魔物の街 143
「安城隊長……その人は?」
リアナが聞くのは見慣れない小柄な老人がその隣に立っていたからだった。老人はかぶっていた鳥打帽を脱ぐと頭を下げる。
「あっ」
老人の視線が要に注がれる。誠は不思議そうに二人を見比べるしかなかった。
「ああ……どうも」
そんな姿にリアナも頭を下げ、隣では安城が困ったような表情を浮かべていた。
「工場の正門で困った顔してたから乗せてきてあげたの。西園寺大尉!」
「はい!」
凛とした安城の声に要は最敬礼で答える。その顔はいつもの斜に構えた要ではなく気恥ずかしさを押し隠している無表情をまとっているように見えた。
「お客さんだからね!じゃあ私はあの昼行灯のところに行くからよろしく」
老人を置いて安城はそのままハンガーの奥へと進む。
「要ちゃんのお客さん」
「あっ!あの志村さんのお父さん?」
「はい……」
ようやく思い出した誠の言葉に一同の目が老人に向けられた。以前誠もうどん屋で見た時より明らかに落ち着いて見えることが気になっていた。そしてランもようやく納得が言ったというように冷めた瞳の要を見つめる。
「ちょっと用事がありまして……要姫様。よろしいでしょうか?」
顔を上げた老人に要が頷く。
「サラ!茶を用意してくれ。あとお姉さん。会議室使いますから!」
「ええ、いいわよ」
リアナの許可を取ると要はそのまま安城が消えた技術部の詰め所の方へと足を向けた。ハンガーで剣道の試合を眺めていた人々はただ呆然と彼女を見送るだけだった。
「サラちゃん。私も手伝ったほうがいいかしら?」
「ああ……お願いしますね」
サラではなく答えたのはアイシャだった。そのままサラとリアナも奥の給湯室へと消える。それを見送ったアイシャがいつの間にかこの光景を他人事のように見つめていた吉田の隣に立っていた。
「なんだよ趣味が悪いな」
「部隊の部屋のすべてに隠しカメラとマイクを仕掛けた本人の台詞じゃないわねそれは」
にんまりと笑うアイシャ。頭を掻く吉田。いつの間にかその周りにはカウラ、ラン、島田、菰田。そしていつもどおりシャムの姿がある。
「じゃあ付いて来い」
そう言うと諦めたようにハンガーの奥の階段を上り始める吉田。誠もアイシャに引っ張られてその群れに従って歩いていく。
いつもどおり忙しそうな管理部を抜け、嵯峨に呼ばれたのか隊長室に入る管理部部長高梨渉参事の呆れたような視線を無視して一同は冷蔵庫と呼ばれるコンピュータルームにたどり着いた。




