魔物の街 130
「でもムジャンタ・ライラ中佐のレンジャーは何をしているんですか?」
着替えている誠を完全に無視しているカウラの言葉が聞こえる。
「ああ、ライラもバックアップで動いてくれるわよ。隊長が……」
誠は上着のボタンをつけている。見ているわけではないのだが明華が苦笑いを浮かべているのが想像できた。
「隊長に父親を殺された傷はそう簡単には癒えないでしょうから私が窓口で話を進めたのよ。最初は正面から突入するなんて言い出して結構焦ったわね」
「まあ……でもあれは隊長の弟のバスバ帝の遼南からの分離独立を止めるためでしたよね。仕方ないんじゃ……」
「そうは言うけど分かりきっていても心の整理はつかないものよ。人間って」
作業着に着替え終わり装備を身につけている誠。暗い話も一段落したようなのでそのままヘルメットを手に二人の前に立つ。
「ああ、早かったわね。行きましょう」
そう言うとそのまま明華は誠とカウラをつれてテントを出た。トレーラーには巨大な保安隊の切り札の人型兵器アサルト・モジュール05式乙型が搭載されていた。
「じゃあ指揮だけど、そこの軽装甲車両でいいかしら?」
明華が指差したのは治安出動用として導入されたもののまるで使用機会の無かった軽乗用車に装甲を施した車両だった。
「では遼州同盟司法局所属、実働部隊第二小隊、出動します!」
カウラはそう言って明華に向けて敬礼すると走って車両へと向かう。誠はそれを見ながら05式のコックピットに乗り込んだ。
『おう、おせえぞ!』
システムを起動するとすぐに要の声が響いた。モニターには相変わらず私服で作業を続ける要の姿が見える。
「すいません!それより進行状況は?」
シートベルトを締める。起動したシステムが全集モニタを起動して同盟司法局ビルの周りの闇を映す。
『現在はレンジャーと同盟機動隊が厚生局に続く道の封鎖を始めたところだ。マリアの姐御は上空でヘリで待機中。作戦開始と同時に合同庁舎にラベリング降下で突入する準備は万全だ』
ニヤリと笑う要。隣のモニターが開き要の不謹慎な笑顔に頭を抱えるカウラが映し出された。
『神前曹長、すぐにデッキアップ。それから西園寺には最新のデータを私の手元に送るように』
『人使いの荒い隊長さんだこと』
ぶつぶつとつぶやきながら首筋のスロットからコードを出して手前の端末に差し込んでいる要の姿が見える。
『クバルカ中佐達が動き出したな。狙いは合同庁舎の地下か……神前曹長!』
カウラの言葉に合わせてトレーラーのデッキアップが開始される。それまで寝ているような体勢だった誠も次第に垂直に起き上がっていく感触で興奮してくるのを感じていた。
目の前には官庁街らしく煌々と光る窓からの明かりに照らされながら灰色の地に美少女キャラがたくさん書かれた『痛特機』が司法局の裏庭に聳え立つ。
『なるほど都会は良いねえ。これが豊川だったら町を破壊しながら進むことになるからな』
ニヤニヤと笑う要を一瞥した後、誠はそのままトレーラーから伸びるコードを愛機からパージして自立させた。




