してください『炎よ』『追え』」

「またかっ……」


 日村は身体を走らせる。圭が使った追尾の炎は直線的に追いかける。ならば話は簡単だ。日村と炎の間に遮蔽物があれば攻撃は防げる。


 その隙に、ポケットからジッポを取り出して腿に擦り付け火をつけた。


 その動作は手慣れたもので、取り出してから一秒もかかっていない。それからまた一秒も経たずにジッポはハンドガンへと変化した。


 日村は自分の能力には自信を持っていた。銃火器というものは能力者の動きを大抵は上回る。

 それで殺せるかと言われれば全くそんなことはないのだが、それでも何度も撃てば自然と勝ちを得ることができる。


 自分に自信を持っていたからこそ、三鷹圭に攻撃を仕掛けた。


「これがランク6……手を出すべきではなかったか」


 判断を誤った。


 それが分かった日村は狙いを変える。それはまだ戦い続けている二人、『光の魔術師』富田と『固定する能力』を持つ坂本。この二人を倒すことができれば最低でも4ptは増える。


「狙い撃つっ!」


 いつも使い慣れたハンドガン。その狙いは正確で、放たれた銃弾は見事に富田の胸部に直撃した。




「あっ、死人かこれは?」


 圭は富田が撃たれたのを見て呟いた。胸部を撃たれた富田は力なくその場に倒れ伏し、起き上がる気配もない

 。撃たれた箇所からは血が流れ出し、死に徐々に、かつ加速的に近づいていく。


 それを気にすることもなく、次に日村は坂本を狙い撃った。

 今度はそれは命中しなかった。坂本も警戒しており、銃口を見れば銃弾くらいすぐ避けられる。しっかりと見極め玉を避けた坂本は、すぐさま場所を移動して射線から離れた。



 坂本と日村が戦い出したのを見届けてから、圭は富田の方へ走り容態を確認する。いくら命を賭した戦いとはいえ、目の前で人が死んでいくのは圭には憚られた。


「『治れ』『重ねろ』」


 普段とは違い、魔法陣を拡大させた治癒魔術を発動する。弾丸が心臓に食い込んでいる。この弾丸は、日村が使うハンドガンが元のジッポに戻るまでは消えない。そこで強引に治癒を施し、延命の処置を施した。


 それからすぐに、医療班が飛んでやってきた。


「じゃあ、よろしく頼みますね」

「お任せください」


 医療班は敗者を治癒しながら輸送する。呑気な圭は坂本と日村が戦う横で敗者の搬送を見送った。






 その間、日村と坂本の戦いはまだ続いていた。


「くらえ」

「あめぇよっ、」


 日村の銃弾を自分の能力で止めた。かなりリスキーではあるが、それでも坂本の熟練度なら銃弾ですら止めることは可能。


 銃弾を止めてから銃口からは位置をずらすようにして接近する。懐に潜り込めば銃は分が悪い。それは日村も分かっている。

 弾丸を撃ち尽くしたハンドガンは元のジッポに戻り、クールタイムの関係でポケットに戻す。同時に今度はマッチを取り出した。


 マッチを複数本取り出して、頭薬をすり板にぶつける。一気に炎が拡散したと同時に、手榴弾へと変化した。


 そして、すでに栓を抜かれた状態の手榴弾を、迫る坂本へと何個も投げつけた。


「なっ!?」


 物は止められても衝撃波は止められない。

 爆発寸前の手榴弾の中に突っ込んだ坂本は、不意をつかれたせいで一気に爆発衝撃を身体に受け止めてしまう。それを日村は狙った。


 ジッポの代わりに取り出したライターの火をつけると同じようにハンドガンに変化する。もう一度、口径が小さいハンドガンで額を目掛けて撃ち抜いた。


「あ゛っ、……」


 眉間を撃ち抜かれた坂本が、その場にゆっくりと倒れ伏した。






「銃か……」


 圭が呟く。


 今まで相対した中でも、銃を使う能力者はいなかった。

 能力と銃の共存は意外と難しく、片方を伸ばすともう片方は疎かになる。異世界のケインも魔術を込めた銃はあったのだが、かなり扱いに苦労したせいで苦手意識がある。


 しかし目の前の男はそもそも銃火器を使う能力だ。さぞかし便利だろう。なにせ一発で相手を仕留めることすら可能なのだから。


「……とはいえ、銃でやられるほど甘くはない」


 固定能力を持つ坂本がやられた原因は、完全な読み違え。手榴弾を扱えるということを予想できていなかったせいだ。

 これは見てしまえば対応できる。


「『光よ』」

「くそっ、厄介な!」


 光の魔術でレーザーのように放たれたエネルギーは、日村の銃弾では物理的に防げない。それゆえに、結界魔術も使いこなす圭には決定打を与えることは不可能に近い。富田のように収束した光がレーザーのように射出されるのを認識してなんとか避ける。


