魔物の街 111
「マッドサイエンティストってわけ?凄いわね。映画でもなんでもなく実物が見られるなんて!」
「引っ付くなよ!」
歓喜するアイシャにもたれかかられて迷惑そうに避けるラン。誠も少しばかり興味深く目つきの悪い北博士の写真を見つめていた。そしてそのあまりにそのままな事実に苦笑いを浮かべてしまった。
「全人類は法術師、まあこのおっさんは『選ばれた力を持つ神の子』なんて呼んでますが、そいつに進化する過程にあるってことで本を出したり、怪しげな法力開発グッズを売り出したりして多額の借金を抱えていることで有名でしてね」
「なんだよ、それじゃあコイツに決まりとでも言うのか?」
要の問いにヨハンはあいまいな笑みを浮かべる。
「でも全員が臨床と言うより理論の専門家のように見えるんですけど。今回の法術師の研究は明らかに臨床レベルの経験や知識が必要なんではなくて?」
じっと自分の端末を覗きこんでいた茜の言葉。それにアイシャとライラが大きく頷く。
「それなんですが、なんでこの三人を関係者としてあげたのには理由がありましてね」
「軍や政府から利益より被害を多く受けた人物と言うのは共通点だな。一応神前の力を見てから私も調べたからな。この手の研究者で政府と密接な関係に無い人物を探せば当然あがる名前だ」
カウラの一言。隣で要が手を打ち、アイシャが納得したように頷く。
「つまりこの三人ならば調査に法術特捜の捜査権限が生かせると言うことですわね。法術特捜は法術の悪意的使用に関する容疑を立件できることを同盟司法局が認めれば職権にて必要な措置を取ることができる。でも司法局は軍や警察への配慮のためその関係者への捜査の認可が下りることはまず考えられない」
納得したように茜は頷くとすぐさま端末からコードを伸ばして部屋に据え置きの機器に接続した。要も頷き、カウラもヨハンの端末から茜の目の前の画面に視線を移す。
「どういうことなんですか?」
いま一つ状況を飲み込めないのは島田だった。それを見て生暖かい視線を送るヨハン。にらみ合う二人を見てランが口を開いた。
「今回の事件には間違いなく同盟機構や東和政府、東和軍のかかわりがあるってことは感じてるだろ?当然、彼らも危ない橋を渡っているという自覚があるわけだ。さらに遼南レンジャーが捜査に参加したことであちらさんも相当警戒している。特に実際にこれから使えると言う臨床系の技術者を囲っておこうと彼らが思っても不思議はねーだろ?」
「じゃあ見逃せって言うんですか?何人が犠牲になったか分からないんですよ!それにこの技術が今後応用されたらどういうことになるか……」
「正人!」
ランに詰め寄ろうとする島田をサラが押さえようとする。しかし、子供にしか見えないランは動じることなく島田を睨み返していた。
「だからだよ。今回は何がしかの糸口を見つけて研究組織の解体に持っていかなきゃならねーわけだ。シュペルターも三人の名前を挙げたということはこいつ等のうち一人は絡んでいるってことなんだろ?」
ランの言葉に静かにヨハンが頷く。
「この三人なら上の反対も無いだろうから容疑が固まれば身柄を確保できる。取調べが出来ればそこからこの事件の関係者の名前が分かってくる可能性がある」
落ち着いてつぶやくランを見て静かに島田は腰を下ろした。
「逆に言えばこの三人以外は身柄を押さえても無駄と言うことだな」
誠がそう言ってエメラルドグリーンの髪を掻き揚げているカウラを見た。どこへ向けていいのか分からないような怒りがその整った顔に浮かんでいるのを誠は見逃さなかった。




