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魔物の街 139

 緊張感は先ほどの07式を相手にしたときの比ではなかった。干渉空間。それもこれまで誠が数回しか展開に成功した規模のものを確実に複数展開しようとする気配を感じる。

『このままじゃやられる!』 

 次第に息が荒くなるのがわかった。

 肉塊は干渉空間を安定して持続させたまま、じりじりと誠との距離を詰める。だが誠はサーベルを構えたまま動くことが出来ないでいた。じっとにらみ合う。だがもはや目の前のかつて人間であったものにはすべてを破壊する以外の考えはないというように頭上に広がる干渉空間の転送先を考えているかのように見えた。

『大丈夫だよ!』 

 突然少女の声が誠の脳内にひらめいた。目の前の肉塊の展開した干渉空間が瞬時に縮んだ。そして肉塊の表面に展開していた薄い制御空間に出来た歪に何かが命中し爆発する。

『間に合ったな!』 

 開いたウィンドウには吉田の姿があった。

『本当に効くんですか?』 

『それはお前の責任だろ?大麗から対法術適応型アサルト・モジュール兵器ってことで取り寄せたんだ。効かなかったらそれは大麗の技術陣を恨め』 

 吉田が構えている無反動砲の後ろで装填を担当している歩兵火器の管理責任者のキム・ジュンヒ少尉が泣きそうな顔で次弾を装填している。

「ムゴー!」 

 明らかに痛みを感じているとでも言うように榴弾の直撃を受けた化け物はもがき苦しんでいた。再び干渉空間を展開しようとするが、それも瞬時に消える。

『今のうちだよ!』 

 ウィンドウが開いたところには第一小隊のエース。ナンバルゲニア・シャムラード中尉の幼く見える顔が広がる。その顔を見て誠は覚悟を決めたようにサーベルを構えなおした。

『反撃だ!行けるな』 

 カウラの声に励まされるのを感じながら誠はそのまま大きくサーベルを振り上げて目の前の化け物に向かう。

「ムガー!」 

 叫び声を上げる化け物に大きく振り上げた誠の05式のサーベルが振り下ろされた。

「行けー!」 

 言葉と同時に誠の空間干渉能力が発動してサーベルが銀色に光り始めた。振り下ろされたサーベルが肉塊の左端を引き裂き、そのまま地面に突き刺さった。切り離された肉塊は地面にボタリと落ちるとじわじわとアスファルトを侵食しながら煙を上げて消滅していく。

『行けるぞ!』 

 要の声にさらに誠はサーベルを構えなおした。その時、また吉田の無反動砲が先ほど引き裂かれて再生を始めていた化け物の左端に命中する。

 爆発。明らかにひるんだようによろめく肉塊。

『次弾装填!』 

『これがラストですよ!』 

 キムの声に誠は再び間合いを取る。もはや衝撃波や空間切削の攻撃を繰り出すことを忘れた肉塊はただの的となっていた。大きく振り上げた誠の05式のサーベル。吉田の最後の一撃が化け物の左半身に命中するのと同時にその中央に誠のサーベルが突きたてられた。

「こなくそー!」 

 叫びと共に肉塊に突き立てられたサーベルが光を放つ。一瞬動きを止めた後、肉塊は大きくうごめいて苦しがっているように見えた。

『ごめんね……でも仕方が無いの』 

 シャムの声が誠の脳内に響く。サーベルは白から赤に色を変えながら一段と際立った光を放ち始めた。

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