魔物の街 149
「駄目!要ちゃん!駄目!」
ドアが突然開き、驚きの表情を浮かべていた要の目に、小さなシャムが映った。そして誠やカウラ、アイシャまでもが慌てた表情で飛び込んできて銃に手をかけていた要を取り押さえにかかる。
「なんだよ!何があった!」
まとわり付く誠の頭がカウラに押しのけられて胸に当たったので、とりあえず要は誠の首筋に肘鉄を叩き込んだ。
「あ!誠ちゃん!」
のされた誠に手を伸ばすアイシャ。拳銃を取り上げて安心したようにため息をつくカウラを見て、要はその襟首を掴んで引き寄せる。
「おい、説明しろ。何が駄目なんだ?どうしてここにお前等が乱入して来るんだ?」
だがカウラは視線を合わせずに窓の方に向かったシャムを見つめていた。
「怖くないよ。大丈夫……」
要から見てテーブルが影になって見えないところでシャムが何かと話をしていた。それに合わせてテーブルの隣の球状の何かが揺れている。
「ほう、これは大きな亀ですね」
老人は微笑むとシャムのところに歩いていく。
「亀?」
要の体から力が抜けた。そのまま座ってカウラとアイシャを見つめる。
「銃はいらないわよね。見ての通りシャムちゃんが飼ってる亀さんよ」
「はあ?」
アイシャの言葉にしばらく思考が止まる要。後頭部を押さえながら彼女の膝元で誠が意識を取り戻す。
「誠ちゃんも災難よねえシャムちゃんはなんでここに亀吉を連れてきたの?」
高さが1メートルはあろうかと言う立派な甲羅の持ち主を撫でているシャムが小首をかしげた。
「ああ、それは決まってるだろ?寒さに弱いからな。ベルルカンオウリクガメは」
扉のところで騒動を見つめていた吉田がそう言うとそのままシャムのところに向かう。
「車に乗せてきたってことは吉田……テメエは最初から知ってたんだな?」
指を鳴らしながら近づく要に迷惑そうに顔をしかめる吉田。
「亀ぐらいいいじゃないか。こいつは草食だから人に危害を与えたりしないぞ」
「そう言う問題じゃなくって!」
怒鳴る要に後頭部を押さえている誠が迷惑そうに要を見つめた。
「ごめんな……ってお前のせいだからな!いきなり人の胸に抱きつきやがって!」
「抱きついてないわよねえ?」
「私が押したら胸に当たっただけだ。全部お前のせいだな」
アイシャとカウラの言葉に要の言葉が詰まる。そんな要達のやり取りを老人は笑顔で見つめていた。




