魔物の街 19
『だんだん大所帯になるなあ』
そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替える。
「寒!」
思い出してみれば窓が開いたままだが、はきかけのズボンではどうしようもなかった。そのまま我慢してズボンをはいて急いで窓を閉める。
そのまま何とか出勤できる姿になって誠は廊下に出た。階段を下りて食堂に入る。
食事当番はアイシャだった。いつもの事ながら要領よく味噌汁などを配膳しているアイシャを見て誠は日常を取り戻した気がした。
「誠ちゃん!サービスでソーセージ二本!」
管理部の眼鏡の下士官からトンクを奪って誠のトレーに一本限定のはずのソーセージを載せる。
「良いんですか?」
思わず振り向いた先に嫉妬に狂う同僚達の冷たい視線が突き刺さる。
「良いんだって!」
そうアイシャに言われてそのまま味噌汁を受け取り、ご飯を盛り付ける誠。
「おう、これが飯を食う場所か?」
ランの声が響くと隊員達は一斉に立ち上がり小さなランに敬礼する。保安隊の副長である彼女は悠然と敬礼を返してアイシャが食事の盛り付けをしているところにやってきた。
「ランちゃんも食べるの?」
アイシャに何度注意しようが『ちゃん』付けが直らないことで諦めたラン。
「おー、朝飯なら食ってきたからな。それより今日はここの施設を見て回ろうと思ってな」
この一言に半数の隊員がびくりと震えた。寮の規則は管理部の基礎を固めた先代の管理部部長、アブドゥール・シャー・シン大尉、現在の同盟軍教導部隊副長が作成したものだった。だが、島田の温情で有名無実なものになっており、多くの隊員は寮則の存在を忘れていたところだった。
「私達は勤務だけど……菰田君?案内は」
アイシャの言葉にさらに数人の隊員が耳を済ませているのが分かる。技術部整備班班長の島田正人准尉と管理部経理課課長の菰田邦弘主計曹長の仲の悪さは有名である。島田の車好きにかこつけて寮則違反の物品を部屋に溜め込んでいる隊員には最悪の事態なのが誠にも見て取れた。
「案内なんていらねーよ。それに菰田に案内させると困る連中もいるんだろ?」
そう言って子供の姿からは想像もできない意味深げな笑いを浮かべるラン。その姿に隊員達はほっと胸をなでおろした。
「アイシャ!いつの間に来たんだ?」
ようやく要が革ジャンを着て現れる。その後ろからはいつもどおり保安隊の勤務服姿のカウラがついてきていた。
「なあに、無駄なことをしないだけよ。誰かと違って」
そのまま二人の喧嘩に巻き込まれるのもつまらないと思って誠はそのまま食堂の隅にトレーを運んで行った。