 ただ、日村は圭がランク6たる所以を分かっていなかった。


「『全反射』」

「はっ?……あづっ!?」


 一直線に放射された光は、特定の位置で鏡にぶつかったように反射する。それが複数回行われて、完全な死角からレーザーが日村を焼いた。


 威力はそこまで高くない。だが当たった部分が問題だった。


「目が、くそっ、焼けっ……」

「心配しないでいい、後で治る」


 強烈な光が日村の目へと入った影響で、右目は完全に視力を失ってしまった。

 右目を押さえたまま、手慣れた動作でジッポの火をつける。それと同時にジッポは口径の大きめのハンドガンに変化した。


 さすがというべきか、片目が使えなくても狙いは正確だ。しかしだからといってそれが有効だとは限らない。


 圭の手が素早く動く。それに合わせて魔法陣がひとつ展開した。


「『爆ぜろ』」


 破裂の魔術が行使されると、ちょうど銃弾に魔術がぶつかり、衝撃を殺された。


 速度を失った銃弾を掴む。そしてもう一度、破裂の魔術を使った。


「『爆ぜろ』」


 銃の運動エネルギーを全て打ち消した魔術だ。当然それと同じ速度で放たれる。

 日村の方へ向かっていった銃弾はキンッと音を立てて横方向に吹き飛んだ。


「弾を、弾でっ!」

「目を強化してるから、弾も見える」


 もう一度撃つと、今度は圭に辿り着く前に弾かれる。

 眼前には複数の小石が宙に浮いており、その一つに銃弾が当たり方向を逸らされたのだ。


「バケモンかよ、コイツ……」


 何が起こったかを理解していない日村が呟く。手榴弾を投げても効かないだろうことは分かる。


 ナメてかかったツケだろう。今ここでひたすら頭を回転させても、勝つどころか逃げることすらできそうにもない。


 自信はあったのだ。たとえランク4であっても、自分の能力を有効活用することで、ランク5クラスの犯罪者を何人も始末してきた。それはランク6だろうと変わらないはずだと考えていた。

 だが現状はこれだ。


 坂本が死んでいないか確認しにいく圭を横目にしながらあたりを見渡すが、現状を打開できそうなものは見つからない。


 樹海の方で戦いの音が響いてくるが、それは当てにできない。他の人たちもランク6の前では静観を選ぶ。


「こうなれば……」


 手を震わせながら、胸の内ポケットに手を伸ばす。そして、一本のライターを取り出すと、それを前に向けた。



 日村が向く方向には、敗北してしまった坂本を担架に乗せて運ぶ医療班と、それを見送る圭の姿があった。


「……やってやる!」


 カチッと音を立てると、ライターは火を吹いた。

 それも、何メートルもの勢いでだ。


 日村が出したものは改造ライター。ホワイトガソリンとプロパンガスを詰め込んだ、自作の火炎放射器だ。


 これを能力で変換すると、出現するのはロケットランチャー。一発限りのこの変換は、元が爆発物レベルに改造されたせいで存在自体が不安定になる。


 具体的に言えば、撃つと八割がた銃身が爆発する。自爆覚悟の切り札だ。これで目の前のランク6を巻き添えにできたら、その時点で日村の勝ち。失敗すれば負け。


 巨大化した銃器を持ち圭に向ける。そのタイミングで、圭は自分がとんでもないものに狙われていると気がついた。


「『雷よ』」

「セットっ!」


 ランチャーの照準に目を当て、狙いを定める。そして左目をつぶって、気がついた。

 視界がない。右目は先程の光で焼かれ、視力を失っていた。


「……っ、あぁ」


 慌てて抱え直した時には、圭はすでに目の前にいた。そこまで来れば結末は分かっている。力なく、ランチャーを肩から下ろした。


「『迸れ』」


 身体に大電流が流れる。それによって身体の芯から焼き焦がされた日村は、膝を地につけた。


 元に戻った改造ライターはカランカランと音を立てて溶岩の上を跳ねて止まる。

 それ以降は音を立てることはなかった。







 四時間が経過したことを知らせる警告音が、ドローンを介して鳴り響く。


「さてと」


 医療班を見送ってから、ライターを蹴り飛ばす。探知魔術を発動させてみたところ、残り人数は半分にまで減っていた。


 それからゆっくりと溶岩の上を歩く。溶岩は普通の岩場以上に複雑な構造をしており、いたるところに隠れる場所がある。

 生き延びたいと考える人はどこかに隠れてやり過ごそうとするわけだが、残念ながら圭は探知魔術を使うことができる。これを使えば、一発で居場所がわかってしまう。別に無視してもいいのだが、見つけられてしまったのもまた運なのだろう。



 反り立つ壁のような部分の頂点部から下にぶら下がるようにして、圭は顔を隠れた部分に向けた。


「やあ」

「キャッ!?」


 そこには、今まで運良く生き残り続けてきた一ノ瀬幸子の姿があった。

 圭の姿を見て、小鹿のように足を震わせて立ち上がる。


「か、かかって、こいなのです」

「じゃあ、お言葉に甘えて。『雷よ』」

「ヒィンッ!……」


 もともとの身体能力が低かった一ノ瀬は、一詠唱の雷にも耐えることはできなかった。





「樹海の方に反応が三つ、廃墟の方に四つ。さて、どうしようかね」


 その場を呆気なく収束させた圭は、手を上に上げて大きく伸びをした後に、散歩にでも行くような気軽さで廃墟の方へと歩き始めた。

日村重吾

『火器を銃器に変える能力』ランク4。

いわゆる賞金稼ぎ。かつ正義の殺し屋。銃使いらしく、クールで仕事できそうな雰囲気を持っている。能力も使い勝手こそ良くないが、取り扱いに気を使えばうまく立ち回れるもの。

提案者 今字鳴 友 さん


補足

『固定』の出演を決めた時点で銃系統の能力を探していたのですぐさま抜擢(詳細はクラフトワークでググってね)、額に銃弾まではなんとか再現しました。戦闘のポイントは『銃器』の中に手榴弾が混ざっていたこと。固定できないものもあるんです。


お手軽改造ライターはガチで作れます(昔友達が作ろうとしてたのをふと思い出した)。ですが違法なので作らないように。

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[良い点] 銃使いの親です。 火器も手榴弾複数投げも見た目が派手だから実力者にもカマセにも使える能力にしたつもりだったけど結構な見せ場を貰えて嬉しみ。 2人始末(多分死んでない)できた上に主人公自ら介…
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