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魔物の街 115

 コンビニから出て行く警察官達を見送った誠はそのままパンの棚の前に立った。

 『焼きたて!』と書かれたメロンパン。誠はそのクリーム色の姿を見ると、それがカウラの好物だったことを思い出した。

『カウラさんはメロンが好きだよな。でもメロンパンにはメロンが入っていないわけで……』 

 黙り込んで誠はつんつんとメロンパンを突くと要が食べそうな焼きそばパンを手に取った。

 その瞬間だった。強烈なプレッシャーに襲われた誠はそのまま意識が引いていくのを精神力で無理やり押さえつけて立ち尽くした。

『なんだ?』 

 脳に直接届くような波動。誠は深呼吸をした後、静かにその長身を生かして入り口に一人の男が立っていることを確認した。そしてその顔が誠の脳裏に刻み付けられた男のそれであることがすぐに分かった。

『北川公平……』 

 忘れもしない。夏の海への旅行の際に誠を襲った法術師。干渉空間展開を得意としたその戦い方は誠の比ではない実力を誇る法術犯罪者。

『なんであの男が?』 

 何も知らないというように北川は店内を見回していた。誠はこの男に襲われてから法術の展開をするのに隠密性を重視した展開方法をシャムやランから伝授されていた。実際、ちらちらと誠の顔は北川から見えているはずだが北川はまるで知らないとでもいうようにかごを手に雑誌の置かれたコーナーへ向かう。

 感応通信で北川の存在を要達に知らせようとして誠はためらう。

 北川の能力、それがどの程度なのかは誠も知らなかった。事実、茜の法術特捜の保存データに彼の名前は存在しなかった。その顔が誠に知れたのは反地球テロに彼が学生時代に加担していたデータが東都警察に残っていたと言う偶然があったからだ。

 誠はそのまま入り口に向かい、買い物籠を手にしながら北川を監視していた。誠の存在など知らないとでもいうように北川は漫画雑誌を手にとって読み続けている。そのまま誠は調理パンの置かれた棚に移動しながらちらちらと北川の監視を続けた。

 誰かに見られているということを悟った北川が振り向くのを見て誠はそのまま頭を引っ込めて棚に体を隠した。運良く北川は誠を察知できなかったようで再び雑誌に視線を落とした。

 誠はそのまま要用に焼きそばパンとコロッケパン、そして蒸しパンを手に取り、自分用にとんかつ弁当を手に取るとそのままレジへと向かった。

「いらっしゃいませ」 

 高校生くらいのバイトの店員が誠からかごを受け取って清算を始める。その動きを見ながら誠は手に備え付けの紙皿と呼ぶには深さがある容器を手におでんの容器を見下ろした。

 とりあえず煮卵、はんぺん、牛筋、こんにゃく、大根。それを次々と掬い上げ、そのままレジに運ぶ。バイトの店員は慣れた手つきで清算を進める。誠はちらりと振り返り、北川を見た。

 まるで何事も無いように雑誌を見ている。その様に納得する。

「2350円です!」 

 バイトの店員の前にカウラから貰った三千円を置いた。すぐにレジに札を磁石で貼り付ける店員。誠はその動作を見ながらちらりと北川に目を向けた。

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