魔物の街 131
『とりあえずこのまま合同庁舎まで進行するぞ』
足元を走るカウラの軽装甲車両の先導で進む誠の『痛特機』。避難する官庁街の人々の視線が痛々しく突き刺さるがそれが誠には痛快だった。
『見られてるぞ、神前』
呆れたようにつぶやく要。だが、誠はそれに満面の笑顔で答える。
『現在地下通信ケーブルの中をクバルカ中佐の部隊が進行中だ。とりあえず視線をこちらに集めることが当面の目的になるな』
カウラの言葉が終わるまもなく目に入った合同庁舎からロケット弾が05式に浴びせられる。
『厚生局の対麻薬取締り部隊か。重火器はほとんど持っていねえはずだから余裕で……』
そう言う要の一言が思い込みだというのが誠は目の前の巨大な影ですぐに分かった。
『07式だと?こんなのも持っていたのか……神前とりあえず抜刀だ!』
カウラの叫びがコックピット内に響く。目の前には東都陸軍の海外派遣軍に一部採用されているアサルト・モジュール07式だった。手には市街地だというのにレールガンまで装備されている。誠はすぐに距離を取ればやられると察知して抜刀した。
丙種出動では最強の武器である法術反応式サーベルを掲げて誠の機体が07式に斬りかかる。厚生局の機体だが、動きは明らかにランの教導部隊を思わせる的確な動きで荒い誠の斬撃を次々とかわす。
『神前!熱くなるな!』
カウラの言葉が響いたと同時に誠は期待が爆発で吹き飛ばされるのを感じた。誠の05式はバランスを崩しかけるが何とか左足を踏ん張らせて体勢を立て直しにかかる。
『空間破砕……相手も法術師か?』
おもわず要がつぶやいていた。干渉空間の内部の分子構造を一挙に崩れさせる空間破砕。ランが得意とする法術である。明らかに相手がランの教導を受けた法術師であることがそのことからも誠にも分かった。
『ランの餓鬼の教導を受けた法術使いのパイロット。難敵だな。距離は詰めておけよ』
要の言葉を待つまでも無く誠も体勢を整えながら敵のレールガンをけん制するように敵の右手に絡み付ける距離を保ちながら身構えている。
『今クバルカ中佐が突入した!現在例の化け物を捜索中だ。とりあえず時間を稼げ』
カウラの言葉で少し気が楽になった誠はじりじりと敵との間合いをつめる。距離が稼ぐのが無理だと悟ったのか、07式はレールガンを放り投げた。
「良い覚悟だ!」
その瞬間に07式の右側に回りこんだ誠はそのまま上段からサーベルを振り下ろした。相手も素早くレーザーソードを抜いてこれを受ける。激しい剣のぶつかる光が辺りを照らし出す。
『そのまま押せ!こういう場所でのシミュレーション経験の差を見せろ!』
要の叫びに合わせて今度は中段から突きを三回、下段から足を狙っての斬撃をくわえる。
最後の右足への斬撃が直撃して07式は体勢を崩した。
「これで!」
誠は叫びと共に中段に構えたサーベルの突きを07式の頭部に突き立てる。07式の頭部ははじかれるように胴体を離れて路上に転がり落ちた。センサーを失い07式の動きが鈍る。
『右足を取れ!』
カウラの言葉が飛ぶと誠はそのままサーベルと07式の右足に突きたてた。動きを止めた敵機を見ながら誠は大きく肩で息をして気持ちを整えた。




