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魔物の街 141

「何を言い出すんだ!西園寺。私は諦めずに任務を遂行した部下をだなあ……」 

 要に向けて赤面して叫ぶカウラの声が鳴り響く甲高いクラクションでかき消された。機動隊が慌てたように振り返って左右に逃げる。突入して来たのは見慣れた軽自動車だった。

 そのドアが乱暴に開いて闇の中に長い紺色の髪の女性が現れる。

「なんだ終わっちゃったの?」 

 落胆して要の肩を掴んだのはアイシャだった。それを見てようやく落ち着いたカウラが目の前の肉塊の残骸とそれにようやくたどり着いて鑑識を呼んでいる機動隊員達を指差した。そして要はずんずんとアイシャに詰め寄っていく。

「オメエ、それ叔父貴の車じゃねえか……ははーあん。あれだな、まだ叔父貴の奴の犠牲者が出たわけだ。大変だねえ」 

 要の言葉に乾いた笑いを浮かべるアイシャ。機動隊が一斉に残骸に向けて走り出し、計測器具を抱えた捜査員達が誠の機体に取り付いて調査を開始していた。

「でもよう。あんまりにもひどい結末だって思わねえか?おそらく人身売買の被害者の生存者はいないだろうからな。しかも研究をしたスタッフも恐らく引け目なんて感じちゃいねえんだ。ほとんどの面子が最終段階まで自分がやったことが悪いことだなんて言わねえだろよ」 

 そう言いながら要はぬるぬると粘液を引きずりながら調査を続ける鑑識達を見ながらタバコに火をつけた。冬の北からの強い風に煙は漂うことなく流されていく。

「かもしれねーな」 

 埃が舞い、誠はそれをもろに浴びてくしゃみを連発した。ばたばたと身体に巻いていた銃のマガジンや手榴弾のポケットがやたらと付いたベストを外してはたくランの姿がそこにあった。その後ろからはまるで亡霊のように表情もなく付き従ってきた茜や島田の姿も見える。

「悪党や薄汚れた金を集めて喜ぶ連中は御しやすい。むしろ恐れるべき、憎むべきは自分を正義と信じて他者を受け入れない連中だ……と昔の人は言ったそうだが。至言だよなー」 

 そう言ってランはベストを投げ捨てた。茜達もようやく安心したように装備を外してどっかと地面に腰を下ろした。

「ちっこい姐御。さすがにインテリですねえ」 

「褒めても何もでねーよ……と言うかそれ褒めてるのか?」

 ランににらまれて要は目をそらしてタバコをくわえる。誠の口にも自然といつものような笑みが戻るのが分かった。そして同時に誠の首に何モノかがぶち当たりそのままつんのめった誠はカウラの胸の中に飛び込んでいた。突然の出来事にカウラも要もアイシャもただ呆然と首をさする誠を見つめていた。

「お疲れ!」 

 それは誠に延髄切りを放ったシャムの右足のなせる業だった。無反動砲の筒を手にして呆れる吉田。キムは出来るだけ騒動と関わらないようにと後ずさる。

「お疲れじゃねえ!せっかくがんばった後輩を蹴飛ばして何がしたいんだテメエは!」 

「苦しいよ!要ちゃん!降ろして!」 

 勤務服姿のシャムの襟首を掴み上げる要。じたばたと足を振るシャム。携帯端末を手にそれを撮影しているアイシャ。

「あのさあ……誠……」 

 頭を覆う暖かい感触で我に返る誠。それがほのかな膨らみのあるカウラの胸だとわかり誠は直立してカウラに敬礼する。

「失礼しました!」 

「ふふふ」 

 その様子がこっけいに見えたらしく笑顔を見せるカウラ。誠は空を見上げた。そこには丸い月が浮かんでいた。

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