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魔物の街 110

「まずこの生え際が危ないアンちゃんは工藤俊介博士。生理科学から法術研究に入った法術研究者としては変り種の人物だ」 

 ヨハンはそう言うと頭髪の後退した一見50過ぎにも見える男の写真を拡大する。良く見れば張りのある肌からその年齢が30位であることが誠にも分かった。

「法術の持つアストラル領域からエネルギーの物質変換を行って体細胞の復元を行う特性に注目した鬼才。5年前にその研究で東都生理学の博士号を取得した逸材と言うことになってる。まあ法術の特性なんかに言及したせいでお上の法術を無いものとして扱いたい事情から冷や飯を食わされて、理論研究の論文を東和国防軍に提出して研究費を稼いでいた時期もあったらしいから金が欲しい研究者の筆頭だな」 

 苦笑いを浮かべるヨハン。そして画面には工藤博士が軍に提出した論文の題名が次々とスクロールされていく。

「かなりの量なのか?これは」 

 ランの言葉にヨハンの苦笑いが真剣なものに変わる。

「まあ異常と言っていいんじゃないですかね。東和軍は別に法術研究の部署を秘密裏に組織していましたから。そこにこの御仁が呼ばれなかったのは論文の一部に致命的な欠陥があるんですが……かなり専門的な話になりますが?」 

「オメエの講釈なんか聞きたかねえよ。つまりこの御仁の論文の欠陥を東和軍の連中は知ってて次々と理論展開をさせてたわけだ。ひでえ話じゃねえか」 

 要のタレ目を一瞥した後、ヨハンは画面に女性研究者の写真を表示する。

「片桐芳子医学博士。こちらの方は大脳生理学が専門でしたが、遼州系の脳波の一部に特殊な作用がある。つまり法術を展開することが理論的に可能になると言う現象から法術研究に入った、いわば王道ともいえる研究履歴のある人ですな」 

 目つきは明らかにカメラをにらみつけているようにも見えたが、その目鼻立ちのはっきりした美女と呼べる姿を誠が見つめていると隣のアイシャが足を思い切り踏みしめてきた。

「うっ……痛!」 

 誠の口から漏れた悲鳴にざまあみろと言う表情を浮かべる要。それを一瞥した後ヨハンは話を続けた。

「当然、東和軍なんかの研究者もこう言う経歴の持ち主には緘口令を敷くわけですが、三年前にとある女性誌の働く女性を紹介すると言うような記事で、口が滑ったと言うか法術の存在をほのめかすような発言をしてそれが政府の逆鱗に触れましてね」 

「よくいるわね。口の災いで自爆する人」 

「アイシャ。オメエはかがみを見る必要がありそうだな」 

 カウラの一言に誠や要を見回すアイシャ。全員が大きく頷いているのを見て下を出しておどけて見せる。

「それからは常に監視をつけられていたと言う話を聞いていますよ。事実その発言から一度も学会に論文を発表していない。事実上干されたわけです」 

 ヨハンは一度あくびをした後、再びキーボードを叩き始める。

「そして最後が北和俊博士。一番の変り種と言えばこの人なんですがねえ」 

 そう言ったヨハンの口元に呆れたような笑いが漏れる。誠は画面に映る苦虫を噛み潰したような表情の眼鏡の男に目を移した。

「この顔は見たことあるぜ。テレビかなー……書店で見たのかねー」 

 首をひねるラン。誠もそう言われると記憶の底にこの渋い表情があることに気づいた。

「一時期テレビに出てましたね。怪しげな都市伝説ばかり紹介するバラエティー番組で解説を担当していたのは俺も知ってますよ」 

 島田の言葉にヨハンが頷く。

「覚えがいいな准尉。この人は東都大の大脳生理学研究室出身で博士号を取った後すぐにアメリカに留学。だがそこで何を吹き込まれたか知りませんが法術と神の奇跡の区別がつかなくなっちゃった人でしてね」 

 冷ややかな笑みが辺りを覆った。

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