魔物の街 116
コンビニを出た誠は急ぎ足で国道を進んだ。響くトレーラーのエンジン音に押されてそのまま元来た路地に曲がって坂道を進む。赤いカウラのスポーツカーを見つけ、そのままどたどたと駆け寄ると素早く助手席のドアを開いた。
「馬鹿か?オメエは!ばれたらどうするんだ?」
迷惑そうな声を上げる要。その手に焼きそばパンを握らせると、要は視線を片桐博士のマンションに固定したまま袋を開ける。
「あんまり感心しないが……おでんか」
そう言うとカウラは誠からパックの中に汁と共に入っているおでんを手に取った。
「何かあったんだろ?」
カウラの言葉に誠は静かに頷く。
「北川公平を見ました」
その言葉に勢い良く要は顔を誠に向けた。明らかに非難するようにいつものタレ目が釣りあがって見える。
「なんで知らせなかった!アイツはオメエの拉致未遂事件の重要参考人だぞ!」
「ですが通信なんて使ったらばれてしまうかも知れませんから」
頼るように誠が目をカウラに向ける。カウラは口の中に大根を運んでいるところだった。
「下手に動かなかったのは正解だろ。それにコンビニくらい行くんじゃないか?刑事事件の関係者でも」
のんびりと大根を味わうカウラを諦めたように一瞥した後、要は再び視線を片桐博士のマンションに向けた。
もはや日は沈んでいた。わずかな夕日の残したオレンジの光を今度は家々の明かりが補おうとしているかのように見える。黙って焼きそばパンを口に運びながら監視を続ける要。
「でもいいんですか?北川公平は……」
「良いも何も……片桐女史と関係があるようなら事情を聞くために身柄を押さえるのもいいが、今動けばどちらにも逃げられるだろうからな」
冷静にそう返すカウラ。パンを頬張る要の口元にも笑みが浮かんでいる。
「二人が接触するなら話は別だけど。まあこっちの仕事をちゃんと遂行しようじゃねえの」
そう言うと要は最後の一口を口にねじ込む。
沈黙の中、国道を走る車の音が遠くに聞こえる。通信端末をいじっていたカウラがそれを閉じて要を見た。
「あれ……」
要の声にカウラと誠は視線をマンションへ向かう路地に移した。
買い物袋を手にした北川がそこに立っていた。何度か周りを見回した後、玄関のある方向へ歩き始めるのが見える。
「ビンゴか?」
そう言っている要の口元が残忍な笑みを浮かべているのが見えた。




