魔物の街 119
カウラが手を上げて北川の隠れたキッチンの前に要を進めようとするが、それを見ていた誠の腕を片桐博士は振り払って立ち上がる。
「危ない!」
誠が展開した干渉空間ではじくような音が響いた。軽く手だけを出して撃たれた北川のリボルバーの弾丸が鳴らした音だと気づいた要が突入するが、すでにそこには誰もいなかった。
「ったく……」
舌打ちをしながら要が腰のホルスターに銃を仕舞う。そしてそのまま要は土足で片桐博士に歩み寄った。
「なに?」
そう言った博士をあらん限りの敵意をこめた要のタレ目がにらみつける。いつ手が出るか分からないと踏んだカウラも銃を収めて片桐博士を見据える。
「お話、聞けませんかね」
カウラの静かな一言に再び落ち着きを取り戻した片桐博士が元の椅子に腰を下ろした。誠は手にした拳銃のマガジンを抜くとルガーピストルの特徴とも言えるトルグを引いて装弾された弾丸を抜いて腰を下ろす。
「あなた、ゲルパルトの人造人間?」
エメラルドグリーンの光を放つカウラの髪に笑顔を向ける片桐博士。その質問を無視してその正面にカウラ、隣に要が座り、誠は博士の横に座る形になった。
「聞きてえことは一つだ。この前の同盟本部ビルを襲撃した法術師の製造にあんたが関わったのかどうか……」
明らかに嫌悪感に染まった要の言葉、その言葉を聞きながら片桐博士はテーブルの上に置かれたタバコの箱からミントの香るタバコを取り出した。
「法術特捜の捜査権限で事情聴取と考えて言い訳ね、これからのお話は」
冷たい笑顔で三人を見回した後、片桐博士はタバコに火をつける。それをちらちらと見つめる要。
「良いんですのよ、あなたはタバコを吸われるんでしょ?」
明らかにいらだっている要にそう言うと片桐博士は煙を天井に向けて吐いた。
「法術特捜の動きまで分かっているということは、知っていると判断してもよろしいんですね」
念を入れるようなカウラの言葉。タバコをくわえながら片桐博士は微笑む。
「たとえば百メートルを8秒台前半で走れる素質の子供がいて……」
その言葉がごまかしの色を含んでいると思った要が立ち上がろうとするのをカウラが押さえた。要はやけになったようにポケットからタバコの箱を取り出す。
「その才能を見抜いてトレーニングを施す。これは良い事かしら?」
言葉を切って自分を見つめてくる片桐博士の態度にいらだっているように無造作にタバコを引っ張り出した要が素早くライターに火をともす。片桐博士は目の前の灰皿をテーブルの中央に押し出し、再びカウラの方に目を向けた。
「その能力が他者の脅威になるかどうか。本人の意思に沿ったものなのか。その線引きもなしに才能うんぬんの話をするのは不適切だと思いますが?」
カウラの言葉に満足げな笑みを浮かべた片桐女史はタバコをくわえて満足げに煙を吸っていた。




