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魔物の街 120

「本人の意思ね。でもどれだけの人が自分の意思だけで生きられるのかしら?時代、環境。いろいろと自分の意思ではどうにもならないものもあるじゃないの」 

 あてつけの笑み。そして片桐博士は再びウィスキーのグラスに手を伸ばす。誠は黙って上官の二人を見た。

 カウラは挑戦的な視線を送る片桐女史に感情を殺したような視線を送っていた。要はそもそも目を合わせることもせず、天井にタバコの煙を噴き上げていた。

「それが違法研究に流れたアンタの理屈か?つまらねえことで人生棒に振るもんだな」 

 ようやく片桐博士に目を向けた要の冷たい視線。それに少しばかり動揺したように震える手でウィスキーをあおる。

 その時、外にサイレンの音が響いた。それを聞くと片桐女史は静かに立ち上がった。そのままふらふらと半開きの扉に向かう彼女を立ち上がって要が監視していた。

「大丈夫よ、自殺したりはしないから」

 その挑戦的な視線に怒りをこめた要の視線が飛ぶ。

「これを渡したくて。どうせ機動隊や一般警察の鑑識が知っても意味の無い情報でしょうからね」 

 そう言って部屋に入った片桐女史はそのまま一枚のデータディスクを要に渡した。外では物々しい装備の機動隊員が装甲車両から降車して整列している様が見える。

「あんな連中を呼び出すような物騒なものの研究をしていたんだ。少しは反省……って。その面じゃ無理か」 

 頭を掻くと要は再びどっかと元のリビングの椅子に腰掛ける。その手からディスクを受け取ったカウラは自分の携帯端末をポケットから取り出してディスクを挿入する。

『こちら、東都第三機動隊!』 

 操作中にカウラの端末から機動隊からの通信が入る。

「こちらは同盟司法局法術特別捜査本部第一機動部隊長、カウラ・ベルガー大尉。法術研究に関する同盟法規第十三条に違反する容疑者の確保に成功。別に違反法術展開の現行犯の容疑者が逃走中。データを転送します」 

 事務的に答えたカウラを片桐女史が皮肉めいた笑みを浮かべながら眺めている。

「不思議ね、あなた達。人造人間、サイボーグ、異能力を持った非地球人類。なのになんでそんなに仲良くできるのかしら?コツでもあるの?」 

 誠はこのとき初めて片桐女史の本音が聞けたような気がした。

「馬鹿じゃねえのか?そんなことも分からねえなんて」 

 すぐさま要はタバコを片桐女史が差し出した灰皿ではなく自分の携帯灰皿に押し付けるとそう言ってよどんだ笑みを浮かべながら答えた。

「アタシ等がそんな身の上を思い出すときはそれぞれの長所が見えたときだけだからだよ。いつもはただの人間同士の暮らしがあるだけだ」 

 ドアが開き強化樹脂製の盾を構えた機動隊員がなだれ込んで来る。彼らはサブマシンガンを構えながら片桐女史を見つけると銃口を向けて取り囲んだ。

「あなた、名前は?」 

 取り囲む機動隊員が目に入っていないかのように静かに笑いながら片桐女史は要にそう言った。

「法術犯罪防止法違反容疑で逮捕します」 

 要の答えを待たずに機動隊を指揮していた巡査部長が片桐女史の手に手錠をかけた。そのまま両脇を機動隊員に挟まれて部屋を後にする彼女を黙って要は見送っていた。

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