魔物の街 140
『ア・リ・ガ・ト……』
そんな声が誠の頭の中に響いたような気がした。
突き立てられた05式のサーベルの光がさらに強まる。傷口からは赤黒い粘液がどろどろと流れ落ちる。そしてそのまま流れ落ちた血のようなもので合同庁舎前の大通りが赤く染まった。
「ウギャー!」
うめき声を上げる肉塊。その破れかぶれともいえる干渉空間が05式の手元で瞬時に展開されて炸裂した。反動で誠の機体はサーベルを離して吹き飛ばされてしまった。
「これじゃあ」
隣のビルに叩きつけられた誠の機体。体勢を立て直して肉塊の体内に取り込まれていくサーベルを取り返すべく突進を仕掛ける。
『大丈夫だよ誠ちゃん。もう終わったんだよ』
頭の中。優しく響くのは穏やかなシャムの声だった。足を止めた誠の前で肉塊の中から銀色の光の筋が飛び出している。その光の筋の周りの組織が崩壊を始め、肉塊は次第に細かい肉片を撒き散らしながらアスファルトの上に崩れ落ちていった。
『終わったのか?』
カウラの声が誠の耳に響く。未だ誠は目の前に姿を現した自分の機体の専用法術兵器のサーベルが光の筋を放つのをぼんやりと眺めているだけだった。
『やったじゃねーか』
化け物が地下から出た際に崩れた瓦礫を浴びたのか、コンクリートの粉塵を浴びて白く顔が染まっているランの姿がモニターに映し出された。
『ランちゃん……お化粧したの?』
『お前!馬鹿だろ?シャム。これのどこが化粧だって……』
『俊平!またランちゃんが馬鹿って言った!』
『事実だから仕方が無いだろ?なあ、キム』
『なんで俺に振るんですか!』
いつもの隊舎でのどたばたが展開される画像を見て、ようやく目の前の生体プラントに釘付けにされていた非日常からいつもの日常を取り戻したと言うように誠は大きく息をした。
『お疲れ!とりあえず現状をそのままにして神前、降りろや』
要の画像が変わっていて彼女が走っているらしいことがわかる。それを見ていたのか、誠の機体を見上げていたカウラの顔に笑顔が戻った。
『この05式の破損も証拠物件だ。後は東都警察の仕事。私達はこのまま帰等するぞ』
コックピットを開く。生臭いにおいが漂う中、誠はワイアーを降ろしてそのまま地面にたどり着く。そこには笑顔のカウラの姿があった。
「終わったな」
煌々と官庁街を照らし出す東和警察機動隊の投光車両。周りには盾を構えた機動隊員が目の前の肉塊の時々びくりと跳ねる鮮血に警戒しながら包囲を始めていた。光の中、カウラのエメラルドグリーンの後ろ髪が北風になびくのを見て誠の心が締め付けられる気分になった。
「神前……」
誠に伸ばそうとした手が何者かに掴まれた。
「なんだ!またつり橋効果ごっこでもやる気か!」
そこにはいつものタレ目を吊り上げてカウラをにらみつける要の姿があった。




