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嫌われ者  作者: 弥生
第二章
37/46

15

 そうするつもりは全く無かったのだが、結果的にハルは売春街で男から金を奪い取って逃げた。ハルの承諾を得ずに一方的に行為に及んできたとはいえ、これでは詐欺だ。しかし金を返そうにも返す相手が誰なのか分からない。

数日悩んだ挙句、売春婦に奪い取られた金だし相手の男も表沙汰に出来ないだろう。ハルはそのまま素知らぬフリを決め込むことにした。きっと金を取り返しに来る事も無いだろう。

 ハルがいつも通り買い物をしパンや果物が入った紙袋を持って家に帰ると、閉めたはずの家の扉がすぐに開いた。


「こんにちは」


綺麗なうえに上品な声で挨拶をしながら、女が家に入ってきた。アシメロングの金の髪に青い瞳。ワインレッドに黒のワンポイントという、上品なオフショルダーのタイトドレスを身に纏っている。

どう見ても上流階級の人間がなぜこんな場所に来たのだろう、と思いながら紙袋をテーブルに置いて応対すると、女は扉をしっかりと閉めてにこやかに笑いながら両手に短剣を握った。


「初めまして、私はリーゼ。売春街の代表者をやっているの」

「何か身に覚えはないかしら」


笑顔を崩さずにそう言ってハルの方へ歩み寄って来る。やはり世の中そんなに甘くは無い。ハルはリーゼが何の事を言っているのかすぐに気づき、謝罪をしながらまだ手を付けていなかった金をそのまま返そうと、金が仕舞ってある棚の方に歩き出した。


「残念だけど、私は貴方にお仕置きしなくちゃいけないの」

「売春街はね、おいたをした子には厳しくしなくちゃいけないの。そうしないとルールを守らなくなって、色々とエスカレートしていって他の子に迷惑がかかるの」


 そう言って棚から金を取ろうとするハルに向かって突然間合いを詰めてきた。

ハルがすかさず後ろに飛びのいて間合いを開けると、リーゼは少し驚いたような顔になった。


「貴女素早いわね。一瞬で終わらせるつもりだったんだけど、手がかかりそうね」


そう言い終わる前に更に突っ込んで来る。リーゼの剣はハルの顔面目掛けて突き進んで来た。素早く右に短剣を躱すと、今度はそのまま右に逸れたハルの脇腹に後ろ蹴りを入れて来る。

 ハルの動きは素早いものの、リーゼもかなり動きが早くて蹴りを躱せず、蹴られた勢いでそのまま右に倒れ込んだ。リーゼは蹴りを入れた足を軸にして、すかさず身を翻しハルの顔面に剣を突き立てる。

ハルは倒れ込んだまま今度は自分から横に転がり、その勢いを利用してまた立ち上がった。しかしリーゼの剣は顔面は逸れたものの、その場に残ったハルの長い髪をバッサリと切り落とし、床に銀の髪が舞い散った。

 息つく間もなく剣の刃先がハルの顔前にやってくる。今度は屈んで刃を躱すが、リーゼのもう片方の剣が低くなったハルの眼前に迫る。

そのまま後ろに倒れ込むように躱そうとするが、ほんの僅か間に合わずにハルの耳が少し切れてしまった。

ハルはそのままバク転して間合いを開ける。が、壁を背にしてしまう。


「貴女、逃げる事は出来ても攻撃は出来ないのね」


 リーゼは全く殺気を感じさせず、表情も声色も全く変えずに淡々と剣を繰り出してくる。まるで冷たい機械のようで、ハルはそれが恐ろしかった。


「武器も持っていないし、攻撃してこないなら話は簡単ね」


 そう言うと真直ぐにハルに向かってくるリーゼ。左手の剣を突き出してハルの腹部を狙ってきた。咄嗟に左に躱すハル。しかしそれはフェイクで、左手は完全に突き出す前に戻り、右手の剣でハルの動きに合わせて来た。

 しまった、と思ったが間に合わない。執拗に顔面を狙って来る事が分かっていたハルは、剣と顔の間に左腕を入れた。

腕に刃が突き刺さり、ハルは左腕に激痛を感じてその場に倒れ込んだ。

左腕からは沢山の血が流れ出て床に落ちる。横になって倒れたまま、ハルは右手で左腕の傷口を強く抑える。その表情は苦痛に歪んでいた。


「終わりかしら」


 そう言うと右手に持った剣に付いたハルの血を払い、ゆっくりとリーゼが歩み寄りハルの眼前に剣を突き出した。その表情には怒りも憎しみも悲しみも無く、むしろ慈悲さえ感じられるほど穏やかだった。

ハルの方が身軽さでは上回っていたが、リーゼの方が戦闘巧者として一枚も二枚も上手だった。


「ハル!」


 リーゼが剣をハルに向かって振り下ろそうとするその時に、叫び声が扉の方から聞こえた。リーゼはその声に剣を持つ手を止め、声のする方に視線を移す。

そこにはミアが立っていた。

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