魔物の街 121
「どうする?」
一仕事終わった後だというのに要がカウラに確認を求める視線には緊張感が残っていた。端末を手に何度も操作してみせるカウラの表情も硬い。誠はただ二人を見比べてその奇妙な行動の意味を推測していた。
「クバルカ隊長や茜さんのところでなにか……」
そう言った誠を見るとカウラはこめかみに手を当てる。
「勘はいつでも合格なんだよな、オメエは。現在どちらも通信が途絶えてる。工藤博士の研究室、北博士の個人事務所で何かがあったのは確定だ。どちらも東都警察の機動隊が出動したそうだ」
要の言葉に呆然とする誠。工藤博士の勤務先で誠の母校の東都理科大のキャンパスは東都の都心に近くここからでは間に合う距離ではなく、北博士の個人事務所も繁華街の一等地にあり誠の干渉空間を使用しての瞬間転送などが出来る環境ではなかった。
「でもこれで三人は全員今回の事件に関わっていたことが分かったわけだ。そしてこの研究を闇に葬ることを目的で動いている三人以上の腕利きの法術師を戦力とする組織が動いている」
カウラの言葉に誠は唇を噛んだ。
公然と破壊活動を行う法術テロリスト。それまでの人体発火で自爆すると言う遼州系の左右両翼のテロリストの活動とはまるで違うテロを行う新組織の存在。そしてその登場が地球圏への脅威になりうるとして法術規制で圧力を強める地球の列強が同盟に徹底した取り締まりを求めてきていることは当事者である誠も知っていることだった。
「おい、何しおれた顔してるんだよ」
要の笑顔が先ほどまでの複雑なそれではなく、いつものいたずらっ子のそれに戻っていた。
「今連絡が入った。騒ぎはあったらしいが嵯峨警視正達もクバルカ中佐達も無事だそうだ」
そう言ってカウラは携帯端末をスタジアムジャンバーのポケットに押し込むと立ち上がる。誠も気がついたようにそれに続いた。
「このまま同盟司法局に集合。この数日が山になるぞ」
そう言って早足に部屋に入って来た東都警察の鑑識をやり過ごした三人はそのまま部屋を出た。所轄の刑事らしい男二人が近づいていた。
「あの、保安隊の方……ですよね?」
「法術特捜の権限内捜査だ。時間が無い。報告書は後で署に転送するからそれを見てくれ」
トレンチコートの中年の警部にそう言ってカウラは通り過ぎる。要も頭を下げながらすり抜ける。
「良いんですか?さっきのは所轄の刑事さんでしょ?」
誠がカウラのポケットを指差すが、要はにあに足ながら自分の唇に手を当ててしゃべるなと誠に告げる。マンションの入り口にはすでに黄色いテープが張り巡らされ、日の落ちた初冬の北風の中ですでにその周りには野次馬が集まってきていた。
「どいてくださいよー」
のんびりと要は彼らを押しのけながらカウラのスポーツカーに向かう道を作った。
「凄いものですね」
ようやく車に戻った誠。仕方なく冷えたとんかつ弁当を手に取る。
「残念だな、カウラ」
後部座席で菓子パンにかじりつく要を見ながらカウラは冷えたおでんに箸を伸ばしながら集まってくる野次馬達を眺めながら車のエンジンをふかした。




