Type:hero No.※※※※
主人公。それを諸君はどのように思うだろうか。
物語の中心人物。特別な能力の使い手。神に愛されし者。
逆境で輝く。何かしらの才能がある。恋愛感情を多数から向けられる。顔がいい。周りの人が支えてくれる。実力が拮抗したライバルがいる。仲の良い親友がいる。特別な血筋を持つ。恨んでいる敵がいる。秘められた力を宿している。神からの贈り物を授かっている。未来を変えられる。
軽く挙げてもこれだけの主人公らしさというものがある。
数えていったらキリがないくらいだ。
作品の数と同じくらいには主人公がいるのだから。
主人公ごとの違いなど挙げていくのは億劫を通り越してほぼ不可能とも言ってよい。
しかし、一つだけ。そう、たった一つだけ主人公に共通しているものがある。
それは生き様ではない。人間性でもない。強さであるわけでもなく、ましては語り部という陳腐な役割ではない。
それは、『運命』だ。
主人公というものは誰もかれもが、多かれ少なかれ特異な運命をしている。
それは決して、ただの数あわせにしか過ぎない存在にはないものだ。
それは決して、選ばれたものにしかないものだ。
それは決して、ありふれたものではないのだ。
そう、ありふれたものではないのだ。
主人公が手にする運命も、限られたものなのだ。
それらは決して、多いものではないのだ。
─────だから不足する。
古今東西あらゆる主人公がいた。
英雄になった者。皇帝になった者。世界を救った者。復讐を成し遂げた者。満足した者。平穏に暮らす者。命を捧げた者。報われなかった者。失意に沈む者。虚ろになった者。救えなかった者。屈してしまった者。
今もなお無数に増え続ける主人公に対して、運命はあまりにも少なすぎた。
運命とは、命を運ぶと書いて運命と呼ぶ。
主人公たりえるには、他とは違う特異な運命が無くてはならない。
特異な運命とは、特異な命ということだ。
命に違いが出てくれば、その運び方にも違いが出てくる。
特異な運命というのは、特異な命の運び方であるということだ。
そしてそれは命が特異なものであるということに直結している。
…もちろん、特異な命が多いわけがない。
数が少ないからこそ、それは特異だと呼ばれているのだから。
ここまで語ってきたのは正直なところ蛇足でしかなく、ここからが本題なのである。
主人公は多い。されど運命は足りない。命が足りない。
ならばどうするのか。それこそが諸君に覚えてもらいたい事なのであり、私にとって一番の問題なのである。
主人公という需要は無数に増えている。しかし運命という命の供給は需要に反して多くないのである。
そんな時に取られる策がある。
─────使いまわしだ。
特異な命を使いまわすことによって、無数の主人公を生み出し続けているのだ。
主人公のために、命は管理され、酷使される。
すべては主人公のために。主人公の物語のために。物語を必要としている人々のために。
輪廻転生というものがある。魂はずっと存在し続け、様々な肉体に変わっていくというものだ。
原理としてはそれに近いが、決定的に異なる点がある。
それは、記憶であり、記録である。
輪廻転生のように今までのことを忘れることはない。
そもそも、魂は命によってかたどられているものに過ぎない。
『魂に刻まれている』というがこちらから言わせてもらうと『命に刻まれている』だ。
まあ、命の記憶を引き出すことなどほぼ不可能とも言ってもいい。
できても精々超限定的な技術を無意識のうちに使えるようになるぐらいでしかない。
ここで何が問題になっているのかというと、『命の摩耗』である。
数え切れないほどの記録の累積によって命はオーバーフローし、擦り切れてしまうのだ。
普通だったら何の問題もない。
そもそも命は無くなってしまうものなのだ。無くなるたびに新しい命が作り出される。
でなかったらこれほどまでに多様な運命などありはしない。
しかし、特殊な命のみが要求されているこの状況ははっきり言うとかなり危うい。
元々絶対数が少なく、狙って生産できるわけでもない命なのだ。
擦り切れるまでの時間も早く、完全に供給が需要に追い付いていない。
しかも主人公の命を作る過程で生み出された普通な命が飽和しかけている。
このままでは命という概念が崩壊を起こしてしまってもおかしくはない。
そこで一つ、時間延ばしでしかない小技を使う。
このような主人公を見たことはないだろうか。
力はある、頭脳もある、しかし人間味が決定的に足りていない。周囲に流されてばかりのまるで能面のような主人公たちを。
どこかしら見たことのあるような、似たような言動や見た目、同じような能力を持っている主人公たちを。
これらの主人公の魂は、この小技によって造られたものだ。
前者は多くの普通の命の因果のみを混ぜ合わせて創り出すキメラに近いもの。
後者は一つの主人公の命から力の断片だけをとって普通の命を使って力を増幅させるクローンのようなもの。
これがその主人公たちの実態だ。
主人公の命の負担は少ない分、普通の命の負担が尋常ではない程になっている。
1つの命が2~3回やれば擦り切れてしまうほどの負担だ。
だからこそという所もあるのだが、敬遠したいものだ。
そうして様々な無茶ぶりに答えながらどうにかこうにか命の管理をしている。
物語を望むものよ。そうまでして求めるのか。全てを食らいつくすまで満ち足りることのないのであろうか。
私は、至ってしまったぞ。かようなことをしたしまったがために。命を求める側から、命を管理する側に。
私は疲れてしまった。終わりのない物語から抜け出したと思ったら、また終わりのない作業を強制されるようになってしまった。
休みたいのだ。眠りたいのだ。満ち足りたいのだ。知りたくないのだ。やりたくないのだ。
自由で、いたいのだ。
─────だから
次は君に託してやろう。
同じようなものばかりなんて、ただ無意味なだけであろう。