魔物の街 15
要はそんな様子に少しばかり自分を落ち着かせるように深呼吸をした。
「しかもこれだけ証拠が見つかっているわけだ。機密の管理については素人……いや、わざとばら撒いたのかもしれねえな。『俺達は法術の研究をしている。しかも大国がつぎ込んだ莫大な予算が馬鹿馬鹿しくなるほどお手軽に。もし出来るなら見つけてみろ』って言いてえんだろうな」
要の言葉がさらに場を沈ませる。
「いいですか?」
これまで黙り込んでいたサラが手を上げた。意外な人物の言葉に茜が驚いたような顔をしている。
「これ凄くひどいことだと思うんです。そんな言葉で表すことが出来ないかもしれませんけど……。私やアイシャは作られた……戦うために作られた存在ですけど、今はこうして平和に暮らしているんです。元々遼州の先住民の『リャオ』の人達は戦いを終わらせるために文明を捨てた、そう聞いています。でもこれじゃあ何のために文明を捨てて野に帰ったのか分からないじゃないですか」
「まるでおもちゃだな。しかも出来が悪ければ捨てられる。おもちゃ以下というところか?」
隣でサラの肩に手を置いた島田。この中では遺伝的には誠と島田がほぼ純血に近い遼州の先住民族『リャオ』だった。
「そうですわね。一刻も早くこれらのきっかけを作った組織を炙り出さないといけませんわ」
そう言ってみた茜だが、隣に明らかに冷めた顔をしている要とアイシャを見て静かに二人が何を話すのかを待った。
「だから、この人数で何をするんだ?確かに湾岸地区から租界。こう言う怪しい研究をするのにはぴったりの場所だ。細かく張り巡らされた水路、最近の再開発で町工場は壊滅して地上げの対象、ほとんどががら空きで人の目も無い、さらに租界は自治警察の解体と同盟軍の直轄当地でなんとか治安は回復したがそれでも魔都であることに変わりはねえ」
要はそう言って再び先ほどの覗き窓に向かう。
「今回は私も要ちゃんと同意見ね。確かに逃げられる公算は高いけど東都警察の人的資源を生かしてのローラー作戦が一番効率的よ。逃げられることはあったとしてもこの研究を少しでも遅らせることくらいは出来るでしょうし」
「全うな意見だな。アタシもこれまで出た情報だけから判断すればクラウゼの論に賛成だ。それでもなあ……」
ランはそう言うと誠を見つめた。
「これから話すことはアタシの観測だ。かなり希望的要素があるからはじめに断っとく」
見た目はどう見ても小学校低学年の女の子のようなランが極めて慎重な物言いをするのに違和感を感じながら誠はランがラーナの端末に手を伸ばすのを見ていた。
「そもそもこの法術暴走を人為的に繰り返している組織が東和で行動を始める必要がどこにあったのか。アタシはまずそこを考えたわけだ」
そういうと再び言葉を選ぶように黙り込む。小さな腕を胸の前に組んで考え込むラン。
「どこの組織も管理していないと言うことならベルルカン大陸の失敗国家のレアメタルの廃鉱山や麻薬の精製基地なんかでやるのが一番だ。利権だの国際法規だのその人体実験マニアをとっ捕まえるのに障害になることは山ほどある」
ラーナの手元のモニターにベルルカン大陸が映る。先日のバルキスタン事変でも同盟軍の治安維持行動をめぐり西モスレムと東和が同盟会議で非難の応酬を繰り広げるようになったことは、その同盟軍の切り札として動いた誠にもベルルカンに介入することがいかに難しいかを感じさせていた。
「それに手っ取り早くデモンストレーションをするならはじめから覚醒している人材を使えば良いだろうな。誠に突っかかったアロハの男。東和でアタシ等に挑戦するように法術のマルチタスクを見せ付けた奴、そしてバルキスタンでなぜか誠を助けた炎熱系法術に長けた術師」
そこまで言うと再びランは深呼吸をした。緊張が誠を黙らせている。ランは言葉を続ける。
「アタシ等に喧嘩を売るってことなら例の連中みたいに完成された法術師をぶつけるのが一番手っ取りばえーよな。でもこの事件では法術を実用的に使えるような人物は表には出てきてねーわけだ」
そこまで言ってランは頭を掻きながら誠を見つめた。




