魔物の街 125
「これが人間のやること……なんですかね」
震える声で島田がつぶやく。その隣には画面の不気味な塊に恐れをなして彼の腕を掴んでいるサラの姿もある。
「つまりコイツの移動さえ出来れば、後の施設はどうとでもなると……まあ他の必要な資材は三人の博士の全面協力と……」
「厚生局をはじめとするシンパの公的機関と大学、病院、研究機関からの補給ですぐに復活が出来るってわけか」
嵯峨の震える声を強い調子で受け継ぐラン。
「そして三人の調整済みの法術師の試験運用が例の同盟本部ビル襲撃事件……」
「つながりましたね」
そう言って茜を見るラーナだが、茜の表情は暗いままだった。
「ラーナ。それじゃあその三人の納品先はどこなのかしら?そして仕事が済んだ三人の博士を襲撃したのは誰なの?」
「それは……」
ラーナが口をつぐむ。そこで嵯峨は懐からディスクを取り出して自分のよれよれのコートのポケットから取り出した端末のスロットに差し込んだ。
「まあこれはオフレコでね」
そして映し出される三人の隠し撮りされた男の写真。誠も必然的にそれに目を向けた。その一人、アロハシャツでにやけた笑いを浮かべているのが北川公平だということが分かったが、角刈りの着流し姿の男と長髪の厳しい視線の男には見覚えが無かった。
「北川公平がカウラのところにいらっしゃったのね。そしてわたくしのところには桐野孫四郎……」
茜の顔が曇る。
「桐野孫四郎?」
「元隊長の部下だった男だ。敗戦直後の胡州で高級士官の連続斬殺事件で指名手配中だ。先の大戦でアサルト・モジュール部隊が壊滅してから敗走の際にゲリラや遼北兵を隊長と一緒に日本刀で惨殺して恐れられた男だ。付いたあだ名は……『人斬り孫四郎』」
カウラの言葉を聞いて着流し姿の男に誠の目は集中した。その瞳にはまるで光が無い。口元の固まったような笑みも見ていて恐怖を感じさせるところがあった。
「そしてこのロン毛か……。俺も探しているところなんだよね」
そんな反射で出てしまったという言葉に自分ではっとする嵯峨。当然ランは聞き逃したりはしない。
「推測でいいですよ。今のところはね」
ランの言葉に嵯峨は諦めたようにうなだれた。
「まあなんだ。仙の存在は……できるだけ隠しておきたかったのがどこの政府でも思っていたことさ。不死身の化けもの。それだけでもいろんな利害のある連中が食いつくねたにはなるんだ」
そう言うと嵯峨はタバコを取り出す。
「ああ、いいですよ。吸っても」
明石はそう言うと戸棚からガラスの灰皿を取り出して嵯峨の前に置いた。




