魔物の街 114
「なら話は変わるが……神前。オメエが法術を使えると分かったときどう思った?」
ぬるい缶コーヒーに口をつけながら要がつぶやく。誠はしばらく沈黙した。
「正直驚きました。僕にはそんな特別なことなんて……」
「驚いたのは分かるってんだよ。その後は?」
要の声に苛立ちが混じる。こういう時はすぐに答えを返さないとへそを曲げる要を知っている誠は、静かに記憶をたどった。
「何かが出来るような……あえて言えば希望を感じました」
「希望ねえ」
口元に皮肉を言いそうな笑みが浮かぶ。そんな要をカウラがにらみつけた。
「人類に可能性が生まれる瞬間だ。希望があって当然だろ?」
「小隊長殿は新人の肩をもつのがお好きなようで!へへ!」
ぼそりとカウラの言葉に切り返すと、再び要はコーヒーに口をつける。
「その可能性を探求することを断念させられた研究者。その屈辱と絶望が何を生むのか……」
自分に言い聞かせるような要の一言。狭いカウラの赤いスポーツカーの中によどんだ空気が流れる。
「絶望したら違法研究に加担をしていいと言うものじゃないだろ」
「実に一般論。ありがとうございます」
カウラの言葉をまた一言で切り返す要。
「あの、西園寺さん。食べるものとか買ってきましょうか?」
いたたまれなくなって誠が二人の間に割って入った。二人はとりあえず黙り込む。
「パンの類がいいな。監視しながらつまめる奴、それで頼むわ」
要はそう言うとポケットを漁る。だが、カウラが素早く自分のフライトジャケットから財布を取り出して札を数枚誠に手渡した。
「私は暖かいものなら何でもいい」
そう言われて押し出されるように誠は車の助手席のドアを開けていた。人通りの少ない路地。誠は端末を開いて近くの店を探す。
幸い片桐女史のマンションと反対側を走っている国道沿いにコンビニがあった。誠はそのまま急な坂を上ってその先に走る国道を目指した。走る大型車の振動。むっとするディーゼルエンジンの排気ガス。地球人類の植民する惑星で唯一化石燃料を自動車の主燃料としている遼州ならではの光景。だが惑星遼州の東和からほとんど出たことの無い誠にはそれが当たり前の光景だった。
凍える手をこすりながらコンビニの明かりを目指して誠は歩き続ける。目の前には寒さの中でも平気で談笑を続けている高校生の群れがあった。それを避けるようにして誠が店内に入った。
レジに二人の東都警察の制服の警官がおでんの代金を払っていた。
誠はカウラの言葉を思い出しておでんを眺める。卵とはんぺんが目に付いた。しかし、要に菓子パンを頼まれていたことを思い出し、そのまま店の奥の菓子パン売り場を漁ってからにしようと思い直してそのまま誠は店の奥へと向かった。




